デールダッフィー 今までのお話し デールダッフィー


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柚葉は、しばらく可笑しそうに、含み笑いをすると、

「 涼、ごめんなさい。

  妊娠してるなんて、嘘なの。 」

「 えっ?! 」

涼には、彼女の言ったことを理解するのに、時間が掛かった。

「 ・・・・・・・・柚葉は、オレを騙していたの?

  どうして? 」

やっとのこと、言葉を発した涼に、柚葉は言った。

「 そうね・・・騙していたのかもね。

  私は、ただカイトと別れたかったの。

  あんなに異常に私に執着する男は初めてだった。

  きっと覚せい剤の影響で、イカレていたんだわ。

  その上、疑(うたぐ)り深かった。

  私は何度も ”他に男がいるんだろう?” と、しつこく聞かれた。

  そのことでカイトは、私を散々、怒鳴り散らしたかと思うと、

  怒鳴ることに疲れるのか、急に大人しくなって、決まって、こう言うの。

  ”オレには、柚葉が必要なんだ。

   もしも別れたいと言うのなら、オレはお前を殺して死ぬ”

  護身用ナイフを出して、脅されたこともあったわ。

  だから怖くって、別れを告げることもできないままに、

  ズルズルと付き合ってしまったのよ。

  もちろん警察に、突き出すことも考えたわ。

  でも・・・そんなことをしたら、カイトの覚せい剤所持・使用があからさまになり、

  私にだって、所持・使用の疑いが掛かる。

  たとえ疑いが晴れたとしても、世間の私を見る目が変わる・・・。

  私はね、カイトの覚せい剤所持・使用には無関係でいたかったの。

  今でもマスコミには ”知らなかった” を通しているわ。

  泣く演技をしてまでね。

  私の看板は ”清純派女優” だから・・・。

  女優にはイメージダウンは命取りなの。

  あんな男のために、自分の女優生命を短命にはしたくないわ。 」

「 ・・・・そうだったのか・・・。

  柚葉は結局、自分の手を汚したくなかった・・・。

  だから・・・オレを利用し全てをやらせようと考えた。

  そうだったのか?

  そうだったのかよ・・・。 」

「 涼には・・・悪いと思っていたわ。

  でも・・・・あなただって、いい思いをしたじゃない。

  やだっ・・・女の私に言わせないでね。

  あなたが、私に気があることは、わかっていたわ。

  あなたの ”願い” を叶える代わりに、私も利用させてもらったの。

  だからフィフティー・フィフティーよ。

  悪く思わないでね。 」

「 違う・・・誤解しないでくれ。

  オレは・・・柚葉と寝たかったとか、

  そういう浅はかな気持ちなんか、なかった。

  本気で・・・本気で愛していたのに・・・。 」

「 私だって、切羽詰っていたのよ!

  だから、あなたみたいな子供と寝たの。

  その上、私が、あなたの子を妊娠していると ”演じなければ” 、

  いつまで経っても、

  カイトのことを崇拝する、あなたが行動を起こさなかったからよ。 」

「 だからって!!

