クマオの大きく手を振って帰って行く後ろ姿を見送る。
私の耳に「彼女をなだめておく」という言葉が生々しく蘇る。
さっきは余裕で聞けたその言葉。クマオの姿が見えなくなった途端に余裕を失う。
なだめるって?楽しいデートを計画してるってこと?
ベッドでいっぱいがんばるってこと?
申し訳ないと言う気持ちで、精一杯女に尽くすってことなのか。
妄想は膨らむが、考えても仕方ない。とりあえず今の私には明後日の岩国行きがある。
私は大きく深呼吸して、そのネガティブな思いを吐き出して、眠る。
4日午前中。クマオからの連絡を待つこともなく、ダラダラ過ごしていると、
クマオから電話。何事?
「りこちゃん、荷物の用意できたよ」。
「そうなん。で、どうしたん?」
「いや、荷物ができたこと言いたかっただけ」。
何なんだろう。このクマオ。と思った瞬間、以前のクマオを思い出した。
そうだった。以前のクマオはいつもこんなふうだった。
「りこちゃん、起きたぁ」「りこちゃん、用意できたぁ」。事あるたびに電話をかけてきていた。
女ができてから、クマオはどこか男っぽく振る舞うようになって、私への態度も微妙に
変わっていたのだった。クマオは私の方にだいぶ戻ってきている。そんな気がした。
女とはこれから会うんだな。なだめるために。
「じゃあ、明日よろしくお願いします」。
私はそう言って電話を切った。