リビングのドアを開けて
顔だけ出して、
「ただいま」と普通に言うと、
「あ、りこちゃん、
おかえり。
お疲れ様。」と返ってきた。
その顔、声で
クマオの機嫌は普通。
そして私の出方をうかがっていると
一瞬でわかった。
私は部屋には入らず、
そのまま2階の寝室に上がって
着替えてから階下に降りた。
クマオは前日の残りものやら
作り置きしていたおかずを出して、
ちょうど食べ始めようとしていた
ところだった。
「りこちゃん、
作り置きしてくれてたんや。」
クマオがモゴモゴと言った。
(そりゃ言いにくいわな)
「うん」
私は(クマオが)不自然に思うほど
何もなかったかのように答えた。
それから
「塩サバ買ってるけど
焼こうか?」と言うと、
「あ、うん、ありがとう」と
やっぱりモゴモゴとしおらしい。
私の態度に不気味さを感じて
戸惑っていると見た。
クマオは
私の機嫌をうかがうように
ちらちらと私の顔を何度も見ている。
私はそんなクマオの視線に
気づいていたが、
いっさいクマオを見なかった。
これが唯一私が昨夜クマオにした
はっきりとわかる仕返しだ。
(クマオは気づいている)
こんな男のために
どうして作り置きしたり、
塩サバなんぞ焼いてやるんだと
思う人もいるかもしれない。
だけどこれは私が
心に決めていたことだ。
なぜならクマオにとっては、
私が悪態をつく方が好都合だから。
私が荒れた言葉を出せば、
クマオはその言葉で一瞬にして
被害者になり、
自分を正当化し始めるだろう。
そうなれば
朝のあのフキハラ、モラハラさえも
正当化されてしまう。
それだけは
どうしても許せなかったのだ。