  オレの気持ちを利用したのか? 」

声を荒げる涼を見て、マネージャーの高松が、

ソファーに座る柚葉の斜め前に立ちはだかった。

それは彼女を護衛するための行動だった。

「 フフフフッ・・・・。

  私が、あなたみたいな20歳そこそこの経済力すらない子供を、

  本気で愛する訳ないじゃない。

  私は、もうすぐ23歳よ。

  現実的なモノの考え方ぐらいするわ。

  私はね・・頼りになる大人の男の方が好きなの・・・。

  でも・・・涼のルックスは、私好みだったし、

  キスは、大人の男にも匹敵するくらいに、上手だったわ。 」

柚葉は涼を小ばかにするように笑うと、隣に座る磯崎社長の肩に、

自分の頭を乗せ、もたれ掛かった。

磯崎社長は、そんな彼女の肩を抱き寄せた。

柚葉、磯崎社長の間に ”ただならぬ関係” を匂わす空気が漂った。

「 ・・・柚葉・・・・・。 」

驚きで何も言えずにいる涼に向って、磯崎社長が口を開いた。

「 涼くん・・・キミが柚葉に本気になる気持ち、わからなくもないよ。

  こんな、いい女、芸能界でも、なかなかいないからな。

  その上、柚葉は天性の魔性を持っている。

  だから元々、柚葉に気のあるキミを虜にさせ、

  思うがままに操ることを、ワタシと柚葉で考えたのさ。

  案の定、まんまとキミは、柚葉の虜になった。

  でもカイトに思い入れが強いキミは、なかなか行動を起こさなかったから、

  柚葉には ”妊娠している” という ”演技” をさせた。

  ・・・とはいえ、いくら仕組んだ作戦だって、

  柚葉がキミに抱かれている姿は想像もしたくなかった。

  なにせワタシは嫉妬深い性質なんでね。

  単なるドラマの撮影だって、自分に強く言い聞かせ、

  嫉妬心で高ぶる気持ちを抑えていたよ。 」

「 あなたも一緒になって、オレを・・・?

  信じられない・・・・。

  大人がやることですか? 」

「 信じられない?

  これが大人の世界さ。

  まだ子供のキミには理解できんかもしれないがね。

  馬鹿正直では、生きてはいけないよ・・・涼くん。 」

「 オレは・・・大人が、みんな、そうだとは思いたくありません。

  真っ直ぐに生きている人だっているはずです。 」

「 そう思いたきゃ、思っていればいいさ。

  キミは損な性分だな。 」

磯崎社長は、涼を上から目線で見ると笑った。

「 柚葉とは・・・いつからなんですか? 」

「 彼此・・・カイトが覚せい剤をやっているって、わかった頃かな。

  柚葉は、ワタシに何度か相談を持ち掛けてきた。

  そのうち愛し合うようになり、男と女の関係になったって訳さ。

  お互いに独身同士だし、問題ないけどね。

  あぁぁぁ・・・そうそう。

  柚葉とは結婚する。

  もう極秘で結納も済ませた。

  2ヶ月後ぐらいには、記者会見を開く予定だよ。

  カイトの不祥事が原因で、破局した傷心の柚葉を、

  社長のワタシが慰めているうちに、

  お互いに恋愛感情が生まれた末のスピード電撃結婚・・・・そういう筋書きでね。 」

「 チクショウ・・・・。

  お前ら、みんな、グルになって、オレやカイト先輩を・・・。 」

「 なんだ?

  その口の聞き方は?

  カイトの不祥事がなければ、キミにはプロになるチャンスは無かっただろうに・・・。

  今回の話し、キミに断られたことだし、ハッキリと言わせてもらうと、

  ワタシたちが、キミを騙し、利用したことに対し、

  口封じのために与える、慰謝料のようなつもりだった。

  なかなかキミは ”いい仕事” をしてくれたしね。

  そう・・・改めて綺麗な言い方をさせてもらうと、

  ワタシがプロになるチャンスを与えてやったのは、

  キミを騙してしまった罪滅ぼしと、感謝から・・・なんだよ。

  涼くん・・・キミは、確かにビジュアルがいい。

  歌唱力だってある。

  だが、それだけの男は、掃いて捨てるほどにいる。

  たとえキミが、カイトの不祥事の上に、大ブレイクを果たしたとしても、

  その大ブレイクの維持は長くは続かないだろう。

  一発屋で終る可能性が高い。

  キミには、大勢の人間を惹きつけ、虜にできる天性の魅力がないからね。

  ・・・とはいえ、キミには曲作りの才能はあるようだ。

  こればかりはワタシも認めなければならないな。

  どうだい?

  そっちで、キミを拾ってあげてもいいが・・・? 」

「 ふざけるな・・・・・。 」

涼のプライドは、ズタズタにされた。

磯崎社長はフッと笑うと、とどめを刺すかのように、更に言葉をつないだ。

「 キミって、そんな大きな口が叩ける立場なのかい?

  柚葉が妊娠していると、まんまと騙されたキミは、

  結婚まで考えたそうだね。

  それにキミが異常に子供に執着するような言い方をしていたことに、

  柚葉は驚いていたんだ。

  だから何かあるなと思い、調べさせてもらったよ。 」

「 ・・・まさか・・・? 」

「 そう・・・その、まさかさ!

