登場人物 ![]()
山下美生 ・・・ K音大3年生 ピアノ専攻 21歳
森田柊也 ・・・ 同大学3年生 バイオリン専攻 21歳 美生の恋人
工藤涼 ・・・ 美生の高校時代の同級生 元カレ 20歳
カイト(種橋海斗) ・・・ 涼の中学時代の2年先輩 ミュージシャン
夏樹柚葉 ・・・ カイトの恋人 若手人気女優
今までのお話し ![]()
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涼は大きくうな垂れると、
「 ミウッペ・・・・オレって最低だろう・・・? 」
涙声で、そう呟いた。
「 涼・・・。 」
美生には言葉が出てこなかった。
「 美生・・・涼は理性を保てなくなってしまったんだよ。
状況も状況だったし、理解してあげてほしい。 」
「 ・・うん・・・わかってるよ・・・柊也・・。
私・・涼のこと、責めるつもりはない。 」
柊也の言葉に頷く彼女を申し訳なさげに見つめた涼は、
「 ありがとう・・・・ごめん・・・。 」 と小さく呟くと、また話し始めた。
「 その日を境に、オレと柚葉は、男と女の関係になってしまった。
カイト先輩の目を盗み、たびたび柚葉とは密会していた。
柚葉は、オレにとって ”愛する一人の女” ではあるけれど、
時には ”姉” であり、”母親” でもあった。
カイト先輩への裏切りになるなんて、どうでもよくなるくらいに、
オレは、もっと柚葉に溺れていった。 」
「 涼と柚葉が男と女の関係になってからも、
カイトと柚葉は続いていたのか? 」
柊也の問い掛けに、
「 ・・・あぁ・・・続いていたよ。
カイト先輩は覚せい剤の影響からなのか、
とても疑り深く、攻撃的になり、
柚葉が他の男と関係を持っているんじゃないかとか、
しつこく追求するようになっていたらしい。
それでも彼女は、決してオレとの関係を洩らさなかった。
カイト先輩は柚葉に、こう言っていたらしい。
”オレは、柚葉だけを愛してる・・・悔しいくらいに、お前の虜だ。
お前を愛し過ぎて・・・不安なんだ。
・・もしも他の男と関係を持っていたら、お前を殺す” と・・・。
柚葉は怖くなって、ますます別れを告げられないままだったんだ。
だから彼女はカイト先輩と付き合いながらも、
オレとも関係を持つ日々が、しばらく続いていた。 」
~~~
涼と柚葉が、男と女の関係になってから、3ヶ月後。
カイトの覚せい剤中毒は、あれからまた進行し、
奇怪な言動までするようになった彼は、
表向きは体調の不調を理由に、無期限で活動を休止した。
そして、ほとんどカイトはマンションに引きこもった。
覚せい剤の入手方法はというと、
今までG座のクラブのママさんの知り合いを通して、直接、購入していたが、
その知り合いがインターネットでも売買しているとのことで、
インターネット購入し、デリバリーしてもらう方法に切り替えていた。
覚せい剤が切れて、所持の分が無くなると、カイトは苛立ち、
涼が横取りしたと疑う始末で、潔白を信じてもらうまで、涼は苦労したのだった。
そんな、こんなで、カイトと一緒に暮らしている涼にとって、
彼の変貌は見るに堪えられないものだった。
これまでのカイトの奇怪な言動から、密かに彼の麻薬中毒を疑うマスコミが増えた。
そんな心苦しい日々を送る中、柚葉のマンションに涼はいた。
カイトには ”買い出しに行く” と嘘をついて、出てきている。
寝室のベッドの中、涼の胸に抱かれて、柚葉は、まどろんでいる。
愛おしげに、柚葉を見つめた涼は整った唇に、そっとキスをすると、
彼女が囁くように呟いた。
「 ・・・・私ね・・・。
涼に言わなければならないことがあるの。 」
「 えっ?
何? 」
「 何を言っても驚かない? 」
「 あぁ・・驚かないよ。 」
「 マネージャーの親戚のお医者さんに極秘で診察してもらったんだけど、
・・・・・・・私・・・・・妊娠しているの・・・。
2ヶ月らしいわ。 」
「 ・・・妊娠?
