あああああ
水曜を1時間ばかり超えてしまいました![]()
不規則な仕事なので
たまに身動き取れない日もありまして…(言い訳![]()
夜は特に家事優先しないとだったりもして
深夜にしか時間取れないことありますよね(言い訳その2![]()
墓じまいの続きも遅れまくっていますが
必ず書きます!![]()
それでは、前回の続きをどうぞ
母が家出をした直後のお話です![]()
***母というひと055話***
父が来たのは、約束どおり二日後だった。
これで、母が私に「次の休みに来て」と電話をして来てから
四日が経ったことになる。
まんじりともせずに待っている私に向かって
「おう、来てたか」と笑いながら入って来た父親の軽さにショックを受けた。
「見て、これ」
ともかくも手紙を手渡し、読んでもらう。
それを読めば父も深刻さを理解すると思ったからだ。
しかし父はざっと目を通し
「なんだ、心配しないでくれって書いてあるじゃないか」と言い出した。
「は?それは方便でしょ?」
「お前さんが心配しすぎだよ。
この箱だって俺への面当てなだけさ。よくまあこんな事やらかしたなあ」
目の前で会話している相手の話を理解できないというのは心地が悪いものだが
この時はまさにそんな感じだった。
父は私の中では、常に理論的に話をする意思の伝わりやすい相手だったのに
今はまるで違う。
この食い違う気持ち悪さは
一体どうすればすり合わせられるのだろう?
「いや、面当てでここまでするような性格じゃないでしょ?
とにかく警察に電話しよう。もういなくなって数日経つんだし」
私はなんとか深刻に考えて欲しくて説得を試みた。
もしかしたら言葉を探して
金魚みたいに口をパクパクさせていたかもしれない。
そんな私を見て父は笑った。
「大げさだなあ」
笑ったのだ。
本当に声を上げて、ハハハと。
「どうせ今頃どこかで温泉にでも入って
父さんの悪口言いながら一杯やってるよ。
落ち着いたら帰ってくるさ」
言葉や声、イントネーション、表情を私は注視した。
本気で言っているのかどうか、手がかりを探って。
例えば娘の前でこれ以上弱いところを見せたくなくて虚勢を張っているとか
事態を認めたくなくて笑おうとしているとか
何か一箇所でも不自然なところが見えれば、そこを糸口にして
どうにか捜索願を出させるところまで会話を押して行きたかった。
でも、父の笑顔に曇りがない。
声に迷いもない。
……悪びれた感じすらも。
そのあっけらかんとした様子に、混乱がひどくなる。
母が何日もかけてまとめた荷物や
震える文字で書かれた手紙の深刻さと
父の乾いた態度を秤に掛けることができなくなってしまって。
じわじわと、父の様子に心が引きずられ始める。
本当に母の暴走が過ぎただけで
父の言う通り、どこかで大好きな温泉に浸かっているのかも
という疑いが頭をもたげた。
ついさっきまで震えるほどの不安を抱えていたのに。
「実は前にもあったんだよ、こんなことが」
父が少し顔を歪める。
「え?」
「前にケンカした時に母さんが
『出て行ってやる』と言って、本当に出て行ってなあ。
後から聞いたら、別府に帰って一人で温泉に入って
憂さ晴らししてたと言うんだよ。今回だって同じだろうよ」
別府にはもう祖母はいない。
でも母にとっては、今でも帰りたい故郷に違いなかった。
東京の私の小さなアパートに一晩泊まっただけで逃げ帰った人が一人旅を満喫するのは
あまりイメージとしては重ならないが、父が言うなら本当なんだろうと考えた。
「あ。新聞、解約しないと……」
ふと目に入った新聞の契約書を深い意味なく手に取ると
父は鋭い言葉で私を突いた。
「なんだお前さん、仕事が早いな」
それはまるで、母は帰ってこないのだと考えている私の考えを見透かして
責めるようなニュアンスを含んでいた。
ズキッと胸が痛む。
(そんなつもりじゃない)とは思うが反論の言葉がうまく出なかった。
「解約してくれって手紙に……」
「そんなの従う必要ないだろう。どうせ帰ってくるんだから」
そうね、とは返せずに沈黙した。
母がいなくなってからずっと薄暗く見えていた家の中に
父だけが普段と変わらない明るさを放って立っている。
なんだこの違和感は。
父は「うん」と大きな声を出して周りを見渡した。
「状況は分かった。もう帰るからな」
「え?!」
「ここに俺がいたって仕方ないだろう。
お前さん、悪いが母さんが帰ってくるまで時々家を覗いてやってくれ。
何か連絡があったら電話くれな」
唖然とする私を置いて、父は後ろ手を振ってさっさと出て行った。
座って話す暇もなかった。
滞在時間は、よく覚えていないけれど30分もあっただろうか。
私は腰が抜けたようにヘタヘタとその場に座り込んでしまった。
職場には、親の体調が悪く付き添わなければならないので
午後出勤にして欲しいと頼んでいたが
うまく立ち上がれず、結局は全日休みのお願いの連絡を入れた。
あまりの展開にショックを受けた上に
嘘をついて休みの申請をする後ろめたさで
エネルギーは一気にマイナスに落ち込んだ。
明日から、何でもない顔をして仕事ができるだろうか。
(一体、何がどうなってるの?
父さんを信じて本当に良いのか……)
100%父親が正しいとはもちろん思っていなかった。
けれど、父の意見を押し切って捜索願を出すこともできなかった。
此の期に及んで私はまだ
親の命令に逆らえない習慣が拭いきれていなかったのだ。
***続く
普通と自称する母の、とても普通とは言い難い人生を綴っています。
noteでは全話無料公開しています。
母というひと-001話(母の人生の前提部)
母というひと-048話(転換期)
母というひと-051話(そして現在へ)
