登場人物 ![]()
山下美生 ・・・ K音大3年生 ピアノ専攻
背が高い 童顔
料理上手 少し頑固
森田柊也 ・・・ 同大学3年生 バイオリン専攻 経済学も学ぶ
ひょうきん 熱い男
泳ぎが得意
工藤涼 ・・・ 美生の高校時代の同級生、彼氏だった
当時、軽音部のバンド・ボーカル
プロになる夢を持つ
山下礼司 ・・・ 美生の3歳上の兄
当時は大学生で、アパートで一人暮らし
何でも万能で優秀
大学生の間だけ、雑誌のモデルの仕事をしていた
今までのお話し ![]()
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7月末、大学の夏休みで実家に帰ってきた兄の礼司に、美生が涼のことを話すと、
彼は ”可愛い妹の頼みだから” と快く承知してくれた。
礼司は涼を、自分の所属しているモデル事務所に案内してくれると言う。
一緒に暮らしていた頃は、言い合うことや、喧嘩も多かったのに、
大学進学と共に、礼司がアパートを借りて、離れて暮らすようになってから、
お互いの良さを、初めて感じ合うことができるようになったからなのか、
礼司とは以前よりも、もっと仲の良い兄妹になれたように、美生には感じられる。
ーーパパやママなんかよりも、
お兄ちゃんの方が私のことを理解してくれる。
物事を冷静に判断して、私に的確なアドバイスをくれるのは、
いつもお兄ちゃんだ。
その代わりダメなことは、ダメだと、ハッキリと言われることもあるけど、
納得できる理由づけをお兄ちゃんは言ってくれる。
美生は両親に話せない相談事を礼司にメールなり、電話なりして、
相談するようにもなっていた。
もちろん涼と付き合っていることも、礼司にしか、彼女は話していなかった。
涼との約束の日。
アポイントを取ってあるモデル事務所まで、車で行こうということになり、
礼司が運転する車の後部座席に美生も同乗し、
涼の住むアパートまで迎えに行くと、彼はアパートの前で待っていてくれた。
「 涼!おはよう!!
ちょっとだけ渋滞にハマッちゃったの・・・ごめんね。
結構、待った? 」
車の後部座席の窓から、叫んだ美生に、涼は一瞬だけ視線を移したが、
彼女には顔を背け、運転席にいる礼司を見つけて、ツカツカと歩み寄ると、
「 お兄さん、はじめまして!
工藤涼っていいます。
美生さんには、とてもお世話になっています。
やっぱり雑誌のモデルをやっているだけあって、
お兄さんって、超イケメンですね。
すごく憧れちゃいます。
今日は時間を作ってもらって、ありがとうございます。
実家で、ゆっくりしたかったとも思うのに、申し訳なかったです。
モデル事務所の人たちには、失礼のないようにしますので、
よろしくお願いします。 」
いまどきの高校生らしからぬ涼の模範的な挨拶に、
礼司は面食らった顔をし、笑ってみせると、
「 そんなに、かしこまらなくってもいいよ!
涼くんのことは、美生から聞いているよ。
バンドのボーカルをやってるんだって?
プロになりたいっていう夢があるんだろう? 」
「 はい!! 」
「 涼くんは、美生の彼氏だし、
今日はキミの夢の手助けが、少しでも出来ればなって思ってる。
よろしく!! 」
「 はいっ!!! 」
涼と礼司、2人のやりとりを傍で見ていた美生は、疎外感に似た寂しさを感じた。
ーー涼は、さっき声を掛けた私を、一瞬、見ただけで顔を背けた。
あんな涼って、はじめて・・・。
涼の中の大切なものって、私よりも夢の方なの?
うううん・・・私は夢を追って、輝いている涼が好きなんだもん。
”私と夢と、どっちが大切なの?”
なんて聞くような女の子になるつもりはない。
私は涼のために、出来る事をするだけ・・・。
涼は、そんな私をまた愛してくれる・・・絶対に・・・。
まるで涼が遠い存在になり、自分のことなど見向きもしなくなるのではないかという、
恐怖に襲われた美生だったが、即座に彼女は、それを否定した。
「 失礼します! 」
涼が後部座席の美生の隣に座った。
「 ミウッペ、おはよう!
今日はありがとな。 」
いつもの彼の笑顔を見て、彼女はホッとしている自分に気付いた。
~~~
美生は柊也に、ここまで話すと、
「 お茶を淹れ直すね。 」
スッと立ち上がり、台所まで行くと、ヤカンのお湯を温め直すために、
コンロの火を点けた。
「 ごめん・・・オレがやらなきゃならないことなのに・・・。 」
柊也がバツが悪そうにすると、彼女は微かに笑った。
ヤカンのお湯は、すぐに沸騰し、
お茶を淹れ直すと、美生は彼にマグカップを差し出した。
「 ありがとう・・・美生。
同じお茶でも、美生の淹れてくれたお茶は、一味違うかも!
なんちゃって!! 」
嬉しそうにマグカップに口をつける柊也を見て、美生は続きを話し出した。
「 あのあとね。
お兄ちゃんの所属していたモデル事務所に、涼を連れて行ったの。
でも・・・その時の涼は、私が今まで見たこともなかったくらいに、
妙に大人びていたの。
まるで別人だった。
それに礼儀正しいばかりではなく、驚くほどに涼は話術が巧みで、
さりげなく自分の良さをアピールすることを忘れていなかった。
モデルとして採用されるかは、後日の連絡で・・・となったけど、
事務所の人たちに、涼が好印象を与えたことは確かだった。
でも・・・お兄ちゃんだけは涼に感じるものが違っていたの・・・。 」
~~~
モデル事務所を後にして、昼食前に涼をアパートまで送り届け、
車中で美生と2人っきりになると、礼司は口を開いた。
「 美生。
アイツはやめておけ。 」
「 えっ?どうして? 」
「 オレが、どうしてアイツを昼食にも誘わず、
真っ直ぐアパートまで帰したか、わかるか?
