窓際のトットちゃん | 夢を見る本

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窓ぎわのトットちゃん (講談社文庫)



日本で「戦後最大のベストセラー」と呼ばれている本書。
私の年代の人には「トットちゃん」と言われてもなじみがないかもしれませんが、トットちゃんと言えば、タレントの「黒柳徹子」さんのこと。
そう、この本はあのタマネギ頭の陽気なおばあちゃん、黒柳徹子さんの子ども時代を思い返したエッセイでです。

タレントの出した本が、「戦後最大のベストセラー」なんて、ミーハーっぽいとおもうでしょうか。
でも、この「窓際のトットちゃん」には「タレント本」以上の魅了があり、それは出版から30年以上たった現在も色あせていません。
日本を代表とする児童書の一つです。

ひそかにささやかれている噂でこんなものがあるのはご存知でしょうか。
「黒柳徹子は発達障害だ」
初めて聞いたときは「酷い噂だ」と思いましたが、この噂は、何も悪口だけでたっているものではありませんでした。
と、いうより、黒柳さんは「小さいときから考えてきたこと」という自伝所で「私はどうやらLD(学習障害)があったかもしれない」と、ご自分で書いておられます。

でも、NHK初の専属女優として、テレビ放送が日本で初めてされた時からずーっとテレビに出ていらっしゃる方で、日本人ならだれでも知る名司会者・名タレントの黒柳さんが、発達障害?なんて本当かな?と思ってしまいます。
その謎が、この「窓際のトットちゃん」に書かれています。



黒柳徹子さんことトットちゃんが、この物語の主人公です。
「徹子ちゃん」が、「トットちゃん」と聞こえ、「ちゃん」までが名前だと思っていたそうで、いつも自己紹介の時は「トットちゃんです!」と元気に答えていました。

そんなトットちゃんは、最初に通っていた小学校を1年生で退学になってしまいました。

今の時代、小学校を退学になるなんてことありえませんね。
トットちゃんは、おしゃべりが大好きで、早口で、しゃべりだしたら止まらない子のようでした。

小学校の机は、蓋があるタイプで、トットちゃんはそれがとても珍しく感じ、鉛筆を取り出しては閉め、文字を書いては開け、消しゴムを取り出しては閉め、何度も何度も開け閉めしていました。
窓際の席になれば、授業中にもかかわらずチンドン屋さんを呼び込み、授業になりません。
外に向かって誰かに大声で挨拶しているかと思えば、巣を作っている鳥に挨拶していた。
このエピソードは、今の時代だったら「多動傾向にある」と診断されてしまいそうなエピソードかもしれませんね。

先生はそんなトットちゃんに疲れ果て、学校はトットちゃんを追い出す選択をしました。
トットちゃんのお母さんは、とても不安でした。次の小学校でも、トットちゃんを受け入れてもらえなかったらどうしようと……。
でも、小学校を退学になったことはトットちゃんに伝えませんでした。もし伝えたら、トットちゃんの自尊心がひどく傷つくと思ったからです。
それに、トットちゃんのことは、困った子だと思っておられましたが、それも「個性」として、こんな陽気なトットちゃんの良さを認めてくれるような学校を、お母さんは探していました。
トットちゃんの母親は、とても素晴らしい母親ですね。

この戦前の時代、日本はまだまだ貧しかったはず。小学校を退学になる、しかも跡継ぎにもならない女の子、「お前は出来そこないだ!家事手伝いでもしてさっさと嫁に行け。」と扱われてもおかしくない時代です。
トットちゃんのご両親は、トットちゃんを「一人の人間」として扱っていたのです。
トットちゃん自身も「トモエ学園(次の小学校)の面接のとき、もし「あんたは前の学校を退学になったのよ。」と伝えられていたら、どれほど惨めな気持ちでオドオドしながら向かっていたでしょう。」と語っておられています。
時代の一歩先、二歩先進んだ「親の愛」を、黒柳さんご夫婦から感じます。

