今までのお話し ![]()
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柚葉が泣き止み、落ち着きを取り戻した後、涼は彼女を労わるように、
「 柚葉と磯崎の結婚が破談になっていたこと・・・この前、知ったよ。
もう8月に、とっくに報道されていたことだったのに、
オレ・・・修行僧で、テレビのない生活をしていたから、
なかなか情報が得られなくって・・・。
柚葉は、磯崎と結婚して、幸せに暮らしているって思っていたのに・・・。 」
Dプロダクション社長・磯崎が暴力団とつながっていた事実が原因で、
柚葉と磯崎の結婚が破談になり、彼女がプロダクションを移籍した後、
苦労が重なっていることを、涼は想像していた。
それは現実に涼を目の前にして、泣き崩れた彼女を見ていて、
察しがついたのだった。
「 磯崎が暴力団とつながっていたことは、ショックだった。
とても紳士的な人だったのに・・・人間って、わからないって思ったわ。
カイトは覚せい剤、磯崎は暴力団・・・。
私は自分の男運のなさを呪った。
・・・あっさりと見切りをつけた私は結婚をやめ、
磯崎と、つながっていたくなくって、Dプロダクションから、
Aプロダクションに移籍したわ。
Aプロダクションは、私の移籍を歓迎してくれたけれど、
世間の目は厳しくって、婚約者だった私は磯崎と同様の目で見られ、
ファン層も減った。
その上、今までチヤホヤしてきた周りの連中にも、
私は手の平を返された。
いい仕事が来なくなって、今まで主役を張っていた私には、
悪役や殺される役がくるようになり、
挙句の果てには三流カメラマンから、ヌード写真集の依頼までくる始末・・・。
週刊誌にも ”悪女・柚葉” ”男をダメにする女・夏樹柚葉” と書き立てられ、
カイトのことも、磯崎のことも、私のせいだという意味合いで書かれた。
どうして?
私が何をしたっていうの・・・・?
何度も、そう叫びたくなった。
それからというもの私は殺到する脇役や悪役の仕事を、
容赦なく断るようになった。
味方になってくれていたAプロダクションの社長にも、愛想を尽かされたわ。
その上、Aプロダクションに所属する女優たちから、
密かに私はニックネームを付けられていた。
”窓際の女王さま” ・・・。
どんな意味だか、わかる?
選り好みし過ぎて、結局、全く仕事が無くなり、
隅に追いやられた我が儘な女優っていう意味よ。
そう言われても仕方がないとは、わかってはいても、
私のプライドはズタズタになった。 」
「 ・・・柚葉・・・。 」
「 ・・私は自暴自棄になったわ。
世間や芸能界で、悪いレッテルを貼られた私は、もう終わりだと思い、
女優を引退しようと思った。
でも女優は、私の愛した仕事・・・未練はある。
私の頭の中で、モデルから女優に転身した頃から、現在までのことが、
コマ落としのように映像化されて甦った・・・。
懸命に努力して主役を勝ち取った頃のこと、
妥協せずに、とことん役作りに専念していた頃・・・。
自分の実力が、世間や芸能界で認められた時の喜び・・・・。
挙句の果てに・・・・自分を ”特別な人間” だと勘違いし、
私は・・・・少しずつ嫌な女に変わっていった・・・・。
それに・・・・ ”柚葉は、人を利用して心が痛まなかったの?” 。
涼に投げ掛けられた言葉・・・。
自分を見つめ直すことができたと同時に、
ずっと忘れられなかった、その言葉も私の目を覚まさせる、きっかけになった。
私は今まで、何をやってきたんだろう?
そしたら・・・その時、涼とカイトに無償に会いたくなった。
2人が、私のことを憎んでいたって、構わないと思った。
でもリゾートホテルで別れた以来、涼は居場所がわからなかったし、
携帯にかけても、ずっと通信が不可能な状態だったから、
私は、療養所にいるカイトに会おうと思ったの。
カイトも芸能界を引退している。
どんな思いで、引退したんだろうと想像したら、
今の自分と重なって胸が苦しくなった。
だから療養所で未だに頑張っているカイトを励ましたくなった。
私がカイトを見捨ててしまったことは事実。
励ますことで、私はカイトに謝りたかったのかも・・・。
そう決めたら、なんだか気持ちが楽になってた。
こんな私にも純なとこが、まだ残っていることに、ホッとした。
ここでカイトに会って、早く社会復帰できるように励まし、勇気づけたら、
芸能界引退のことを社長に話すつもりだった。 」
「 そうだったのか・・・。
それでカイト先輩に会いに・・・。 」
「 カイトは覚せい剤依存で、未だに苦しんでいるのね・・・。
でも・・・涼が毎月、ここに来て励ましてくれるから、
ここから逃げ出さずに、頑張っているんだと言っていた。
また芸能界に復帰して、生まれ変わったつもりで、
一からやりたい・・・歌いたいって言っていたわ。 」
「 そうだよ。
カイト先輩は頑張っている。
覚せい剤依存は、想像を超える辛さだとは思うのに、
カイト先輩は自分の弱さに負けずに、ここで自分と闘ってる。 」
「 そうよね・・・カイトは闘っているのよね。
そんなカイトのことを、私は ”弱い男” だなんて言っていたのね。
自分が恥ずかしい・・・・。
私は、復帰に向けて頑張っているカイトの姿を見て、涙が出た。
女優・夏樹柚葉を離れた、一人の女として泣いていた。
カイトは、さっきの涼のように、私を思いっきり泣かせてくれたわ。
おまけに今の私の置かれている立場を知っているらしくって・・・。
”オレや涼と一緒に頑張らないか?
