車は、すぐそばの建設会社の駐車場に入った。

 

中途半端な位置で車は止まり、エンジンもかかったまま停車していた。

 

近づく勇気はない。心臓がドキドキした。このまま帰ろう。それがいい。

 

空を見上げて深呼吸した。そこには満月。

 

「きっとあなたが私をここに来るように力をくれたんですよね」。

「お願いです。力をください」。

 

満月に向かってそう祈ると、私は気づかれないように身体を低くしたまま、車に近づいた。

 

クマオが軽自動車の後部座席に座っているのがシルエットでわかった。

 

運転席には女がいた。女の車で帰ってきたのだ。イチャイチャしているのか、女の

 

甘えたようにはしゃぐ声が聞こえたりシーンとなったりしている。

 

ずっと昔、自分も同じようにした記憶がある。私の車で帰ってきてこの同じ場所に

 

同じような状況で数十分とどまったこと。今はそれを別の女がやっているのだ。

 

20分ぐらいはゆうにたったと思う。半分凍り付いたまま、ただただ私はその車を

 

見つめていた。それほど冷え込んだ夜ではなかったが、もう限界と思い、

 

震える手でもう一度クマオに電話をかけた。

 

スマフォがブルったのがわかったのだろう。それを合図にクマオのシルエットが

 

動いたかと思うと、やっと車から降りてきた。

 

前に回って運転席の女に窓越しにキスをするつもりだったのだろう、私のいる方に

 

身体を向けた。その瞬間、私に気づき固まるクマオ。数秒後、観念したように

 

こっちに近づいてきた。顔は血のけが引いていた。

 

女の車もそのままそこにとどまっていた。きっと何が起きたかわからず、ミラーで

 

こっちを確認しているはずだ。クマオはもう一度車の方に戻り、女に帰るよう促した。

 

女は帰っていった。その様子はクマオの何が何でも女を守りたいという強い意志の

 

表れのように思えた。相当すすんでる、この二人。

 

私は見てはいけないものを見てしまったのだ。