倉敷にある大原美術館に行こうというクマオ。
「うん!行きたい!」。
倉敷は、クマオと私が初めてのデートで行った思い出の場所だ。
その帰りに、クマオと私は初めて身体の関係を持った。
クマオは覚えているのだろうか。
あの時、私は行為の途中で気を失い、クマオを慌てさせた。
そのせいで、私は、自分に持病があることを、クマオに言うことになり、
若いクマオをビビらせたことを覚えている。
そして、その時以降ずっとクマオは、私の体調を過度に気にするようになった。
思えば、早くにレスになったのには、この日のことがクマオにトラウマのように
残っているのかもしれないと、ふと思う事がある。
倉敷に着く。9年ぶり、2回目だ。
9年前は、大原美術館には行かず、ただ美観地区を散策した。
「クマオさん、前にここに来たこと覚えてる?」
「覚えてるよ」。
前は、ここで食事して、確かここのカフェに入った。
ここで、おもちゃみたいな指輪を買ってもらった。まだあるよ。
前来た時にはこんなお店なかった。
ここ、ここ。前もこれ見たな。
そんな会話をしながら、散策する。
今日、クマオが倉敷行きを提案してくれたのは、偶然だろうか。
それとも、敢えて思い出の場所に連れて行ってくれたのか。
もし後者なら、嬉しいが、聞かずにおこう。
「クマオさん、もう9年も前のことなのに、よく覚えてるなぁ。」
「覚えてるよ」
「彼女とも来て、記憶塗り替えられてるかもって思ってた」。
クマオに一瞬の緊張が走ったのを私は見逃さない。
クマオは言葉を飲み込んで、曖昧に笑った。
「りこちゃん、暑くなってきたから、美術館に入ろう」
「うん」。