2022.02.25 昨日の続き。方向性変えない程度にフェイク入れてます。
(前回と同じくフィクションです)
さて。
彼女の父親であるが、実は地元ではかなり有名な書道家である。
定年退職をする前までは会社勤めをしていたが、その傍ら書を書き続け、作品を出展し、高く評価されていたらしい。
今は会社を退職し時間が出来たので、書道のほかにも絵画、音楽、あらゆる芸術に挑戦し、その才能を発揮している様子だ。
彼女が子供の頃から毎日のように、父の友人や知り合いが客として家にやってきていたが、それは未だに続いている。
父親の輝かしい経歴、人生、人々から得る羨望、尊敬。
それと引き換えに犠牲になったのが、この母娘の人生だったのかも知れない。
外で多くの人から尊敬されている父親は、自分の妻や娘たちからは決して尊敬されていなかった。
酒を飲むと傍若無人に振る舞い、更に客人が帰れば家族に暴力を振るう人間であったからだ。
客が来れば料理や酒を持って来いと言う。
酒を飲めば夫の人が変わることを知っていても、妻は客人の前で何も言うことが出来ず、このあとどうなるか分かっているのに、手の込んだ料理と酒を一緒に出す。
出さなければ、後で暴力を振るわれる。
しかし酒を出せば酔っ払うので、どの道を選んでも暴力、暴言は免れない。
妻は客人の前で究極の選択を迫られる。
世間体、夫の立場と名誉を守るべきか、夫の健康を考え、悪循環を止めるべきか。
毎日の来客。
毎日のジレンマ。
地獄のような日々。
彼女の母親は、そんな極限状態で子育てをして来たのだ。
やがて、母親はリウマチと癌を患うことになった。
「ずっとお母さんが可哀想と思って生きてきた」と彼女は言った。
どうやら、彼女は愛情と憎しみと、複雑に絡み合った想いを、母親に抱いていたようだ。
母親に辛く当たられる度に、怒りや反発を感じながら。
同時に、父親の粗暴な振る舞いに耐える母親の気持ちに、必死に寄り添おうとしてきたのだ。
彼女には妹がいた。
彼女の妹は20歳の頃、早々と結婚をして自立した。
今は子どもも大きくなり、幸せな家庭を築いている。
一般的に、長女より次女の方が処世術が上手い、一番目より二番目以降の方が母親からの感情の集中砲火を比較的免れやすい、とは言われているが…
妹が早く結婚して家を出たのは、妹の人生としては大正解だったのだろう。
ある日、彼女は私たちスタッフに語った。
父親に孫の手で殴られた思い出を。
一番長く職場にいた私は、すでに何度かそれを聞いていた。
いつもそれを語る時の彼女の口調はまるで、5歳児のようになる。
「あのね、パパがね、私のこと孫の手で殴ったんだよ…」
彼女の人生の時系列は混乱している。
大人になっても、父親と激しい衝突がある度に、彼女は5歳児に戻るのだ。
口調や人格が、幼くなる。
…今日はこのへんまで。


