目の前のクマオはとてつもなく優しい。
クマオの優しさを体験すると、たとえこれが嘘でもいいとさえ思えてくる。
私には、遺伝性の持病がある。
昨日7月31日は、定期検査と診察日だった。
毎回、その前日は少しブルーになる。
決して良くならない成績表をもらう気分になるのだ。
火曜日、クマオとごはんを食べている時、「明日やだなぁ」と、ふとこぼれた。
ずっと進行していなかった病状が、昨年からぐんと悪い数値になってしまっている。
年齢的なものだと思うが、クマオはそれを、自分が私に与えたストレスのせいだと
思い込んでいる。
「りこちゃん、大丈夫?(オレのせいやな)」
クマオは辛そうに言う。
「大丈夫。がんばってくるさ」。
私は明るく答える。
「りこちゃん、
もし、 明日、 がんばったら、 ご褒美に、 明日は、 焼き肉に行こ!」。
クマオは言葉を区切りながら、敢えてゆっくり言う。
「え? 明日? 水曜日なのに? やりぃ~!!」。
ガッツポーズをする私を、クマオは笑っている。
今、目の前で現実に起きているクマオのこの優しさと気遣い。
こんなことが本当に同時に二人の女にできるのだろうか。
本当にクマオはそんなに悪い男なのだろうか。
やっぱり私に対してだけなのではないのか。
クマオを観察しながら、私は正直わからなくなる。
わからないなら、それでいいのかもしれない。
わかろうとして、本当のことを探っても、そこに幸せはいない。
もしかしたら、クマオ本人にもわからないことなのかもしれない。
もう一つの世界があることを知っている立場の私でさえ、こう思うのだから、
ましてや、この事実を知らない女が、クマオのことを微塵も疑わないのは当然だろう。
それにしても、先週から体調を崩していた女。
今週水曜のデートもお預けになるぐらい、そこそこ重症だったということなのだろうか。
お気の毒さま。意地悪な気持ちで私はそう思いながら、目の前のクマオを見た。
優しい笑顔の優しいクマオ。
とりあえず、今はこれを独り占めだ。