登場人物 ![]()
山下美生 ・・・ K音大3年生 ピアノ専攻 21歳
森田柊也 ・・・ 同大学3年生 バイオリン専攻
美生のアンサンブルのパトートナーであり恋人
工藤涼 ・・・ 美生の高校時代の同級生、元カレ 現在20歳
夏樹柚葉 ・・・ 人気若手女優 カイトの恋人だった
涼とも関係を持つ
カイト(種橋海斗) ・・・ 涼の中学時代の2年上の先輩
ミュージシャン 覚せい剤依存症
今までのお話し ![]()
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カイトのことを話す涼の表情は険しいままだった。
「 あれからオレは、オンボロな上、お風呂が付いてないけど、
家賃の安いアパートを見つけ、バイトとしてコンビニで働きだした。
どんなアパート、どんな仕事でも、あの頃のオレには、とても有難く思えた。
コンビニのシフトの空いた時間に、カイト先輩の様子を見に、
面会に通っていたよ。
カイト先輩は、もうオレを罵倒しなくなったけれど、
相変わらず覚せい剤依存は治まらず、涙を流してまで、
”あれ” を買ってくれ、家に帰りたいって、オレに懇願するんだ・・・。
・・オレは覚せい剤の怖さを、改めて痛感した。 」
そして彼はやり切れなさそうに溜息を吐くと、
「 柚葉には、まだ会えずにいた。
唯一、オレが柚葉に会えるのは、電気屋に置いてあるテレビだけだった。
それも再放送のドラマだ。
画面の中、役を演じる美しい柚葉に会えるのは嬉しかったけど、
彼女が妊娠していると思うと、心配は絶えなかったよ。
オレの頭の中は、柚葉のことばかりだった・・・。
そんな日々を送っているうちに、カイト先輩が逮捕されて、
4ヶ月が経った・・・今年の5月・・・。 」
~~~
カイトが逮捕されて、4ヶ月後の5月。
彼は引退の表明をし、プロダクションの社長が代理として記者会見が行われた。
そして涼の生活のサークルはというと、
コンビニのバイトや、カイトの面会で回っている日々だった。
涼は、まだ柚葉との関係や、彼女が自分の子を妊娠している事実を、
カイトに話せずにいた。
カイト自身は、柚葉の心が自分には、もう向いていないことを、
少しだけ気付いているようだが、
彼がショックを受ける姿を見るのは、やはり辛い・・・。
それでも近いうちに話して、決着をつけなければならない。
ズルズルと引き伸ばしていると、カイトに対して余計に気の毒だ。
涼は、たとえカイトに許してもらえないとしても、
柚葉とのことで彼を裏切っていたことを、正直に打ち明けようと決心していた。
そして柚葉と涼の関係はというと、変わらずに連絡は、
時々、携帯で取ってはいたが、涼の方から、柚葉に電話をすることはできない。
彼女からの着信を待つのみだった。
ーー柚葉・・・早く会いたい。
お腹の中の子は、もう6ヶ月だと言っていた。
カイト先輩のことが影響して、テレビには、あまり顔を見せてない。
柚葉は、心配しないで、大丈夫よ・・・とは言っているけど・・・。
実際に会って顔を見ていない分、涼には彼女が心配でならない。
そこに携帯の着信音が響いた。
~~~
「 着信は柚葉からだった。
柚葉は ”これからのことを話し合いたい”
”あなたにとって、とってもいい話しがある”
”電話ではなく、直接、会いたい”
そう言い、日時と場所を指定してきた。
オレは ”いい話し” の内容が気になったが、久々に柚葉に会えることが、
嬉しくってたまらなくって、指定されたリゾートホテルまで足を運んだ。 」
柊也と美生に、そう話しながらも、涼の表情は曇るばかりだった。
~~~
指定された日時に、リゾートホテルの柚葉の待っている部屋1106号室の前に立ち、
呼び出しチャイムのボタンを押した涼は、
久しぶりに彼女と会うことにドキドキしていた。
ーー柚葉に会ったら、最初は思いっきり抱きしめたい。
そのあと、オレは正式に、もう一度プロポーズする。
お腹の中の子のためにも、オレは父親になりたい。
柚葉を幸せにしたい。
20歳の成人の男になったとはいえ、涼の精神面はまだ子供だった。
現実的な目が備わっていない。
仕事が固定していない涼にとって、柚葉との結婚生活は過酷なはずだった。
結果的には人気女優の柚葉に、涼は養ってもらう形になってしまうかもしれないのだ。
涼の男としての面子(めんつ)は立つのか?
彼の頭の中は、まず愛する柚葉と産まれてくる子供と3人で、
一緒に暮らすことしかなかった。
ーー生活のスタイルは、これから柚葉と話し合えばいい。
柚葉だって、これからのことを話し合いたいって言っていたし・・・。
彼女との結婚生活を想像し、涼が浮かれていた、その時・・・。
1106号室のドアが開いたのだった。
「 柚葉・・・会いたかっ・・・・ 」
ーー柚葉じゃない・・・・。
ドアを開けた人物を目にした涼は、
自分の顔がジワジワと蒼白になっていくのを感じるほどの、
大きな衝撃を受け、混乱した。
ーー柚葉・・・どうして?!
開かれたドアの中には、スーツ姿の見知らぬ男が立っていた・・・。
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