もの 思うのには
何か きっかけが
あるはずですが...


なかなか すぐに
その由縁が
わからないことがあります



ひと月ほど前から

何故だか
とても気になっていた
ゾラの『居酒屋』


40年前に読んだきり
内容もほとんど
覚えていないけれど



小説のなかの
熱気だけは 覚えていて

なつかしく思う

主人公の
洗濯婦(おんな)にも
あいたいと思う


この本
ひとたび 開くと


登場人物のざわめき
喧騒が 
すぐさま 聴こえてきそう....





わたしの小さい頃は...

洗濯板を使って
ゴシゴシ 洗濯を
しました


皆さんは
洗濯板、ご存知かしら?


いま、検索したら

販売されてるんですね!
驚きました



この波形の突起に
衣類をこすりつけて
洗います


古い演劇に

川のほとりで
布をたたきつけて洗う
仕草があって


その演劇を見たとき
ゾラの描く洗濯婦を
思いだしました


『居酒屋』の洗濯婦たちも
床に叩いたり
棒で叩いて、洗濯します




物語の舞台は、19世紀の
場末のパリ

下層庶民の 息づかいが
これでもかというくらい

描かれています


主人公ジェルヴェーズは

なかなか帰って来ない
内縁の夫を
夜中まで待って...


哀しみを溜めています


2週間ばかり借りている
「親切館」という名の
ホテルの部屋から

昨夜、往来をのぞいて


ダンスホールに入る
夫を見かけたのです


夫の数歩あとを歩く
女の姿も...


ふたりが
つい 今しがたまで
腕を組んでいたような
雰囲気を感じとってしまう
ジェルヴェーズ


ゾラの表現が
こんなにも
細やかだったなんて
今さらながら気づきます


いつも 大きな仕事の
ことを考えている
浪費家の夫


彼女には 彼との間に
14歳で産んだ子と

それから4年後に
産まれた2人の男の子が
いるのです


正式な結婚をしそびれて
いるうちに...

彼女と2人の子は
ついに 内縁の夫に
捨てられてしまいます


小さい頃から
父親に殴られて育った
ジェルヴェーズ

故郷では10歳から
洗濯女をしていたので

22歳のいま
すでに洗濯女としては
年季が入っています


その後

ブリキ職人クーポーと
「居酒屋」で
ブランデー漬けのプラムを
食べているとき

いい寄られます

"...こんど世帯をもつことがあったら、ぶたれないこと。いやよ、ぶたれるって..."


ジェルヴェーズは
やがて
クーポーの誠実さを信じ

世帯を持つのです


妊娠8カ月の身体で
新しい住まいを得て
引っ越したのち

女の子を産み


懸命に働いて
小さな夢に包まれて
けなげに
暮らす日々


部屋を飾ったり
使い勝手を考えたり


暮らしに愛情を注ぐ
ジェルヴェーズ

夫のクーポーも
まじめに仕事をし
彼女も身を粉にして働きます

欲しかった振り子時計も
ようやく手に入れ

その時計のうしろに
隠している貯蓄銀行の
通帳に
いつしか お金も溜まり...


彼女が
自分の店・洗濯屋を
持つことを
夢想するときには


その振り子時計の
文字盤の前で

「時のたつのも忘れてじっと針の動きを見つめ、肚(はら)を決めるためになにかしら特別の、荘厳な瞬間を待っているように見えた」






.....


それからいくつか歳月が
たちます


仕事中に落下して
働けなくなった
夫クーポーの人柄が

少しづつ 野放図になり




ジェルヴェーズが
念願の洗濯屋をオープンし
誇らしげに
輝いていたときが 過ぎ



嫉妬や根性悪からくる
うわさ話にも めげず
頑張ったときが 過ぎ


ちょっとぐらい
贅沢したって
いいじゃない

亭主には
長い紐をつけて
遊ばせておくのさ


そんなふうな
気分が してくる ころ


往来に立って 
彼女は、昔、願ったことを
思い出します


"働き、パンを食べ、自分の住居をもち、子供を育て、なぐられず、寝床で死ぬ" 


すべてが
叶えられそうでしたが ...



日々の暮らしで
いつしか 

彼女は
しだいに誠実さを失い
繁盛していた
洗濯屋も信頼をなくし

むしばまれ
崩壊していきます



自堕落になって
借金にまみれ
空腹をかかえ
彼女は死んでいくのでした

ブリキ職人の夫も
アルコールによって
狂死しています



ジェルヴェーズの
最期の姿を描くゾラの筆致は
慈悲深く感じます


貧乏人用の
粗末な棺桶をかかえて
納棺にきた葬儀人夫は

ジェルヴェーズの
亡骸に語りかけます


「誰でも行くのさ...。押しあいへしあいの必要はないやね。席はみんなにあるんだから...。... やっとその時がきたってわけさ、まったくね! この人はほしいものを手に入れたってわけさ! さあ、陽気にゆきましょうぜ!」

「... ねえ、よくお聞き....。さあ、おまえさんはしあわせになったんだよ、ぐっすりねるんだよ」



けなげに夢を追いかけた
ジェルヴェーズが
転落していくさまを
見ると


ゆらりと崩れていく 身を
せきとめる
信念みたいなものが
なければ

"依存症" のような欲望に

誘惑しつづけられ

崩壊に
連れていかれるのか...


描かれた世界は
過去のものでなく
いまも
そこかしこに見聞きする
人間模様にほかなりません


"時代と環境と遺伝"

私たちの生は
それらを乗り越えて 
行かなければ ならない...


たくさんの登場人物の
なかにあって


父親に 虐待されても
なお、慈母のような心で
死んでいくラリーという
8歳の少女の存在は

わたしに
ある少女を想起させました



作家の精神が
こんなにも尊く

時代を超えて 
生き続けることを
あらためて感じます


翻訳者の
古賀照一氏(詩人・宗左近)に
感謝の気持ちが湧きます



さて
わたしを『居酒屋』に 
誘った遠因は ...


わたしのなかの
喧騒が
目を覚ましたからか...





今日もお訪ね
有り難く思います

庭の花は
前にもアップした
色あざやかなガクを持つ  
ハンギングヘリコニア

ことしは
7房あります


...


逃げ道のない
動物たちが どうか
救われますように...