女優として、役に成りきっている夏樹柚葉も、オレは好きだ。
ずっと柚葉には輝いていてほしい” って・・・。
すごく嬉しかった・・・その半面、罪悪感もあった。
私はカイトを裏切り、見捨てて、涼と関係を持った上、
今度は涼を裏切り、お金や地位がある磯崎と結婚しようとした女。
私はカイトに憎まれ、軽蔑されていても、当然だって思っていたのに・・・。
カイトは、それを全部、承知の上で、誰にでも間違いがあるさと、
私を励ましてくれた。
カイトを励ますつもりで、ここに来たのに、
私ったら、逆にカイトに励まされていた。
カイトだって、自分のことで苦しんでいるのに・・・。 」
「 柚葉・・・オレ、全部、話したんだ。
柚葉とオレとのことも・・・・全部・・・カイト先輩に・・・。
そしたらカイト先輩 ”涼は悪くない” と言い、
オレを責めようともしなかった。
柚葉のことだって ”柚葉に、そんな行動をさせたのはオレだ” と言って、
今でも、ずっと柚葉のことを心配している。
カイト先輩が一番の柚葉のファンだと、オレは思う。 」
「 カイトが・・・・今まで私を・・・心配・・・してくれてた・・・。 」
涼の言葉に、再び柚葉は涙ぐむと、
「 でも女優の仕事を続けるのなら、
女優・夏樹柚葉として、私は、また自分を演じ続けなければならない。
私は、もう自分を演じることに疲れていた。
そしたらカイトは、こう言ってくれたの。
”演じるのは、ドラマや映画の中だけでいいじゃないか。
女優・夏樹柚葉は、本来の柚葉でいいんだ。
気を張ろうとするな、気取らなくっていい。
自分の気を抜ける場を持つんだ”
私・・・カイトの言葉に、肩の力が抜けていく感覚を覚えたわ。
それに今日、涼にも会えたこと・・・なんだか奇跡みたい・・・。
あなたの純粋な気持ちにも、私は励まされた・・・ありがとう・・・。
私は、カイトと涼に助けられたのね。
私、女優を続ける。
カイトからは頑張る力をもらい、涼からは背中を押された。
涼だって、死のうと思うほどに追い詰められていたのに、
やり直すことができた。
だから・・・だから・・私も心を入れ替えて、一から出直す。
辛いことは、まだまだ続くかもしれないけど、覚悟をしているわ。
どんな役の仕事でも、私だけにしか出来ない役作りをして、
また女優としての格を、自分の実力で上げてみせる!! 」
「 そう・・・・よかった。
それでこそ柚葉だ。
柚葉とカイト先輩・・・それにオレ・・・。
抱えている夢は、それぞれに違うけれど、
3人で頑張ろうよ。
オレだって、仲間が増えて、張り合いがある。
・・・・そうか・・・仲間なんだ、オレたち。 」
「 そうね・・・仲間なのかもね!! 」
ハンカチで涙を拭きながら、初めて柚葉が声をあげて笑った。
カイトと涼、カイトと柚葉、涼と柚葉・・・。
先輩後輩、男と女の関係を持っていた過去よりも、
つながりの深い、あたたかい関係が築けたことを、2人は実感していた。
それは、きっとカイトも同じなのかもしれない。
「 ところで涼の今の夢って何?
カイトに聞いてもね、涼の許可を得なければ話せない。
男と男の友情の中のことだから・・・って、話してくれなかったのよ。 」
ーー”男と男の友情” か・・・・カイト先輩・・・・。
カイトの言っていた言葉に涼は、ジワジワと喜びを感じながらも、
「 それはね・・・。 」
彼も、はにかんで、なかなか話そうとしない。
「 早く、言いなさいよ!! 」
しびれを切らしたかのように、柚葉が笑って、涼の腕を掴み、引っ張った。
ーーこんな柚葉、初めて見た!!
「 その前にメイクを直したら?
メイクが崩れても、柚葉は綺麗だけどね。 」
「 もう!!
はぐらかさないで!!! 」
コンパクトを手にし、笑う彼女の笑顔が、等身大の23歳の女の子の輝き、
美しさに、涼には見えていた。
~~~
柊也、美生、涼の間に、爽やかな空気が流れた。
「 あのあと柚葉と別れてから、カイト先輩と面会をしたんだ。
カイト先輩の表情は明るかった。
柚葉とのことを、嬉しそうに、オレに話してくれた。
だからオレも、先程、柚葉と会えたことをカイト先輩に、包み隠さずに話したよ。
その日、オレは、柚葉とカイト先輩から、元気をもらえた。
オレも2人には負けられない、また頑張ろうって・・・。 」
「 カイトとも、柚葉さんとも、いい関係を築けて、
よかったね・・・涼・・・。
涼が一生懸命に生きている、ご褒美だって、私には思えるの。
真っ直ぐに生きているからこそだよ・・・涼!!
あっ・・・そうそう・・・ところで・・・涼の今の夢って? 」
「 うんうん・・・オレも、それが気になる。
涼!!
勿体ぶらずに、早く話せ!! 」
2人に突っ込まれた涼は、目を輝かせながら、
自分の夢について、やっと話しだした。
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