登場人物 ![]()
山下美生 ・・・ K音大3年生 21歳 ピアノ専攻
長身 童顔
料理上手 小さい頃から音楽に親しむ
森田柊也 ・・・ 同大学3年生 バイオリン専攻
私生児として生まれ育つ
4歳の頃に母・響子を亡くす
中垣忠雄 ・・・ 柊也の父親 52歳
事件の当時は30歳
基本、大人しく、物静かだが頑固
森田響子 ・・・ 柊也の母親 当時20歳
天真爛漫
楽器の会社を営む家庭の一人娘
立石ソヨ子 ・・・ 忠雄の元妻
事件後・・・・![]()
立石一郎 ・・・ 昔、K音大教授
娘のソヨ子に甘く、溺愛する
中山康史(コウ) ・・・ 昔、忠雄と同期のピアノ講師で同い年
ピアノ講師になる前は、札付きの悪![]()
ソヨ子の愛人
マスター ・・・ カフェ・クレッシェンドを経営
昔の忠雄や響子のことを知る
当時は中年の年代
現在は初老
今までのお話し ![]()
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中垣が ”事件の全容” を話し終えると、美生は、
「 中垣さんも辛いと思うのに・・・思い出したくないと思うのに、
話してくれてありがとうございました。
信頼していた中山さんにも、裏切られていたこと・・・。
どんなに辛かったか・・・想像するとすごく苦しいです。
私・・・私・・中垣さんが過去に人を殺めても、
これからも中垣さんを見る目を変えるつもりはありません。
私は本来の中垣さんの持つあたたかい人柄が好きだから・・・。 」
涙を浮かべ自分の思いを告げた美生の肩を、隣に座る柊也が優しく抱くと、
彼女は堪えきれなくなり、俯き声を押し殺して泣いた。
「 ワタシも、美生ちゃんの言っていることに同感だ。
中垣さんは決して悪い人間なんかじゃない。
昔からずっと見てきたワタシも太鼓判を押すよ。
ワタシはキミみたいな男に出会えて、本当によかったと思っている。 」
3人とは離れたカウンター席に座るマスターも優しく微笑んだ。
「 ありがとう。 」
そして中垣は、ただ一人だけ何も言えずにいる柊也を優しく労わるように見ると、
彼の気持ちを汲むように、
「 柊也くん。
あの時のボクは響子を守ることだけで、精一杯だった。
でも、それは言い訳に過ぎない。
どんな理由があろうと、ボクのしてしまったことは、
罪であることには変わりがない。
あの時、まだ息があったコウ・・・中山くんは、救急車で運ばれたが、
病院に搬送される途中で亡くなった・・・。
事件の後のあれから、ボクは警察に連行されたが、
現場検証の結果や被害者の中山くんの素性や前科、
事件の発端の元となってしまったボイスレコーダーの提示、
録音されていた、不正入学の件や夫婦間、ボクへのソヨ子の脅し。
その他にも警察の調べで奈緒美のいくつかの小さな余罪まで出てきた上に、
ボクや響子、それぞれの個別での証言などなどで、正当防衛と見なされ、
ボクは刑を免除され釈放された。
それでも世間の目は厳しかった。
ボクにはプロのピアニストという肩書きが付くことで、
テレビのニュースやワイドショーでも、事件のことは大きく取り沙汰された。
挙句の果てには響子との不倫のことまで・・・だったが、
幸いにもニュースやワイドショーには響子の名前は出ず、
”音大生・A子” という扱いになっていたのが救いだった・・・。
でもボクは・・・人を殺めてしまったばかりではなく、
ソヨ子の精神を殺め ”廃人” にしてしまった上、
彼女の父親の立石までを、
間接的に自殺という名の死に追いやってしまった。
ソヨ子と立石のことに対しても、
世間はボクの手に罪人という見えない手錠を掛けた。
ボクは・・・・その圧力に堪えられなかったし、
そんなボクは、全く汚れのない響子と、
結婚する資格がないって思ってしまったんだ・・・。
罪の上に、幸せは成り立たない。
響子を不幸にしてしまうことは、目に見えていた。
彼女は当時まだ20歳で、将来にいろんな可能性を持っていた・・・。
いくらでも、やり直しが利く年齢だと思ったし、
何よりも響子には明るい場所を歩いて欲しかった。
それと彼女の両親にも、迷惑が掛かる事は避けられない。
だからボクは、響子に別れを告げて姿を消した。 」
そこで初めて柊也が反論した。
「 中垣さん・・・あなたは結局、
自分の罪の重さに堪えられなかっただけだったんでしょう?
あなたは奇麗事で母さんを捨てたんだ!
オレには、そう思えてなりません。 」
「 柊也・・・落ち着いて。
響子さんや彼女の両親に迷惑を掛けたくなかったという、
中垣さんの気持ちを信じてあげて・・・お願い!
こういう思いは、その渦中にいた人にしか、わからない思いだと思うの。
だから、お願い!! 」
美生は義姉・千春の父親・中村晃一の事件を思い出しながら、
必死になって柊也に懇願した。
「 わかったよ・・・美生。
中垣さん・・・オレ、また言い過ぎました。 」
うな垂れる柊也に、中垣は、
「 いいんだよ。
柊也くんが、そう思うのも無理もない。
迷惑を掛けたくないと言いながらも、
ボクは結局、響子を捨ててしまったんだ。
その時に ”捨てよう” という気持ちがなくっても、
結果的には捨てたのと同様だ。
ボクが別れを告げると響子は
”別れたくない”
”どんなことがあっても、先生となら堪えられる”
”先生を支えていたいんです”
そう言うと、さっきの美生ちゃんのように声を押し殺して泣いていた。
それでもボクは響子の思いを受け入れずに、心を鬼にして姿を消した。
響子の前ばかりではなく、音楽界からも、社会からも姿を消した。
携帯も解約して、響子とも、知り合いとも、友人たちとも、
連絡をとれないようにした。
・・・マスターにも、黙っていなくなったこと・・・申し訳なかった・・・。 」
中垣は、しばらく黙り込み、目を伏せると、決心したかのように顔をあげ、
「 これからボクが響子の前から、
音楽界から、社会から姿を消してからの
”22年間” のことをことを話すよ。
今まで誰にも話した事がなかったし、
これからだって話すことはないとは思っていたけど、
響子だって、最も知りたい事だったとも思う。
今、ここで、響子も聞いていると信じて話す。
・・・ボクは一生をかけて、自分がやるべきことを見つけた・・・。 」
そこで一呼吸を置くと、中垣は静かに話し出した。
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