一分足りとも、一緒にいたくなかったからだ。 」
「 ・・・・・・・・・・・・・・・・。 」
「 アイツは自分のことで、頭がいっぱいな男だ。
自分がのし上がっていけるなら、
周りを平気で踏み台にするような冷酷さがある気がする。
美生も気付いていたんじゃないか?
オレや事務所の人たちの前では、
気持ち悪いくらいに ”いい子” だっただろう?
けどアイツの目は、終始、冷たかった。
自分にとって、得がありそうな人間に、ヘイコラする男だ。
オレは、そういうヤツは信用できない。
悪い事は言わない・・・別れろ。 」
「 うううん・・・お兄ちゃんは誤解してる!
今日の涼だって、涼なんだよ。
涼が ”いい子” になってしまうのは、育ってきた環境のせいなの。
涼はね、自殺した両親に捨てられたって思い、深く傷付いてた。
だから引き取られた親戚の家でも ”いい子” になっていなければ、
捨てられるって怖がっていたの。
それに両親のいない寂しさに流されないように、
人に弱さを見せないようにと、強く生きてきたんだよ!
そんな涼が、私を踏み台にしているって、お兄ちゃんは言いたいの? 」
「 美生の言っていることは理解したつもりだ。
アイツの過去に対しては、本当に気の毒だったって思う。
でも、ずっと、そうやって ”いい子” を演じて生きてきたことは、間違ってる。
アイツは ”いい子” を演じることで、自分を守ってきただけだ。
逆に子供の頃から、そういう技を習得していたアイツが、
オレは恐ろしく思う。
・・キツイことを言ってしまうけど、
以前のアイツの気持ちは、わからないが、
今のアイツは美生のことを、本当に好きじゃない。
お前を自分のアイテムのように思ってるだけだ。
朝、美生が声を掛けても、アイツは一瞬、お前を見て、
しかめっ面をし、プイッと顔を背けた。
オレがアイツなら、好きなはずの女の子に対して、
あんな冷たい態度はとらない。
返事をする余裕がなかったのなら、軽く手を振ってみせるぐらい、
その時のアイツには出来たはずだ。
心の奥底の本心って、さり気なく態度に出るものだ。
お前だって、すごく寂しい思いをしただろう。 」
「 あれは・・・あの時は・・・。
涼はただ私の声に気付かなかっただけなんだよ・・・。
たぶん・・・きっと・・そうだったんだよ。
今日の涼は初対面のお兄ちゃんに会うことや、
事務所の面接を目の前にして緊張していたんだよ。
だって普段の涼は、私に優しくしてくれるんだよ。
涼が私のことを愛してくれていない訳ないじゃん!!! 」
礼司が涼の様子を、細かく観察していたことに、改めて驚きながらも、
美生が反撃すると、
「 そこは美生に一歩譲るとしても・・・。
アイツは結構、話し上手なんだな。
周りの人たちを、自分のペースに乗せることが上手いと思う。
アイツは自分の本来持っている弱い面を隠すために、
大袈裟に自分を誇張して、良く見せようとする。
アイツの言っていることには、もしかすると偽りも混ざっているんじゃないか?
”いい子” ”いい人” ”強い男” に見せたいがために、
自分を、いろんなアクセサリーで装飾していく男だ。
或る意味、可哀相な男なんじゃないかとも思う。
そんな自分に疲れたりすることもあっただろうに・・・。
今までもアイツには、素の自分を出す拠り所があったのかな?
自分を装飾するアクセサリーが重くなって、堪えられなくなったら、
アイツは必ず本性を出す。
その時・・・美生は深く傷付く・・・。 」
「 そんな言い方、ひどいよ!!!
それじゃあ頭ごなしに、私を制しようとするパパとママと同じじゃん。
お兄ちゃんだけは違うと思っていたのに・・・。
確かにお兄ちゃんが言うように、
今まで涼には素の自分を出す拠り所があったのかどうかは、わかんない。
でも今まで、たとえ拠り所が無かったとしても、
今は私が涼の拠り所になっている。
だって涼は両親のこととかを、私以外の誰にも話したことがなかったって、
言っていたし、私と一緒にいると、ホッとするって言ってくれた・・・。
お兄ちゃんは、涼の何を知っているっていうの?
何も知らないクセして、涼のことを悪く言わないで!!
私の方が、涼のことを、よくわかってる。
涼はとても繊細なんだよ。
繊細だから、誰かが傍にいてあげないといけない人なの。
それに私の事を、ちゃんと愛してくれてる。
だから涼のためなら、私は何も惜しまない。 」
「 美生!! 」
最後には泣き出した美生に、礼司は何も言えなくなってしまった。
久しぶりの兄妹喧嘩は、とても苦い形になっていた。
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< なん作家のつぶやき >
初対面なのに、涼のことを悪く言う礼司に、
美生は怒りを顕にします。
確かに初対面で、涼の何が、礼司にはわかるのか![]()
でも礼司の忠告に、美生の心の中にも迷いが・・・。
次回は美生の18歳の誕生日。
美生にとって、長い一日になりそうです ヽ(゜▽、゜)ノ
次回もお楽しみに (^_-)☆
なん作家 Yu