クマオと私はお互い誕生日を祝いあうということをしたことがなかった。

 

私は、クマオとの年齢差を気にしていたし、どちらかと言えば年齢のことが気になる誕生日は

 

そっとしてほしいと思っていた。クマオもクマオで、誕生日を祝う習慣がない、そんなのくだらな

 

いと事あるたびに言っていた。ただ、全く無視していたわけではない。

 

私の誕生月の6月になると、「ちょっと早いけどお誕生日だしね」と何かを買ってくれたり、

 

特別なレストランを予約してくれる。クリスマスもそんな感じだった。

 

大抵のカップルが、ここだけはと気合いを入れるそういうイベントをクマオと私は敢えて

 

避けているところがあった。そしてお互いそれが楽だと感じていた。

 

ところが、今、クマオの口から出た言葉は、「彼女が誕生日だったから」。

 

「クマオさん、誕生日のお祝いなんてしない。そんなのくだらないっていつも言ってた人じゃん」

「・・・彼女がそういうことをしてほしい人だから」

「は?私だってしてほしかったよ」

「りこは誕生日嫌いだっていつも言ってたやん」

「嫌いだよ。でも内心は何か期待してたよ」

「・・・・・」

「プレゼントあげたんだ。何あげたの?」

「・・・・・ピアスだよ」

「ピアス?オシャレに興味なかったんじゃなかったの?その彼女」

「オシャレに興味のない女性なんているか!」

「クマオさんがそう言ってたから、私は信じてただけ」。

 

私はもう無理だと思った。何もかもが信じられない。バカげた会話だ。

 

「もういいよ」

「オレはこんな話になって、りことの時間を台無しにしたくない」

「クマオさんがどれほど彼女のこと好きかはっきりわかったよ」

「・・・・」。

 

黙り込むクマオを見ると、私はさらに自虐的になった。

「ほんとうはクマオさんもそういうことがしたかったんだね。ロマンチックな夜を演出して彼女を

喜ばせたいそういう人だったんだ。こんな私みたいなおばんさんにはしてもしょうがないと

思ってたんだ。よくわかったよ」。

 

クマオは黙って下を向いていた。長い沈黙。

 

「クマオさん、私決心ついた。別の人と本気で付き合ってみる」。

私がそう言うと、クマオは大粒の涙をぽろぽろと流した。