今日はなんという寒さであろう。
気温も10度になるかならぬかである。
つい先月は夏のような暑さだったかと思うと、赤道から一気に南極へ飛んできたようだ。
いや、これが平年並みだと言うのだから、これはもう慣れるしかない。
尤も関東近辺には北と南に低気圧が居座っていて、北東から寒気が這いこんで湿った雲が日照を遮り気温の上昇を阻んでいるようだ。
東北地方では冬場はこのようなすっきりしない日が続くという。
だからこそ人間らしく活きようと、いい作家やいい作品が生まれる。
それは井上ひさしさんであったり、藤沢周平さんであったり……、
やはりそこには共通した深い人間洞察力であったり、情景や場景描写が緻密であったりする。
ことに藤沢周平さんの描く女性像は現代にも通ずるイマジネーションを掻き立てるビビッドな、いい女が多いのである。
この季節、それら一文ごとに人肌の温もりが伝わってくるのである。
折しもこのコロナ禍、3密を避けて不要不急の外出を自粛する時節なればなおさらである。
この国難は、過熱した5GとかAIとかのデジタル社会に、今我々に何をなすべきかを示しているのではないだろうか。
電子書籍もいいだろうが、多くの人が関わって、文字や語彙、文章力を磨き上げて出版された目に優しい紙の本、紙とインクの温もりが頁ごとに五感に薫ってくる。そしてそれを評価するファンや読者層。これを有機読書というのではないだろうか。
たとえば藤沢周平さんの「ただ一撃」では舅と嫁の相性、通じ合いが藩の危機を救い。
また「寒い灯」では現代にも通じる嫁姑問題から高齢者福祉の原型のような人情の機微を扱ったものであったりするのである。
こんな寒い日にはピッタリのお奨め本である。
そしてもう一方、同じく山形出身の井上ひさしさん。
私はどういうわけか、井上靖さんと井上ひさしさんと混同しがちなのだが、ご親戚なのだろうか?
まあいい。えっと、井上ひさしさんは、NHK人形劇の「ひょっこりひょうたん島」を手掛けられて劇団育成もされて、芸風というか作風も明るい物が多い。
ここでは彼のエッセイから私が大笑いした一作を挙げさせて戴く。と、彼の思いこみと周囲の勘違いと時代背景がおかしくミックスした「定期預金」は彼の度量の大きさを示すものであろうと思われる。
全体をクスクス笑いに運ぶストーリー性は天性の明るさなのだろう。
こういう昏いご時世にはうってつけの行火であり導火線のような心あたたまる本ではないだろうか。
(吟)

