治療室を出たあと

私たちは トイレに向かった

 

 

深夜の手洗いスペースで

私は

汗だくになりながら

痛がる 母の体に

ガサガサと音をたてる紙を 巻いた

 

巻きながら 悲しかった

 


女医が

この紙を 親切心からくれたのは

わかる

 

でも

 

これで 下半身は隠れるんだから

いいでしょ

 

認知症だし 高齢者だもの

なにか問題でも? 

 

根底に

そんな気持ちが なかったか

 

 

もっとも


それは

認知症母を連れていると

私が よく陥る

被害妄想的思考なのかもしれない

 

 

 

紙を やっと巻き終え

洗面台の 鏡を見ると

 

そこには

 

疲れ切り

頬がこけ 目が窪んだ 前期高齢者の顔と

 

魂が抜けたような 後期高齢者の顔が

映っていた

 

 

そして

今まで 気づかなかったけど

 

その後期高齢者が着ている

パジャマのシャツには

首から 肩にかけて

血が べっとり付いていた

 

 

やばいじゃん

 

そんなの 着て 

裸足で

頭が栗で

下半身に゙ 紙を巻いてる高齢者が

明け方のタクシーに 乗り込んできたら


運転手さんにしたら

ただの ホラーじゃん

 

 

私は

取り敢えず

自分が着ていた パーカーを

母に羽織らせた

 

そして

パジャマについた血が 隠れるように

ジッパーを 上げた

 

でも

 

それでも やっぱり

私には

母を タクシーに乗せることには

抵抗があった


動かない頭で 

何か いいやり方がないか,

あらゆる可能性を 探った

 


もしかしたら

近くに 開いているコンビニが

あるかもしれない

 

いやいや さすがに

ズボンや 靴は 売っていないだろう

 

伯母に電話したら

迎えに来てくれるかも

 

ムリ こんな時間に

さすがに 起こせない

 

では

どうする?

 

 


私は

母と二人

 

ただ

誰もいない待合室に 座っていた

 

自分たちだけ

世界から

取り残されてるような 気がした

 

 

スマホの時刻は

4時半を 表示していた

 

もうすぐ 夜が明ける

 

そう 思った時

 

一瞬


希望の光が 見えた

気がした

 

 

病院の 診察時間が始まって

売店が開いたら

 

そこには ズボンやスリッパが

売っているかもしれない

 

売っていなくても

誰かに 助けを求められる

きっと

 

 

幸い 母も 鎮痛剤が効いたか

目を瞑って おとなしくしていた

 


あと 4時間

 

私は

ここで 待つことにした