(和)


六甲山の北側まで有料道路を進むと


静かな山合いの道に急に温泉街が現れた。


湯煙があちらこちらから上り


人々が足湯を楽しんでいる。


炭酸せんべいと大きく書かれた看板の先を


更に車で登って行くと


昔ながらの狭い道が続いた。


智「・・・車で連れ回して、ごめん」


和「ううん。楽しい」


智「・・・黙っていることがある」


和「・・・なに?」


・・・


・・・・・


言いにくいこと?


これで最後にしよう、とか?


そういうこと?


実はほかに恋人がいる、とか?


悪いことを考えるのは・・・なぜ?


・・・ 


・・・・・


沈黙が怖かった。


少しだけ窓を開けて空気を入れた。


12月の風は冷たくて頬をさす。



*ララァさんのお写真です*




心の中の小さな花。


青の中の黄色が・・・小さくても


そこにちゃんとあるのを確認して


僕は勇気を出して言った。


和「・・・言って・・・」


智「実は。・・・今頃、お前のお母さんがうちの実家に来ている」


和「え?


ウィーンにいるのに?」


智「二ヶ月ほど前から、戻ってきていたんだよ」


和「ごめん。車、止めて」


無理を言って車を止めてもらった。


僕は山道からちょっと奥まったところに


駆け込んで・・・


ゴホゴホと咳き込むと


強烈な吐き気を覚えた。


谷川の音が聞こえる。


口を浄めたくて足場の悪いその道を


恐る恐る下へ降りた。


谷川の水はよく澄んで冷たかった。


車を近くに停めた智が来てくれた。


智「・・・大丈夫?」


和「うん。・・・ごめん」


・・・


・・・・・


時折聴こえたあのバイオリン🎻は


父さんの音かな・・・


思ってもみなかった。


・・・だからか。


幼い頃の辛い思い出が蘇ったのは。


智「お前をウィーンへ連れて行くと言われて


俺は・・・お前を離したくなくて


攫ってきたんだ」





・・・あ・・・




智の声が頭の中をこだまする。





お前を離したくない


お前を離したくない






和「離さないで」






口を再び浄めてその冷たい水で涙も洗った。


綺麗なハンカチを出してくれるから


それで拭いた。


12月だというのに紅葉が美しい。





智「俺と一緒にいてくれる?」


和「うん」





冷たい風を避けるように


ぎゅっと抱きしめてくれる。




智「あと少しで着く。・・・行こう」





車に戻ると、時計は3時を少し過ぎていた。