自分のことを「トットちゃん」と言うのも、誰も叱りませんでした。それどころかお父様は「トット助」なんてあだ名で呼んでくれていたそうです。犬のロッキーと、お父さん以外は皆「トットちゃん」と呼んでくれていたとか。
普通だったら、心配性だったり意地悪な親戚が「この子はちょっとおかしい」と言うのでしょうか。でもきっと、黒柳ご夫妻は、そんな言葉に惑わされず、のびのびとトットちゃんを育てたのでしょう。
両親に「一人の人間」として扱われ、周りに理解してもらいながら育ったトットちゃんだからこそ、今の「徹子さん」に成長したのだなと思います。


面接に行った小学校は「トモエ学園」という、一風変わった学校でした。
何と、校舎が本物の電車でできていました。トットちゃんは一目でこの学校を気に入りました。
校長先生との面談は、お母さんは抜きの、トットちゃんと校長先生との2人きりで行われました。「好きなことを話してごらん。」という校長先生の言葉に、トットちゃんはせきを切ったかのようにしゃべりだし、なんと1年生にして4時間も続けて喋り倒したのです。

4時間も喋れるトットちゃんは凄いですね。朝起きて歯を磨いて……毎日の楽しい出来事を、喋りたくて仕方のない子だったんですね。皆と楽しさを分かちあおうとしているだけなのに、邪険に扱われて、トットちゃん自身も少し疎外感を感じていました。でも、校長先生はすべて受けとめてくれた。素敵なことですよね。校長先生は、教育者の鑑だと思います。
初めて退屈がらずに、楽しそうにトットちゃんの話を聞いてくれた校長先生を、トットちゃんは大好きになりました。学校にも見事、通えることになりました。


新しい学校に行ってからも「トット節」は全開です。地面に敷いていた新聞紙を見て「面白そう!」と思い、後先考えずジャンプして突っ込んだら、それは下水のマンホール代わりにかぶせていたもので……。肥溜めに突っ込んだトットちゃんのことを、嫌がりもせずに洗ってくれた用務員さんとのエピソードもあります。

私が好きなのは、愛犬ロッキーとのエピソードです。一緒に遊んでいたところ、2人(1人と1匹?)はヒートアップしてしまい、ロッキーがトットちゃんの耳を噛み千切ってしまいます。トットちゃんは、ロッキーが怒られてしまう、と、そればかりが心配で、ちぎれた耳を隠し、何があったのか詰めいる両親に「ロッキーを怒らないで!」とそればかりを繰り返した……。黒柳さんの溢れんばかりの優しさは、この頃からおありになったのだなと思いました。
何とも可愛らしい、面白いお話が本書にはたくさんあります。


トモエ学園はとにかく不思議な学校です。

まず、席順はありません。毎日好きな席に座ります。なので、隣の席の友達も毎日違います。みんなと、まんべんなく仲良くなれます。
そして、時間割がありません。毎朝黒板に、今日にやる教科が書いてあるだけで、皆好き好きに自分で時間割も、時間配分もします。
これは、自分で考える能力を身に着けさせるためです。好きな教科から始めるのか、嫌いな教科を先に片づけるのか、時間配分はどうするのか、わからないことがあったらちゃんと先生に質問できるか、そういう能力をつけようというねらいです。
この時間割はとてもいいと思います。とにかく自発的なお子さんになるでしょうし、好きな科目をとことん学べるからです。トットちゃんも初めはこの勉強スタイルに戸惑いましたが、書道をしたり、アルコールランプをつけたり、好き好きに勉強している空間をすっかり気に入りました。

そして午後は、皆がうまく時間配分できて一日の教科が終わっていたら……「散歩」に出かけます。これもすごいですね。
この散歩も、ただの遊びではありません。河原の道では遅れる子に手を貸し、草花の匂いをかぎ、実際に目で見て触れて、先生も植物のことなどをその場で教えてくれ、近くの神社の歴史を知り、色んな事をいっぺんに学べる課外学習なのです。体育の授業にもなります。子供たちも、楽しみながらいつの間にか多くのことを勉強しているのです。なんて、楽しそうな学校でしょう。

