ダッフィー 登場人物 ダッフィー


ミッキー 山下美生 ・・・ K音大3年生 ピアノ専攻

             長身の童顔

             料理上手 花が好き 努力家

             柊也の母親・響子と同じ空気、温度を持つ


ミッキー 森田柊也 ・・・ 同音大3年生 バイオリン専攻

             整った顔立ち

             泳ぎが得意 話題が豊富


ミッキー 中垣(立石)忠雄 ・・・カフェ・クレッシェンドでピアノの仕事をする

                柊也の父親

                昔、プロのピアニスト兼K音大ピアノ講師


ミッキー 中山康史 ・・・ 昔、K音大で、忠雄の同僚だった

             楽天的 大学内で忠雄の唯一の味方


ミッキー マスター ・・・ カフェ・クレッシェンドを経営

            話し好き 人懐っこい

            昔の忠雄と響子を知る人物


ミッキー 立石ソヨ子 ・・・ 忠雄の元妻

              独占欲が強く、忠雄を束縛する

              彼女の忠雄への本心は・・・はてなマーク


ミッキー 森田響子 ・・・ 柊也の母親

             天真爛漫である反面、意外と繊細な面も・・・。

             大人っぽさ、子供っぽさが垣間見える20歳



デールダッフィー 今まで の お話し デールダッフィー


「プロローグ」


「1」  「2」  「3」  「4」  「5」  「6」  「7」  「8」  「9」  「10」


「11」  「12」  「13」  「14」  「15」  「16」  「17」  「18」  「19」  「20」


「21」  「22」  「23」  「24」  「25」  「26」  「27」  「28」  「29」  「30」


「31」  「32」  「33」  「34」  「35」  「36」  「37」  「38」  「39」  「40」


「41」  「42」  「43」  「44」  「45」  「46」  「47」  「48」  「49」  「50」


「51」  「52」  「53」  「54」  「55」  「56」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

             


