帰宅後、私はお風呂場に直行した。シャワーを浴び、着替えてからクマオに連絡した。
予定よりも1時間ぐらい遅れている。
クマオの声は暗かった。
「今、会社で仕事してる。じゃあ、これから帰って迎えに行くよ」。
クマオの車に乗りこんでも、クマオは表情が暗い。私のしたことはそんなに悪いことだった
のだろうか。いつも自分は女を抱いてから私を迎えに来るくせに。私がそうするとこうなる?
私は心の中でふつふつと思う。
ずっとそんな調子のクマオに、私はついに言った。
「どうしたの?元気ないね」
「いや、何もないよ」
「明らかに元気ないよ」
「そうかな」
「私が彼氏と会ってきたってことが、まさかそれが原因じゃないよね?」
「ちがうよ」。
話はいったんそこで終わった。
焼肉を食べ終わり、日本酒をしっぽり飲む頃になると、クマオは話し出した。
「りこちゃん、車にピアス落としてたでしょ。」
「え?」
「うん、いや落ちてたんよ。それを彼女が見つけて・・・。」
「え?うそ!クマオさん、いつも私が降りた後、念入りに助手席の掃除してるやん」
「うん・・・」
「あ、この間、美術館の帰り、シート倒して寝た時に落ちたんだね。ごめん!」。
そう言いながらもちょっと楽しくなる私。悪魔の私が顔を出す。
いつもクマオの車に何か置土産をしたくなるのは事実だ。何も知らないその女を苦しめて
やりたい一心で。でもクマオは用心深いし、わざとしていることがバレるのも嫌だし、結局
いつも何も痕跡を残さない。
「で、大丈夫だったの?」
「うん・・・大変だったけど、○○ちゃん(クマオの弟の嫁)のだと言ったよ。」
「信じてくれたの?」
「何とかね・・・。でもちょっと締め上げがきつくなるかも。りこといても早く帰らなきゃいけなく
なりそう」
「そうなんだ・・・」
クマオの暗さの原因はこれか。女を傷つけることになったことが心外だったのか、それとも
締め上げがきつくなって、自由が利かなくなることを憂慮しているのか。
どっちにしても、私は、女の顔をゆがませることはできた。ちょっとウキっとする。