息を吐くように、嘘をついていた
あの頃のクマオの話し方や、
声の調子が、記憶に貼り付いている。
その断片と、今のクマオのそれを
無意識に比較し、結論を出し、
苦しむ。
「これから毎週水曜日は接待になるから」
「週末は親父と食事に行くことにした」
「土曜日の午前は弟の子供の面倒を
見るから」
こんなクマオの言葉を全て信じていた。
翌日に尋ねる私の「昨日どうだった」と
言う質問に、「うん・・・まあ・・」と
口を濁し、何も話さなかったクマオの
様子を、おかしいと思う事すらなかった。
それほどの信頼を完璧に裏切ったクマオ。
金曜の夜。
そんな疑念に苦しむ私に、
最近知り合った友人は、言った。
「クマオさんもあの時期辛かったはず。
それをわかっているから。
だから優しいのですよ」
私にトラウマがあるなら、
程度の差こそあれ、
クマオにもトラウマがあると
初めて気づいた。
あの夜、本当はどうだったのかわからない。
「昨日どうだった?」と尋ねた私に、
やっぱりクマオは、
「うん・・・まぁまぁ・・な」。
「お話うまくいったの?」
「うん・・
まぁまだ結論は出てないけどな」
結局、こんな返答のクマオ。
だが、あの時と決定的に違うのは
私への優しさと気遣いだ。
「りこちゃん、今日はどうしたい?」
土曜日の朝にしては、早い時間に
クマオは電話をかけてきた。
「クマオさん、疲れてるでしょ」
「大丈夫やで」
「雨降ってるし」
そんなやりとりをするも、
結局どうするのかは決まらなかった。
いったん切った電話の後、
クマオはまた電話をかけてきた。
「りこちゃん、今日は雨降ってるから、
あべのハルカスに江戸画展観に行こ」
江戸画展はとても興味深い。
「うわぁ!行きたい行きたい」
ただただ嬉しかった。
デートの行き先をすすんで決めて
くれるクマオの優しさが。
そう言えば、あの頃は、
「どこ行く」
「どうする」と言うばかりで、
何も決めてはくれなかったな。
改めて気づいた。
あの時のクマオを超えて、
ずっと以前のクマオに
クマオは戻っていることに。
昨日の私。
自宅の鏡の前で。
ミニスカートの時は
カラータイツ必須。
中に着たニットは、
数年前のアキラナカのもの。
こんな変わったデザインに
惹かれる。