初めてカフェ・クレッシェンドに来店した時のことを、

話していた中垣は、話しを中断すると何を思ったのか、少しだけ笑顔になり、

「 あれから響子にアンコールが何回続いたと思う? 」

柊也と美生を交互に見て聞いてきた。

「 う~ん・・・オレは2回ぐらいかな・・・って思います。 」

柊也が自信なさげに照れて答えると、

「 なら・・・私は3回。

  響子さんは、アンコールの前に3曲弾いています。

  個人差もあるかもしれないけど、

  これ以上はピアノを弾く体力だって、限界に近いって感じます。 」

微笑みながら美生も続いて答えた。

今まで緊張感が漂っていたカフェ・クレッシェンドの雰囲気は、

響子の話しをしている中で、いつの間に穏やかな空気に変わったようだった。

マスターが柊也と中垣にはコーヒーを、

美生には紅茶を、新しく淹れ替えてくれた。

「 2人とも残念ながら違ってる。

  響子は5回、アンコールを受けた。 」

驚く柊也と美生に、中垣はまた笑って見せると、

「 確かに美生ちゃんの言うように、体力にだって限界があると思う。

  でも響子は最後の5回まで笑顔で応えた。

  マスターが5回で止めなかったら、アンコールの声に応えるがままに、

  きっともっと弾いていたかもしれない。

  とても根性がある女だった・・・。 」

「 母さんに、そんな一面があったなんて・・・。 

  オレ、4歳までしか母さんのことを知らないから、

  記憶の中では、よく母さんが ”夜想曲” を弾いてくれたことや、

  散歩したことしかなかったんです。

  ・・・とは言っても、その記憶だって、どこかあやふやで危なっかしくって、

  ハッキリとした記憶とは言い難い・・オレの脚色も混ざっていたと思います。

  でも、その記憶のカケラが、オレには大切な宝物でした。

  少ない記憶のカケラの中で、オレにとっての母さんの人格って、

  優しかったり、時には叱られて怖かったり・・・。

  そんな大まかな人格でしかなかったんです。

  だから母さんに関することは、

  オレを育ててくれた祖父母から聞くしかなかったけど、

  なんだか聞きづらかったことや、オレ自身が強がって、

  あまり聞いたことがなかったので、

  今、中垣さんから、母さんの違った一面が聞けたことが嬉しかったです。

  オレ、沢山のアンコールに、

  懸命に応えようとする母さんを誇りに感じます。 」

夢中になって柊也が自分の思いを、中垣に告げると、

「 柊也くん。

  響子は自分の腹の中のことを、ストレートに口にしてしまう女だった。

  だから時には誤解を招くこともあったとは思う。

  でも響子は自分を偽らない。

  自然体そのものだったんだよ。

  最初はボクは、響子のことをよく知らなかったせいか、

  あつかましい、無神経な女だと思っていたが、

  それは間違いだった・・・響子を少しずつ知るうちに、

  ボクの響子に対して感じるものが変わっていった・・。 」

ーーそれは私の柊也に対する気持ちの変化と同じ。

美生は、柊也にどこか似ている響子の人格を想像した。

「 響子はピアニストとしても、人としても、いい女だったよ。 」

中垣は軽く吐息を吐くと、続きを話し出した。

~~~

客人たちのアンコールの声に、

5曲まで自分のレパートリーを弾いた響子だったが、

6回目のアンコールにも応えようとしたものの、

マスターに止められ、彼女の演奏タイムは終了した。

「 響子ちゃんの演奏をまた聴きに行くよ。 」

「 素晴らしい演奏をありがとう。 」

「 明日も頑張れそうだ! 」

客人たちは口々に響子を褒め称えた。

「 ありがとうございました!! 」

彼女が笑顔で頭を下げると、拍手は一層に大きくなった。

ーー不思議な子だ。

   こんなに客人たちから愛されるピアニストを見たのは初めてだ。

   ピアノの方はまだまだ荒削りだけど、

   人を惹きつける力や存在感を持っている。

   何よりも、あの子の持つ ”自信” がモノを言っている。

忠雄は驚くばかりだった。

「 響子ちゃんの演奏、よかったでしょ?

  演奏だけでなく、あの子の持つ人柄も・・・。

  あの子は、この店の看板みたいなものでね。

  ここにいる常連さんたちは、最初、あの子には全く無関心だったのに、

  あの子は少しずつお客さんたちの目や耳・・・心を、

  自分に向かせていった。 」

マスターが忠雄の様子に気付き、小声で話し掛けてきた。

忠雄が相槌を打ちながら、響子の方を見ていると、彼女は楽譜を胸に抱え、

カウンター席に座る、忠雄の方に歩み寄り、彼に挨拶をした。

「 立石講師! 

  お忙しいと思うのに、今日は、ここに来て頂いて、ありがとうございました。

  ここに来て頂けただけでも嬉しいのに、

  私の演奏まで聴いてもらえたことは、本当にラッキーでした。 」

「 こちらこそ、こんな美味しいコーヒーを飲ませてもらえたことと、

  心を惹く演奏を聴かせてもらい、ありがとう。

  中山くんに紹介してもらって、よかったよ。 」

忠雄は本心から、お礼を言った。

「 あれ?

  響子ちゃんは、このお客さんと知り合いなの? 」

2人の様子を見ていたマスターが尋ねると、

「 はい!

  立石講師は、私が通っているK音大のピアノの講師の先生なんです。 」

「 へぇ~そうだったの?

  響子ちゃんが教えてもらっている先生なの? 」

「 いいえ・・・。  

