ダッフィー 登場人物 ダッフィー


ミッキー 山下美生 ・・・ K音大3年生 ピアノ専攻

             背が高い 童顔

             料理上手 花と音楽が好き 


ミッキー 森田柊也 ・・・ 同音大3年生 バイオリン専攻

             整った顔立ち

             天真爛漫


ミッキー 中垣忠雄 ・・・ 柊也の父親

             当時は30歳

             外見は弱々しいが、本当は心根が強い!?


ミッキー 森田響子 ・・・ 柊也の母親

             当時は20歳

             中垣と別れた後、柊也を産む


ミッキー マスター ・・・ カフェ・クレッシェンドを経営している

            昔からの中垣と響子を知る人物

            あたたかい人柄 話し好き


ミッキー 立石ソヨ子 ・・・ 忠雄の元妻

              事件の後、精神を病む


ミッキー 中山康史 ・・・ 忠雄と同い年で、同僚講師だった

             育った家庭に恵まれていない

             ソヨ子を本当に愛した



デールダッフィー 今までのお話し デールダッフィー


「プロローグ」


「1」  「2」  「3」  「4」  「5」  「6」  「7」  「8」  「9」  「10」


「11」  「12」  「13」  「14」  「15」  「16」  「17」  「18」  「19」  「20」


「21」  「22」  「23」  「24」  「25」  「26」  「27」  「28」  「29」  「30」


「31」  「32」  「33」  「34」  「35」  「36」  「37」  「38」  「39」  「40」


「41」  「42」  「43」  「44」  「45」  「46」  「47」  「48」  「49」  「50」


「51」  「52」  「53」  「54」  「55」  「56」  「57」  「58」  「59」  「60」


「61」  「62」  「63」  「64」  「65」  「66」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