オレの子? 」
涼の問い掛けに、柚葉は目を伏せて頷くと、
「 間違いなく、涼の子よ。
・・・・こんなことを言うのは、なんだか嫌なんだけど、
実は・・・カイトは4ヶ月前ぐらいから、私を抱けなくなった・・・。 」
「 ・・・・そうか・・・・そうなのか・・・。
柚葉は、お腹の中の子を、どうしたいの? 」
恐る恐る聞く涼に柚葉は答えた。
「 ・・・どうしたいって・・・・何?
中絶するのが当然でしょ。
私はカイトと別れられないのよ。
それしかないわ。 」
「 ・・・・・・・。 」
涼の頭の中に或る人物の言っていた言葉が甦った。
”どうして?簡単に中絶という言葉で片付けようとした?”
”芽生えていた命に対して、どうして真摯に向き合わなかったんだ?”
それは元カノ・山下美生の父親が言った言葉だった。
ーーミウッペ・・・美生・・・・・。
彼は自身で封印したはずの名前を思い浮かべた。
ーーオレは・・・・自分の子を殺した・・・。
再び自分の中に生じた罪の重さを掻き消し、それを忘れようとするかのように、
涼は思わず叫んだ。
「 すぐに中絶をしようだなんて、思わないでくれ。
柚葉にとって、お腹の中の子にとって、
どうしたら一番いいのか、真剣に、よく考えてから、
もしも・・最悪・・・中絶という結論に達してもいいじゃないか? 」
「 涼? 」
「 ・・・・・・オレ・・・柚葉のこと、愛している。
だからオレは・・・産んで欲しい・・・
愛する柚葉のお腹の中にいる子が、オレには愛おしいんだ・・・。 」
涼は自分の発した言葉に、自ら驚いた。
ーーオレが・・・?
子供が嫌いなはずのオレが・・・?
こんなことを言うなんて・・・・。
オレは柚葉を本当に愛している?
今まで本気で女を愛したことのなかったオレが・・・・。
それとも柚葉の魅力に惑わされている?
・・・・・惑わされていてもいい。
彼女のためなら、自分を犠牲にしても構わない。
柚葉への思いの深さを改めて自覚した涼は、その勢いで、
「 柚葉と・・結婚したい・・。
お腹の中の子を産んで、オレを父親にしてくれ。
柚葉が女優の仕事を、ずっと続けたいと言うのなら、
オレは全面的に協力する。
だから・・・・。 」
彼のプロポーズを黙って聞いていた柚葉は、
「 嬉しいわ・・・涼・・・。
でも・・・ちゃんとカイトと別れなければ、
あなたと結婚して、赤ちゃんを産むことは無理になるわ。
私・・・カイトが怖い。
カイトは、私の男性関係に目を光らせている。
私が映画で共演した相手役の俳優のことまで疑うくらいに・・・。
もしも私と涼の関係を知ったとしたら、
今のカイトなら、本当に私を殺しかねない・・・・。 」
「 柚葉・・・大丈夫だよ。
オレが付いてる。
今は柚葉の方が大切だ。
何があっても、オレは、柚葉を守るよ。
愛してる・・・・柚葉・・・・。 」
彼は柚葉のお腹に優しく触れると、彼女にキスをした。
「 涼・・・。 」
カイトが覚せい剤を所持・使用していることを知ってから、
涼には迷っていたことがあった。
でも、それを決断することは、自分の夢を諦めることになる。
カイトの言っていたことが、頭の中に響いた。
ーー”お前の運命は、オレが握っているんだ。
バラしたら、お前も使用を疑われ、オレと同罪の目で見られる。
そしたらプロになれないんだぞ”
もういい・・・プロになることなんて・・・。
所詮、夢に過ぎなかったんだ。
人殺しのオレが、花道で脚光を浴びるだなんて、
身の程知らずなことだったんだ。
それにオレはカイト先輩を通して、プロとしての苦悩を思い知らされた。
・・・・オレの決断は、カイト先輩のためでもあるんだ・・・・。
「 柚葉・・・オレに考えがある。
絶対にカイト先輩とは別れさせるから・・・。 」
柚葉への愛情、自分が追っていた夢への絶望感、
カイトへの思い・・・そして自分の罪・・・。
それらが涼を決心させ、奮い立たせた。
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