夕方 電話のベルが鳴り
母が 出た

ハイ そうです ハイ ハイ

などと 調子よく返事をしているのを
私は キッチンで聞いていた



我が家は
どうも 詐欺グループに 名簿が回っているらしく
時々 ヘンな電話がかかってくるので

料理しながらも
私の耳は ダンボちゃん



母は

ご親切にありがとう では 娘に聞いてみます

と 言ったあと
受話器の 話すところに 手を当て

ねえ アナタの予定 教えて
ミシンの会社が
修理で この辺 回ってるんだって

 
そんな内容なら
料理を中断してまで 私が出る必要もないので

そっちで決めてよ
私は今 忙しい

という ジェスチャーをしたんだけど
母は わかったのか わからないのか
あくまでも 私が 話を替わるのを 待っている

仕方ないので
濡れた手をふきふき  受話器を受け取った



電話の相手は 穏やかで 落ち着いたカンジの
中年男性の声だった


突然のお電話で 失礼いたします
 私 エレクトロ〇クスの者です

長年 
弊社のミシンを ご愛用くださって
ありがとうございます

明後日まで そちらのエリアを回って
ミシンの無料点検を しているんですが
調子が悪かったり 扱いにご不明な点があったり
しませんか




実は 我が家には
30年位前に買った ミシンがある

それは
当時としては かなりハイテクで
パワーもあり 複雑な縫い方もできる 高価なもので

なぜ それを
洋裁など ほとんどしたことのないような
母が買ったのか
それは 我が家の3大謎のひとつである
ということは 今は置いといて

その機能が 多岐に渡る分
扱い方も フクザツで

母が 歳をとり
雑巾さえ縫わなくなった 今
それは
古い地層から発掘された 古代の呪術品のように
もはや 誰も その使い方を知る人は いなくなり
ただの ジャマくさい箱と 化しているんだが


そこに かかってきた
30年目にして初めての フォローアップの電話



私は 飛びついた

使い方 教えてください
説明書もなくなって どうしようかと思ってたんです


すると その男は 言った

では 明後日までのあいだで
そちらの 都合のいい時間帯を 教えてください



私は
はっきりしない予定が ひとつあったので

今すぐ 返事はできないんで
確認して こちちらから 折り返し 電話します
番号 教えていただけますか


すると 彼の返事は こうだった

いや~
こちらのエリアは 明後日までしか回らないので
今すぐ 予約していただかないと
予定は 埋まっちゃいますよ


そう 言われて
私は ちょっと
 あれ? と 思った

だけど


我が家にある そのジャマくさい置物には
時々 足をぶつけて 痛い思いをしたりする

でも 壊れてもいない ン十万もしたものを
ゴミとして捨てる 勇気はない

その取り扱いには 本当に 困っていたので

すぐ 折り返しますから
番号を教えてください

再度 そう言った私に 彼は

いや~
たったふたりで 全国 回ってるんですよ
ホント 今じゃなかったら
予約 ムリですよ




私は
そのことばで 確信した


これは 詐欺だ




じゃあ 私 
今は 予定わからないので
残念ですが 仕方ないですね

また  次の機会にお願いします

そう言って 電話を切った




翌日 私は 朝イチで
エレクトロ〇クスのお客様窓口に 電話をした


なんと
その会社の ミシン部門は
採算が取れない とかで もう無くなっていた


その後修理を引き継いでいる という会社の
電話番号を聞いたので
そこにも 電話をしてみた


電話に出た 女性は

弊社では   そのようなことは
一切   しておりません
前の会社の社員が
顧客名簿を 持ち出したんじゃないですか

と 
自分たちとは関係ない
と言わんばかりの態度なので
私は

その 顧客名簿というのは
そちらの会社では 引き継いでいないんですか

と 反論した
すると   彼女は

それは 引き継いでいます

と言う


だったら 引き継いだ そちらの会社から
名簿が流出した可能性も あるのでは?

そう 言ってみたけど
彼女は あくまで 

うちの会社では そういうことは 一切ありません

と 言い張るので


私は   仕方なく   
電話を切った


まあ   いいや

いまの私にとって   問題なのは
誰が 名簿を 流出させたか
と   いうことより

我が家の名前の載っている名簿が
確実に 流出している

そのことだ




さて

私が いま するべきことは何だろう

そう 考えた時に

以前 警察の広報で見た

詐欺防止のための 自動録音装置の貸し出し

という記事を 思い出したのだった



母も 私も
その録音装置の存在は 知っていた


母の友人が 何人か それを使っていて
その家に電話すると
最初の1分くらい

この電話は 犯罪防止のため 自動録音させていただきます

というメッセージが ゆ~ったりと流れる

かけた相手は イライラと その間 待たされる


母は そのメッセージを聞くたびに

なに これ
他人の 時間と電話代を引き替えに
自分の安全安心を 確保するなんて
マナー違反だわ

などと 怒っていた


でも
今となっては
背に 腹は 代えられない
と 思ったのだろう


母は

他人の時間と電話代を引き替えに
自分の安心安全を 確保したい

とは 言わなかったが

あの機械  取り付けるべきよね

と言ったので 
私は 警察に電話して
録音装置を 依頼した




警察の人は
私が マンガに描いたように
何度も 何度も

来月 電話しますけど
警察の名を 語っても
〇〇警察の犯罪防止対策課の××課▽▽
という電話以外は
絶対に アヤシイ電話ですから

と 繰り返していた


それだけ
社会が 物騒になって
老人を騙す人が たくさんいるんだな

私も 母のこと 気をつけてあげなくちゃ



でも そう思った瞬間
私は ふと閃いてしまった


その 老人 の中に
自分も 含まれてるかも



だって
今回
私は 危うく 騙されそうになった

もし アポイントを取ってたら
彼らは 訪ねてきて
その後 どうするつもりだったのか

私は
何も被害を受けずに 済んだかどうか


今回 私は
ちょっと ラッキーだっただけかもね





オレオレ詐欺で 騙される老人が 後を絶たない

それって 不思議だな

と いつも 思っていたけど


相手は かなり 上手いです
巧妙です

今回は 幸いにして 被害はなかったけど
これからは 気を引き締めないと




みなさまも くれぐれも
気をつけてね