『………さびしかった………悔しかった』


『問題を抱えてるのが解るのに
踏み込めなくて。
子供だから
たとえ何かを打ち明けられても
手助けできないのも感じてて。
悩みを聞くだけでも慰めになる、なんて
そんなことなら
きっと話してくれてる、って
それも感じてて』


『悔しさとさびしさだけが
積もって』




櫻井さんが
肩を抱き寄せる。




『まぁ、それで
しょう兄ちゃんとさと兄ちゃんに
過保護なほどサポートされることになってさ』

『俺のプライドはがた崩れになるんだけど、
それを感じるようになれるまでも
何年もかかってんだわ、実は』

照れ笑いの顔がかわいい。
けどさ、やっぱりさびしげだ。




『その別れから2年と少し。
俺が高1の夏休み前に
真相が判明したんだ。』





『その子の父親は
都内で飲食店を数軒経営してたんだけど
その子の休学から半年程で破産した。
休学と同時に母親の地元に転居療養する、と
聞いてたし、
そういう事情もあったのか、と
多少は納得できた。
何度か手紙を送ったけど返事はなくて
でも、宛先不明で戻っても来なかったから
届いてはいた、と思いたかった。』

『ずいぶん痩せてしまってたから
身体のことが心配で不安だったから』




ふぅっ、と長く息を吐くと
伏し目がちだった表情が変わった。
真っ直ぐに僕を見て
目が冷たく光る。




『その父親は
飲食店経営が安定し
高収入が続くうち
夜の街界隈との付き合いが増えていき、
そのうち反社組織に取り込まれた。
自身がドラッグ常用者になり、
売人にまで落ちぶれていた。』

『あの子が中等部に上がる前くらいから
家庭内でも暴言を吐き、
お決まりの暴力に発展し、
母親だけでなく
娘にまで手をあげるようになった、
夫から身を守るために逃げたんだ。』

『危なかったんだよ。
売られる間際だったらしい。
後から判ったんだけど。』




『だからね、
母親の実家には居なかったんだ。
そこから、さらに身を隠すために
誰も知り合いのない場所へ移って行った。
祖父母とも連絡を取らず
俺の手紙もあの子の手には渡ってなかった。
でもね、
取っておいてくれてた。
いつか渡せる日が来るって信じて』