カフェ・クレッシェンドの店内は、大きな沈黙に包まれた。

「 中垣さん・・・キミって男は・・・。 」

言葉に詰まるとマスターは、自分の目頭を押さえた。

美生もボロボロに泣きながら、つい先日のことを思い出した。

ーー千春お義姉ちゃんが言っていた通りだった。

   中垣さんは、自分の罪を償うために、響子さんと別れた・・・。

そして彼女の隣に座る柊也自身も、中垣の心中を察すると、

胸が苦しくなったが、思い切って口を開いた。

「 ソヨ子さんは・・・。

  今、ソヨ子さんは、どうしていらっしゃるんですか・・・? 」

今の彼の頭の中に浮かんだ疑問は、それだった。

「 ・・・・ソヨ子は、今年の1月に肺炎で息を・・ひきとった・・・。 」

中垣がやっと柊也の問いかけに答えると、マスターが、

「 そうか・・・そうだったのか・・・。

  その後キミは、ここ、カフェ・クレッシェンドに、

  22年ぶりに再び足を運んでくれたんだね。

  キミが、ここに戻ってきてくれた時、

  ワタシは懐かしい旧友に会うみたいに、嬉しかったんだが、

  22年間の間の苦労も大きかったと想像もした。

  キミは ”空白の22年間” のことを、

  自分から話そうとはしなかったので、ワタシも敢えて聞くのを遠慮した。

  でも、このまま帰してしまったら、またキミに会えなくなる予感がして、

  ここでピアノの仕事をしてみないか?と、誘ったんだよ。

  ちょうど上手い具合に、うちでピアノを弾いてくれていた女性が、

  実家に帰ることになってしまって、空きもあったし・・・。

  キミが承知してくれた時、ホッとしたのと同時に、

  このカフェ・クレッシェンドが、キミの心の傷を癒せる空間に、  

  再びなってくれたら・・・と、ワタシは強く願った。 」

「 あの時のマスターの心遣い、ボクにもわかりました。

  嬉しかった・・・本当に嬉しかった。

  22年経っても、この場所とマスターは変わらなかった。

  それがボクを、どんなにホッとさせてくれたことか・・・。 」

中垣は嬉しそうな顔をすると、遠くを見つめるような目をし、

「 確かにマスターが想像する通り、ソヨ子との生活は過酷だった。

  生活費はプロだった時代の蓄えが沢山あったのが幸運だったが、

  それだけでは、いつかお金も底をついてしまう・・・。

  だから平日の昼間だけ介護ヘルパーにソヨ子のことを頼んで、

  ボクはなるべく残業をせずに済む小さな部品工場で働いて、

  生活費やソヨ子の通院費、諸費用を稼いだ。

  住んでいたアパートと工場の往復の毎日だったけれど、

  ボクは生計を立てることと、ソヨ子の面倒をみるために、

  無我夢中だったよ。

  幼児返りしたソヨ子は、食事を食べこぼしたり、トイレの失敗もあって、

  本当に子供そのものだった・・・。

  苦労は付き物でも、そんな彼女が可愛く思える時もあったが、

  急に ”怖い、助けて” と泣きながら、怯えることもあった。

  そんな彼女を見て、事件のことが潜在意識になっているのではないかと、

  ボクは心を傷めた。

  それと駄々をこねられると手に負えなくなる時もあった。

  心は幼い幼児に戻ってはいても、身体は大人だ。

  力だって半端ではなかった。

  ボクはソヨ子が駄々をこねるたびに、小さな怪我を幾つも作った。

  でも・・・子供に返ったソヨ子は、無垢で純粋だった。

  皮肉なことに・・あの生活が、ソヨ子との生活の中で、

  人間らしく正面から彼女に向き合えた生活だったように感じられる。 」

忠雄は小さく吐息を漏らすと、

「 今年の1月にソヨ子が風邪をこじらせ、肺炎で入院した時、

  もう既に彼女の体力は弱りきっていて限界だった。

  それも、そのはず・・・。

  普段は家の中の生活が主だったし、

  外出は精神科への通院や近場を散歩する時だけだったから・・・。

  それも彼女は自分で歩くことを拒み、車椅子じゃないと嫌がったので、

  体力が弱くなっていて当然だった。

  病院のベッドの中で苦しむソヨ子を、

  ボクはただ看ていることしかできなかった。

  担当医には ”覚悟をしておいてください” とまで言われていた。

  ボクは自分が、ソヨ子の人生を変えてしまったんだと、また悔いた。

  中山くんを殺めなければ、彼女の人生も違っていただろうと・・・。

  でも一時(いっとき)ソヨ子の容態が安定した時があったんだ。

  ボクは峠を越えて、回復に向っていると思い、

  病室で眠るソヨ子を見つめていると、彼女が目を覚ましたんだ。

  目を開けたソヨ子は、ボクの顔を黙ってジッと見つめると、

  数分間後に、こう言った・・・。 」

~~~

「 あなたは・・・忠雄・・でしょ? 」

今まで忠雄のことを ”中山” だと思い込み、 

”コウちゃん” と呼んでいたソヨ子が、忠雄をハッキリと認識していた。

ソヨ子は正気に戻ることができたのだろうか?

忠雄は驚き、自分の罪を、再び彼女に罵られることを覚悟しながら頷くと、

ソヨ子は意外なことを言ったのだった。

「 あなたのことを、今までコウだって思っていたけど、

  どこか心の中に違和感があって、違うような気がしてたの。

  でも、今、忠雄だとハッキリわかった・・・思い出すことができた・・・。

  それにコウはもういないということも・・・。

  わかっていたの・・・コウは出世目当てで、私に近付いてきたってこと。

  それを承知していても、私はコウのことを、本当に愛してしまった。

  馬鹿よね・・・私って・・・。

  ・・・・今まで・・ごめんなさい。

  本当なら・・忠雄は私を憎んでるはずだと思うのに、

  あなたは、私のことを ”最後まで” 見捨てたりしなかった・・・。

  ・・・・ありがとう・・・・。 」

ソヨ子の目からは大粒の涙が、いくつも溢れていた・・・。

「 いいんだ・・・・そんなこといいんだ。

  それに・・・ソヨ子・・・違うよ。

  中山くんの代わりに、ボクが伝えてあげなくっちゃな。

  中山くん・・・コウくんは、本当にソヨ子のことを愛していた。

  確かに最初は出世目当てだったらしいが、本当に愛してしまったと、

  彼の愛用していた手帳に日記として、書かれてあったんだよ。

  だから2人は幸せになれたはずだと思うのに・・・すまなかった・・・。 」

忠雄の目からも、涙が溢れ出た。

そんな彼の頬に伝う涙に、ソヨ子はやっとのこと腕を伸ばし、

優しく指で拭い、微笑むと、

「 もう・・いいの・・・。

  忠雄は出来る限りのことを、精一杯にしてくれたから・・・。

  もう自分を責めたりしないで・・・。

  それにコウの気持ちを教えてくれて、ありがとう。

  私・・・嬉しい。 」

「 ソヨ子・・・・。 」

忠雄が胸を詰まらせていると、再びソヨ子は口を開いた。

「 私も・・・コウの本当の気持ちを、あなたに伝えなくっちゃね。

  コウはね。

  確かに忠雄のことを妬んではいたわ。

  でもね、あなたと響子さんが住むアパートに行く前日に、

  あなたのことを、こんな風に言っていたの。

  ”オレ・・・本当はアイツが羨ましいのかも。

   アイツの素直で、真っ直ぐな生き方が・・・。

   オレには出来ない生き方だったから。

   今までアイツのことを、弱々しい男だって、

   心の中で馬鹿にしていたけど、

   アイツって、本当は強い男なのかもしれないな” って・・・。

  コウの心の底にある本心なんだって思ったわ。

  それを聞いた時、私も気付いたの。

  私も本当は、あなたの生き方が羨ましかったんだって・・・。

  それでも・・・心の底では、そうわかってはいても、

  私とコウは素直になれなくって、自分の本心を否定するかのように、

  あなたと響子さんを苦しめた・・・ごめんなさい。 」

そのソヨ子の本心が、忠雄の心を動かした。

「 ソヨ子の言っていること、わかったよ。

  自分の気持ちを、正直に話してくれて、ありがとう。

  さぁ・・・せっかく容態もよくなっているし、

  あまり話し過ぎると、また身体にも障る・・・もう少し眠るんだ。

  退院したら、また一緒に暮らそう・・・夫婦としてやり直そう。

  いいだろう? 」

忠雄も彼女の涙をハンカチで拭き取ってやると、

「 忠雄は・・・これからは・・自由になって・・・。

  私になんか、もう縛られなくってもいい。 」

ソヨ子はゆっくり首を横に振ると、微かな微笑を浮かべた。

その時、不思議なことにも、49歳である彼女の微笑が忠雄には、

とても純粋な美しい少女のように見えて、

彼が・・今度こそ、やり直せる・・・と確信できたのも、束の間だった。

その3時間後に容態が急変し、ソヨ子は静かに息をひきとった・・・。

~~~


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