  キミは高校3年生の秋に、交際していた女の子を妊娠させた上に、

  暴力を奮って怪我をさせ、お腹の中にいた子供まで殺してしまったそうだね?

  それも当時、キミのバンドのキーボードをしていた女の子だそうじゃないか。

  キミのバンドのライブの映像にも、バッチリと映っていたよ。

  愛くるしいくらいに可愛い子だな。

  キミみたいな男に傷ものにされてしまって可哀想に・・・・。

  凶暴なキミは、本来なら警察に突き出され、

  傷害罪になって前科を作ってしまうところを、

  その女の子や家族の、キミを思う心遣いで間逃れることができた。

  ワタシはね、そんな ”前科者” のキミの過去に目を瞑って、

  拾ってあげようとしているのに、

  キミは、ワタシの心遣いを無碍にするつもりかい? 」

「 オレは・・・あなたなんかに拾ってもらう気はありません。

  さっきもお断りした通りです。

  馬鹿正直だと笑ってもらっても構いません。

  ・・・それと・・・・・あなたの言っていることは事実です。

  身勝手で、傲慢だったオレは、

  唯一、理解者だったはずの元カノを傷つけ、

  暴力を奮って怪我をさせ、自分の子供を殺してしまった・・・。

  心の底では、取り返しのつかないことをしてしまったという後悔や、

  元カノを傷付けとしまった痛みを感じてはいたのに、

  その頃のオレは、自分の音楽に対するプライドを捨てられなくって、

  意地を張り、悪ぶり、強がって、反省もせず、

  元カノや、その家族の人たちに対して、

  一言も誠意を込めた謝罪をしなかった。

  ・・・・あなた方のお陰で、たった今、初めて自分の犯してしまった罪と、

  きちんと向き合うことができました。 」

頭を下げ、部屋を出ようとする涼に、慌てた磯崎社長は、

「 おいっ・・・待てよ!

  ここでのこと、マスコミにバラすつもりか?

  キミは馬鹿だよ。

  ワタシのプロへの誘いを、素直に受け入れ、口をつぐんでくれていたら、

  一発屋で終ってからも、フォローしてやるつもりだったのに・・・。

  もしも・・・マスコミに、ここでのことを喋ったら、ワタシは手段を選ばずに、

  どこかにキミが身を隠していても、必ず捜し出し・・・潰す。 」

彼の脅しには動じず、涼は、きっぱりと言った。

「 今日のことや、オレが利用されていたこと、騙されていたこと・・・。

  ”柚葉のために” 何も無かったことにします。

  マスコミにも口外するつもりは、全くないので、ご安心ください。 」

”柚葉のために” それは涼の最後の、精一杯の、柚葉への愛情表現だった。

「 でも・・一つだけ、あなたたちに、お願いがあります。

  ・・・・・・オレが口外しない代わりに、

  カイト先輩の曲をオレが作っていたことも、口外しないでください。 」

彼が、磯崎社長を真っ直ぐに見て、丁寧に頭を下げると、

「 涼・・・・あなたって馬鹿よ。 

  どうして利用できるものを、利用しようとしないの?

  せっかくのチャンスだったのに・・・。 

「 ・・・・もう・・人を利用したり、踏み台にしたり、オレには無理だ。

  心が痛むんだ・・・・この痛みは、ずっと消えない・・・。 」

涼の脳裏には、元カノである ”山下美生” の顔が浮かんでいた。

「 柚葉は、オレを利用して、心が痛まなかったの? 」

「 ・・・涼・・・。 」

「 それと・・・自分の子を殺したオレが偉そうに言えることではないけど、

  これからも ”妊娠している” と、

  誰かを騙したりするようなことは、やめて欲しい。

  柚葉は ”命” まで、利用する材料に使うの? 」

「 ・・・・・・・・・・・・・・・。 」

「 ・・・さようなら・・・柚葉・・・。 」

涼は、しばらく悲しげに柚葉を見つめた後、俯き足早に部屋を出て行った。

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