神田孝一著「思想戦と宣伝」という本があります。昭和十二年に出版された古い本ですが、ネットがあれば、国会図書館の近代デジタルライブラリーで閲覧できます。
基本的には翻訳書です。原書はCampbell Stuart著"Secrets of Crewe House"です。キャンベル・スチュアートは、第一次世界大戦時、英陸軍中佐としてイギリスの対ドイツ宣伝作戦を実施した人物です。イギリスの宣伝は効果をあげ、ドイツにはありもしない悪印象が根強く植え付けられました。
日本に関する神田孝一の言及もあります。自由主義、民主主義、共産主義などの外来思想が流入し、それらを鵜呑みにし続ける日本人の有様を見て、政府が危機感を持ち、思想戦上の防衛のため動かざるを得なかったことがわかります。当時、すでに日本には「侵略国」という悪名が英米によって付けられていました。侵略国というならイギリスこそ世界最大の侵略国でしたが、そんな事実はどうでもいいのです。思想戦では嘘でも捏造でも流布させて、信じ込ませてしまえば勝ちです。平和運動さえ思想戦の一環でした。平和とはつまり現状維持であり、世界を制覇していた欧米列強にとって平和ほど都合の良い大義名分はありませんでした。またソ連は、組織的な対日思想戦を実施すると宣言していたのです。
やむなく日本政府は思想防衛戦を開始します。皇国史観や国体論を強調し、八紘一宇というスローガンを叫び、治安維持法を整備したことには一定の合理性があったといえるでしょう。