愛酒の日。『歌人若山牧水の誕生日』 | ザスタのクマさん

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夏の終わりの酒には、陽気さよりも、
胸の底に沈んでいたものをそっと
浮かび上がらせる力がありますね。

八月二十四日を愛酒の日と呼ぶそうである。
酒を愛した歌人若山牧水の誕生日にちなむという。
牧水は明治十八年八月二十四日に生まれ、
酒を友とし、旅を友とし、また寂しさを
友とした人であったらしい。
そう思うと、この記念日はただ盃を重ねて
興を競う日のようには思われぬ。

むしろ一滴の酒のうちに、
人の胸の底へ沈んだものを
そっと映してみる日のようである。






夏の末の空には、言いようのない白さが残っている。
入道雲はもう勢いを失ったはずなのに、
昼の熱だけはなお地上に居残って、庭の草も、
軒の影も、どこか疲れたように見える。

こういう夕べ、ふと硝子の杯を手に取ると、
酒は舌の上で燃えるのでなく、胸の奥の静かな
場所へ落ちてゆく。人は酔うために飲むのではない。
忘れるためでもない。忘れたと思っていたものの輪郭を、
かえって薄明かりのうちに見出すために飲むのである。







遠い日の声、去っていった人の背、言葉にならなかった悔い、
そういうものは昼の光の下では姿を見せぬ。
だが、夜気がわずかに庭木を鳴らし、盃のふちに口を
寄せるころになると、胸の底の沈黙がかすかに目をさます。

その沈黙は悲しみというほど重くはなく、
歓びというにはあまりに淡い。ただ人がひとりで
生きていることの、どうにもならぬ余情である。
酒はその余情に名をつけず、ただ寄り添う。

愛酒の日とは、酔態を誇る日のことではあるまい。
一杯の向こうに漂う、記憶と寂寥とを、
静かに味わう日のことであろう。

夏の果てにこそ、人はようやく心の微かな物音を聴く。
その物音に、酒はまことによく似合うのである。




最後までご覧頂きありがとう。

今日が良い日となり、

明日がさらに素晴らしい日となりますように晴れ。

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熊谷 



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