こんな破天荒なトモエ学園の生徒は、決して他人の家の塀に落書きしませんでした。それは、学校で落書きできたからです。音楽の時間、講堂の床に、チョークで楽譜を書く授業があったのです。終わるときには、皆でモップで拭き掃除。この授業のおかげで、悪戯心も満足させることができたのです。

トモエ学園には、身体に障害を持った子も数人通っていました。小児麻痺の子、身長が伸びない子、そんな子供ものびのびと、皆と一緒に遊びました。プールの時間は、水着をもってきている子もみんな裸で遊びました。水着に着替える時間がもったいないからです。身体の不自由な子も、一緒になって生まれたままの姿で遊びます。最初は抵抗があっても「みんな一緒」の精神で、子供はしだいに気にしなくなります。小さい頃にそういう思いに触れた子は、大人になっても、障害のある人を差別しない人になります。
背の低い子、高い子、女の子、男の子、人の体は自分と違う、色んな子がいる、でも、皆生きている、同じ人間。細かな違いはあっても、それは何の問題も無い。みんな一緒にプールに入れば楽しい、それが大事。そういうことを気づかせるねらいです。

そしてこの学校の一番の目玉はリトミックです。リトミックとは、音楽を使った教育法のことです。リズムにのり、心と体のすこやかな成長を促します。好き好きに踊るように学ぶこの授業がトットちゃんは大好きでした。
全校生徒50人、少数体制。今の日本は1学級40人体制ですが、算数の授業は少数で行っているところも多いようです。個別に近い指導が、理解度アップにつながることがわかっています。
トモエ学園は、戦前の学校にして時代の先のその先を見据えた教育方法を行っていました。


トットちゃんは、とてもお転婆で、普通とは違う女の子でした。自分でもそれはうすうす感じていたのです。でも、そんなトットちゃんに校長先生は何度も言いました。

「君は、ほんとうは、いい子なんだよ。」 と。

この言葉の意味は、小さなトットちゃんにはまだわかりませんでした。「ほんとうは」の意味も。
でも、トットちゃんはこの言葉が大好きでした。こう言ってくれる校長先生のことも。「私はいい子なんだ!」と、胸を張って言えたのです。自己評価を高められたのです。トットちゃんは、大人になっても、ずーっと、辛いときに「私はほんとうはいい子なんだ」と、この言葉を思い出して、励みにして、頑張ってきたそうです。小さな時に受けたこの言葉が、「黒柳徹子」という人間を作り上げる重要な礎になったのです。


そんなトモエ学園でのびのびと育ったトットちゃんですが、時代の波は、のびのびと育つ子供達をものみこんでいきました。
第二次世界大戦がはじまったのです。
トモエ学園は、東京の空襲で、燃えてしまいました。何もかも燃えてなくなっていく東京の街で、校長先生は「さあ、次はどんな学校を作ろうか。」と言うのです。
先生の教育の情熱は、日本中を焼く炎よりも熱く、燃えていました。
その頃、トットちゃんは疎開へ行く電車に揺られていました。「君は、ほんとうは、いい子なんだよ。」の言葉を胸に、「またすぐに会える」と、希望をもって……。



児童書にしてはぶあつい300ページを超える本書ですが、あっという間に読み終わりました。
子どもにとっては自分と重ねて楽しめる、大人にとっても自分の子ども時代を思い出し、または自分の子どもへの接し方を考え直す機会になる、誰にとっても楽しめる、本当に素晴らしい作品です。

子どものすこやかな成長へのヒントが本書にはたくさん詰まっていると思います。小学校を1年生で退学になるほどの「問題児」が、なぜ、日本を代表する人物、しかも「ユニセフ親善大使」になれたのでしょう。「小学校を退学になった」という本人の「側面」ばかりを見ず、「君は、本当はいい子なんだよ」という「本質」を見てくれた人が周りにいたという事実はとても大きいと思います。

