登場人物 ![]()
山下美生 ・・・ K音大3年生 ピアノ専攻 21歳
背が高い 童顔
森田柊也 ・・・ 同大学3年生 バイオリン専攻 もうすぐ22歳
天真爛漫
工藤涼 ・・・ 美生の高校時代の同級生 元カレ 20歳
ボーカリストを目指していた
夏樹柚葉 ・・・ 若手人気女優 23歳
Dプロの社長との結婚が破談
カイト(種橋海斗) ・・・ 元ボーカリスト 23歳
覚せい剤依存症のため、芸能界を引退
今までのお話し ![]()
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涼と柚葉は、お互いに、どう言葉を掛けていいのかさえもわからずに、
しばらく立ち尽くし、沈黙したままだったが、
先に言葉を掛けたのは涼の方だった。
「 久しぶり・・・柚葉・・・。
カイト先輩に会ってきたんだね? 」
「 会ってきたわ。
それにしても本当に・・・涼なの?
まるで別人みたい。 」
柚葉が驚くのも無理もない。
ハンチング帽を被っているとはいえ、彼が頭を丸めていることは、
一目瞭然だった。
「 オレだよ・・・涼だよ・・柚葉。
今、或る寺院で修行僧として、お世話になっているんだ。 」
「 涼が自分の子の埋葬されている寺院で修行僧をしていることは、
さっきカイトから聞いたわ。
でも・・・頭まで丸めているだなんて・・・。
涼の気持ちは半端ではないのね。 」
驚きの表情を隠せない柚葉・・・。
涼の記憶の中では、柚葉は掴み所のない女というイメージがあったが、
再会した彼女に違和感を感じた涼は思い切るように、
「 ねぇ・・・時間ある?
少し話しがしたいんだ。 」
「 ・・・いいわ。
私も涼と話しがしたいと思ってたの。 」
「 なら、療養所の裏庭に行かない?
あそこなら、塀が高いから、外部からも目に付かないし、
柚葉にも、その方がいいだろう? 」
「 ありがとう・・・涼。 」
柚葉は携帯を出し、
療養所の門の外の車の中で待機しているであろうマネージャーに、
遅れる旨を連絡すると、
「 行きましょう。 」 と微笑んだ。
2人は裏庭に出ると、ベンチに腰掛けた。
涼は柚葉に対して・・・、柚葉は涼に対して・・・、お互いの疑問がある。
涼の疑問は、どうして柚葉が、カイトに面会する気になったのか・・・だった。
ところが問い掛けようと息を吸い込んだ時、先に彼女が問い掛けてきた。
「 涼は、どうして修行僧になったの? 」
ほんのタッチの差で、出遅れたと感じた涼だったが、
彼は優しく微笑んで見せると、
柚葉に騙され、利用されたとわかった、あの日、自殺を決心したが、
何かやり残していることがあるように強く感じ、死ぬことができなかったこと。
その、やり残したことが、
未だに一度も自分がしていなかった、殺めてしまった我が子への謝罪、
そして元カノや家族への謝罪だったと気付いたこと。
だが元カノや家族には会う勇気がなく、
我が子に対してだけでも謝罪してから死のうと決心し、水子寺院に向ったこと。
寺院の住職の慈悲深さに心を打たれ、自分の罪を悔い改め、
また生きていこうと決心し直したことなどの、これまでの経緯を柚葉に話した。
すると彼女は涙目で涼を見つめ、
「 ・・・ごめんなさい・・・涼・・・。
涼を、そこまで追い込んでしまった私は、本当に嫌な女だった。
私・・・涼が、あの時に言った言葉が、ずっと忘れられなかったの。
”利用して、心が痛まなかったの?”
”命まで利用する材料に使うの?”
私は純粋に自分を愛してくれた涼を、命を材料にして利用した。
自分のことしか考えていなかった。
・・・今になって、私は何様だったんだろうって思う。
ごめんなさい・・・。 」
「 柚葉・・・。 」
プライドが高いはずの柚葉が素直に自分の非を認めたことに、
涼は驚きながらも、笑顔になると、
「 あの時は、もう死ぬことしか、頭になかったのは確かだった。
けど・・オレ・・今、生きてる。
生きていて、よかった。
生きてるからこそ、やり直すことが出来たし、
また柚葉に会えた。 」
「 涼・・・。
どうして?
私を憎んでいるんじゃないの? 」
「 憎んだことなんて、一度もなかったよ。
柚葉だって、いろいろと辛かったんじゃないか? 」
優しい眼差しで、じっと見つめる涼の視線のあたたかさに、
堪えられなくなった柚葉は泣き出した。
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涼は、柊也と美生を見つめると、
「 柚葉の涙は、決して演技でも、嘘でもなかった。
思い存分に泣いた後、柚葉は、こう言ったんだ。
”私・・・生き方を間違えてしまってた。
モデルから、女優に転身したばかりの時、純粋に嬉しくって、
与えられた仕事を、どんな役柄でも、一生懸命にやっていたはずだったのに、
人気が上がっていき、周りからチヤホヤされ、
ゴールデンタイムのドラマや、
話題の作家の原作した映画の主演になったりするうちに、
いつの間にか、自分を特別な人間だと勘違いするようになった。
挙句の果てには、自分の地位、名誉を不動にしたいがために、
人を踏み台にして、自分のグレードを上げることや、
保身することばかりを考える女になっていた。
自分にとって利益が得られそうな人を利用したり、
ライバルの女優を巧妙な手で罠にハメて、蹴落としたり・・・。
そうやって人を利用したり、踏み台にすることを、今まで何度も繰り返してきて、
最初のうちは罪悪感があったはずだったのに、
それを、なんとも思わなくなってしまうなんて・・・。
感覚が麻痺することって怖いこと。
涼が言った言葉が、ずっと頭の中に残っていて、
私の目を覚まさせてくれたように思う。
それに今まで女優・夏樹柚葉のイメージを抱えて、
生きていかなければならなかったから、
仕事以外の時間でも、私は自分を演じるようになっていた。
感情のない人形みたいな生き方をしていた” ・・・って・・・。
なんだか柚葉は、子供の頃のオレと、どこか似ているって、
その時、初めて思った。
オレも ”いい子” を演じて生きてきたから・・・。
だから女優・夏樹柚葉を演じてきた柚葉の苦しみが、よくわかった・・・。 」
穏やかに、そうつぶやくと、更に彼はつづきを話し始めた。
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