北海道新聞

 

 

 

 北海道大の複数の教員が、教授会によって数年間にわたり教育・研究活動を阻害されたと訴えた。学内のハラスメント対策室が今年、「組織的なアカデミック・ハラスメント(アカハラ)に該当する」と認定した。
 

 大学院理学研究院の化学部門でのことだ。教員は「旧スタッフ」と呼ばれ、研究室から別室に移され孤立させられた。対策室は「研究室から追い出すことを意図したもの」と結論づけた。
 

 権限を持つ教授会が特定の教員の研究上の権利を侵害し、放置していた。教育や研究を担う大学にあるまじき行為だ。
 

 看過できないのは北大が調査結果を公表せず、被害者に謝罪や補償もしていないことだ。これでは失墜した大学の信頼は回復できない。速やかに原因を明らかにして、再発防止策を徹底していかねばならない。
 

 化学部門には専門分野ごとに研究室が設置されている。それぞれ教授ら複数の教員が、学生とともに研究を担う。
 

 対策室の調査結果などによると、教授会が2020年度、教授が退職などした後の研究室で、准教授らに学生を配属しないなどと決議した。
 

 准教授らは教授会に何度も配属を求めたが聞き入れられなかった。実験を行うには学生の協力が不可欠だが、1人で続けるしかなかった。学生が再配属されたのは25年度からだという。
 

 アカハラは研究教育の現場で権力のある者によって引き起こされる理不尽な行為だ。対策室は教授会の対応が「恣意(しい)的」とも指摘した。奪われた時間は戻らない。研究者としての人生に大きな影響を与える人権侵害が放置された事実は重い。
 

 化学部門はノーベル化学賞を受賞した鈴木章名誉教授らを輩出したことで知られる。アカハラはなぜ起きたのか。説明を尽くさねば教員や学生の不安は残り、新規の人材も獲得できまい。
 

 化学部門では昨年、助教が酒に酔い複数の学生に暴行する不祥事もあった。理学研究院以外でも近年、女性教授が男性教授からハラスメントの被害を受けたと相次ぎ訴えた。人権侵害を許す土壌がないか、学内のガバナンスも再点検するべきだ。
 

 北大は全人教育を基本理念に掲げ、「人権を尊重し、社会的要請に的確に対応しうる基盤的能力の育成を目指す」とする。
 

 宝金清博学長は先月の150周年記念式典で若手研究者の活躍に期待を寄せ、「未来の社会を創造する新規研究のゆりかごであり続けたい」と述べた。
 

 そのために何が必要か、足元を見つめ直してもらいたい。
 

 

 

<社説>学術会議法人化 学問の自由守る覚悟を

 
北海道新聞
 
 
 
 日本学術会議が、国の特別機関から特殊法人に移行した。
 
 契機は6年前、当時の菅義偉政権が安全保障関連法などに異論を唱える会員候補の任命を拒否したことだ。政府は理由を明らかにせず、組織のあり方に論点をすり替え法人化を進めた。
 
 任命拒否を撤回し、説明責任を果たすのが先決である。
 
 法人化で政府は学術会議を管理する体制を整えた。意向に沿わせる狙いが透ける。
 
 学術会議は科学者を軍事研究に動員した戦前の反省に立ち、設立された独立機関だ。法人化はその反省を忘れ、過ちを繰り返しかねない危うさがある。政府の対応は許されない。
 
 人工知能(AI)の暴走や気候変動など未曽有の危機が押し寄せる今、科学的知見に基づき政府や社会に提言する学術会議の役割の重要性は一層高まっている。学問の自由を守る責務を果たしてもらいたい。
 
 新たな日本学術会議法が施行され、新会員125人が加わり229人で発足した。任命拒否された6人は含まれなかった。
 
 法人化により首相が任命する監事や評価委員会が新設され、会議の活動を検証する。財源については政府が必要と認める金額を補助できるとした。何重にもわたり独立性を揺るがす仕組みを設けている。
 
 さらに新法からは、旧法が掲げていた平和への貢献の文言も削除された。看過できない。
 
 学術会議は法人化に伴い、新憲章の制定を進めている。前組織から引き継いだ憲章案には「人類の平和的で持続可能な発展に貢献する」と明記された。旧法がうたった使命を受け継ぐ姿勢は極めて重要である。
 
 半面、移行の過程で気がかりな点もみられた。
 
 法人化により外国籍研究者を会員にすることが可能となり、会議の分科会が8月に会員選任案を示した。「日本の安全保障に係る懸念のない者」との要件が盛り込まれ、日本国籍の会員への適用も検討すべきだとした。
 
 安保政策に批判的な科学者が排除されるなどの声が強まり要件は削除された。当然である。
 
 ただ今後、忖度(そんたく)が働くなどして政府寄りの方針転換がなされないか懸念が残る。政府はデュアルユース(軍民両用)技術の開発など、安保関連の研究に科学者を取り込もうと躍起だ。もの申す姿勢を貫いてもらいたい。
 
 新会長に選任された大阪大名誉教授の加藤和人氏は「社会に出て対話し、熟議し、協働する」と抱負を述べた。会議の活動を広く発信し、幅広い支持を得ていく努力も欠かせない。