  直接の講師ではないのが残念には思うんですけど・・・。

  私・・・立石講師の受け持ちの友人たちが羨ましくって!

  立石講師は優しくって、紳士で、ハンサムなのは、もちろんのこと、

  教え方も上手だって、評判なんですよ!

  だから私の講師でもあったなら、よかったのに・・・って・・。

  あっ・・・これじゃあ私が教えてもらっている中山講師に失礼ですね。

  中山講師が聞いていたら、怒られちゃう・・イジケてしまうかしら?

  ・・・中山講師もユニークな講師で、私は大好きです。

  立石講師に、ここを紹介してくれたのも、中山講師だったし・・・。 」

ーーこの子は失言してしまった後のフォローの仕方を心得ている。

   ストレートな言い方をしてしまい、

   失敗を重ねながらも得た知恵なんだろうな。

   意外と気を遣っているし、頭のいい子なのかもしれない。

人間観察の好きな忠雄は響子を、そう分析した。

「 あっ・・・マスター!!

  それに立石講師って、現役のプロのピアニストでもあるんです。

  ”如月柊也” という名前で活躍されているんですよ!! 」

「 えっ?!立石さんはピアノの講師の他に、

  プロのピアニストでもあるの?

  これは驚いた!!!

  すごい人にワタシはコーヒーを淹れていたんだね。 」

「 すごい人だなんて、とんでもないです。

  ボクはどこにでもいるただの普通の男です。 」

ーー無力で弱い・・・・。

忠雄は心の中で ”無力で弱い” と付け加えた。

そんな忠雄の表情を、響子が訝しげに見ていたことを、彼は気付かなかった。

数分後、客人たちが一人、二人と帰っていき、

ウエイトレスの中年女性も、忙しい時間帯のピークが過ぎたこともあり、

仕事を終了させると自分の家庭へと帰っていったので、

店内は忠雄とマスターとウエイトレスの手伝いをしていた響子だけになった。

もう時刻は20時半に差し掛かるところ・・・。

幸いにも妻・ソヨ子からの着信もない。

コーヒーを3杯飲み、夕食を済ませた忠雄は、

もうそろそろ店を出ようと、重い腰を上げた。

「 マスター、ご馳走様でした。

  つい長居をしてしまって、申し訳ない・・・。 」

「 いいんだよ。

  ここに来るお客さんには、ゆったりとした時間を過ごして欲しい。

  長居してくれたことは、くつろげたと、ワタシは解釈している。

  ワタシにとっては、とても嬉しいことだったよ。

  ここでは自分の家にいるつもりで、くつろいでほしい。

  こんな店でもよかったら、また、いつでもおいで!

  待っている。 」

ーー”自分の家にいるつもりで・・・” 。

「 ありがとうございます・・・マスター。 」

マスターのあたたかい言葉に、忠雄が胸を熱くしていると、

「 立石講師!

  もう帰られるんですか? 」

響子の問いかけに、彼が頷くと、

「 また来てくれますか?

  あっ・・・ごめんなさい、私って目下のくせして図々しいかも・・・。 」

「 あぁ、また来るよ。

  毎日は無理だけど、やっと居心地のいい場所を見つけたから・・・。 」

「 やっと居心地のいい場所・・・・見つけた? 」

忠雄の言ったことの意味を知らない響子は、彼の顔をジッと見つめた。

「 すまない・・・訳のわからないことを言ってしまって・・・。

  気にしないでくれ。 」

忠雄が笑ってみせると、彼女は安心したのか、

「 立石講師に一つだけお願いがあるんです。

  今度、来店した時は、一曲弾いてもらえませんか?

  私・・・聴いてみたいんです。

  立石講師のピアノを・・・・。 」

講師であり、プロのピアニストでもある忠雄に対して、

全く恐れず、率直に、お願いをする響子に、彼は内心驚きながらも、

「 わかったよ。

  キミの願いを聞く事にしよう。

  次回、来店した時に一曲弾く。

  キミがバイトしている曜日は何曜日だっけ? 」

「 月曜と木曜です。 」

「 そう・・・。

  ならばキミの好きな ”夜想曲” でどうかな? 」

忠雄は先程の演奏タイムのアンコールの時に、

響子が ”夜想曲” をお気に入りの曲だと言っていたことを思い出して、

そう提案した。

「 はいっ!!

  ありがとうございます!! 」

「 響子ちゃん、よかったね!! 」

一緒に喜んでくれたマスターの手を取り、

嬉しがっている響子の満面の美しい笑顔が、忠雄には、とても眩しく見えた。

~~~





中垣は、ここまで話しをすると、カウンター席にいるマスターの方を向き、

「 あの時のマスターの言葉。

  ”自分の家にいるつもりで、くつろいでほしい”

  ”また、いつでもおいで!”

  ボクには、どんなに嬉しかったか・・・。

  マスターの言葉、あたたかい笑顔に、

  ボクは救われた気持ちになりました。 」

「 そう・・・よかった・・・本当によかった。

  実は初めて、ここに来てくれた中垣さんを見た時、

  ワタシは、何か大きなものを抱え込んで、苦しんでいるように思えたんだ。

  だから、そんな言葉を掛けずにはいられなかったんだよ。

  ここがキミにとって ”居心地のいい場所” になったことが嬉しい。

  それに無垢な響子ちゃんの存在も、キミを変えてくれたね。 」

マスターは目を潤ませた。

「 マスター、ありがとう。 」

中垣は ”ありがとう” という言葉に、自分のありったけな思いを込めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