2泊目の宿は、クマオが最初に予約を入れてくれていた別荘タイプだ。
少しでも滞在時間を長くしたいから、4時のチェックインには絶対間に合わせたいのだが、
夕食は自炊。 食材を買い込んでいかなければならない。
ランチに並んだり、あれこれ足を延ばし過ぎてすでに時間が押している。
「ワインと、ジンギスカンは外せない」とクマオ。
前日に、ホテルで教えてもらったジンギンスカンの販売店で、調達。
その後スーパーに寄るも、なぜか粒マスタードが置いてない。
結局、宿に着いたのはもう6時前。
レセプションで手続きを終え、オーナーさんに近くのスーパーの場所を教えてもらう。
クマオは言った。
「りこちゃんはここにいて。
僕が全部買ってくるから」。
「え・・・うん・・」。
ほんとはいっしょに行きたい。
クマオを一人にして、女に電話をするのを阻止したい。
そう思ったが、クマオにそれを許さない毅然としたものを感じた。
「すぐに帰るよ。片道10分ぐらいで行けるらしいし。
着いたら電話するから」。
クマオはそう言うと、私の返事も聞かず、中にも入らずに、そのまま車を出した。
しばらくするとクマオから電話。
「りこちゃん、粒マスタードあったよ。
ジャガイモとにんにくと・・」。
その電話のあと、クマオは小一時間帰って来なかった。
オシャレなインテリアの室内で、私は一人ポツンと待つ。
落ち着かない。大きな窓から見えるのは、お隣の牧場のだだっ広い草原。
だんだん日が落ちてくる。あれほど癒された風景も、ただただ寂しさを募らせる。
今この時間、クマオは女に電話している!
仕方がない。女はクマオが北海道に元カノと来ているなんて夢にも思っていないのだから。
クマオもバレないように必死なんだ。
そう思っても、そのクマオの必死さが、悲しくてたまらない。
それでも、と思いなおす。 もし、この状況をクマオがうまくやりおおせたら、
これに味をしめて、次の旅行も計画してくれるかもしれない。
そう。女を欺くことは簡単だと。
私は、少し近所を散歩した。かわいい雑草を摘み、部屋に持って帰り、コップに挿す。
少しは落ち着いてきた。
しばらくするとクマオが帰ってきた。
「クマオさん、ありがとう。お疲れさま。
遅かったよ~。寂しかった」。
「あ~、ごめんごめん」。
そういうクマオの声はどこかよそよそしい。
女用の声だ。私と話すクマオの声ではない。
その後はクマオとの楽しい食事タイム。
「りこ、愛してる。」
「りこ、ほんとに大好きやねん」。
何度も何度もそう言ってくれるクマオ。
信じなければ。それが自分のためでもあるのだからと、私は何度も自分に言い聞かせた。