(智)
ピアノを弾くチャンスは
意外なところに見つかった。
現地の現場監督がコツを掴んだ頃に
大使館から迎えが来た。
俺は大使夫妻に再びもてなされて
夕飯をいただくことになった。
智「ピアノを触ってもよろしいでしょうか」
大使「どうぞどうぞ。
大野さんもピアノを弾かれるとは!」
智「いや。全く弾けないのですが・・・」
大切に折り畳んで持ち歩いている
例の楽譜を見せると
大使夫人がニコニコと隣に座り
大使夫人「ここがドです」
そう教えてくださった。
いつの間にかいつかのお嬢さんも加わり
俺のピアノのレッスンは
大使一家に見守られて
二時間も続いた。
ようやくドレミファソラシドを
指を潜らせながら
昇ったり下りたりできるようになった頃
大使「一杯🍻やりましょう」
酒とオードブルが用意されて
俺は大使とその夜遅くまで
農村の貧困と都市化の弊害について
語りあった。
帰りはやはり車で送ってくださった。
車寄せまで見送ってくださった親子に
夫人「明日もレッスンにいらっしゃいな」
大使の娘「いい筋だって二宮さんが言うわね」
夫人「これ。失礼なことを」
二宮さんの名前が出て嬉しかった。
俺は会釈してホテルへと戻った。
部屋に着いてからも
何度も指でドレミファソラシドを
練習した。
あの日空港で
それからホテルのバーで聴いた
あの美しい二宮さんのショパンを
いつか弾けるようになりたいと
そう思い始めていた。
興奮してなかなか眠れず
窓から夜空を見上げると・・・
・・・え・・・?
オリオン座のすぐ上に
あの輝くシリウスが見えた・・・
幼い日から俺を照らしてくれた
シリウスが
まるで俺を遠くから見つめるかのように
キラキラと輝いていた・・・