気の済むまで喋らせてくれた・やらせてくれた、一人の人間として認めてくれた・信じてくれた、自分の落ち着きのないところを個性として尊重してくれた・良い部分を褒めて伸ばしてもらえた、そんな子供時代が、どれだけ黒柳さんの成長に大事だったでしょう。
確かに、小さい頃の行動を見れば、今の時代で言えばADHDの傾向はおありになるかもしれません。でも、黒柳さんはそれを自分の「個性」に変えて、日本人を代表とする著名人となられております。

「君は、ほんとうは、いい子なんだよ。」という先生の言葉は、黒柳さんを大人になっても支えました。
「ほんとうは」の言葉の意味は、
「何をやっても裏目に出て、社会のルールに沿わないことをして、落ち着きが無く、小学校を一年生でクビになるほどの問題児で、これから先、きっと何度も叱られたり悪口を言われるかもしれないけど……」
という意味が込められているのです。「それでも」トットちゃんのそれ以外の「長所」
元気なところ、優しいところ、面白いところ、素直なところ、いるだけで周りがパッと明るくなるところ……
いいところは、たくさんあるのです。そんなトットちゃんに向けての「君は、ほんとうは、いい子なんだよ。」でした。

黒柳さんは「先生のあの言葉が無ければ、母親が自分に劣等生の烙印を押していたら、私は何をやっても叱られて、自分に自信が持てずコンプレックスになり、何もできない大人になっていたでしょう。」とあとがきに書いておられています。
黒柳さんは、その言葉を支えに、お転婆なところも早口なところもおしゃべりなところも最大限に自分の魅力として表現し、誰にも愛される人物となられました。


黒柳徹子さんは、この本で得た印税で「トット基金」を設立し、障害を持つ子供たちに募金しています。
それに、皆さんもご存じユニセフの親善大使としても活動されています。黒柳徹子さんの口座に募金をすれば、1円も無駄にすることなくユニセフに募金してくださいます。
トットチャンネル/お願いチャンネル
↑から、黒柳徹子さんの言葉と、募金の講座の案内のページに飛べます。

現在で、日本から50億円を超える募金が黒柳さんのもとから世界中の子どもへ届けられています。
募金してくれた人へのお礼のお葉書はだされていません。82円切手があれば、その82円を募金したいからです。黒柳さんは、本当に、心の優しい素晴らしい方です。


「窓際」とは、当時リストラ候補だった社員を窓際に置く風潮からと、自分も騒がしいからと窓際に置かれ、チンドン屋さんを呼んだり鳥に挨拶したりと、その2つの点からつけたそうです。
そんな崖っぷちだったトットちゃんが、名実ともに日本を代表とするタレントになり、ユニセフ親善大使となったのです。


そんな黒柳さんの心の礎になった幼少期の思い出がつまっている「窓際のトットちゃん」。
本書は定番すぎるのか、私の近くの図書館に置かれていませんでした。「古い本だし、借りられすぎて汚くなってしまって……。」と図書館員の方は言っておられていました。図書館はベストセラーを読みに行くところではありませんが、それにしても……とちょっと思っちゃいました。この本を、なるべく多くの方に触れていただきたいです。
kindleにも売っていなくてちょっとショックです。こんなに有名な本なのに……。


昨今は、母親も働くのが当たり前になりました。むしろ、母親も働かないと、夫の収入だけでは生活できなくなってしまいました。そのせいか、母子との関係が希薄になり、母と子の関係に亀裂がある家庭が増えているとのこと。

最近、子供の発達障害が増えているとのニュースを目にしました。
今まででは「落ち着きがない」「ドジでおっちょこちょい」だったのが、今では「障害」に分類されるようになるケースもあります。
ADHDのお子さんは、自己評価が低く、自分に自信が持てない人が多いそうです。何をやってもうまくできない、叱られてばかり、自分はなんて出来損ないなんだろう……。と。それは、大人になった時も、耐え難い傷となって一生残る人もいるそうです。
黒柳さんも「自分もそうなっていたかもしれない」と言うほどですから、周囲の理解と言うものはとても大切なものですね。

逆に、ADHDでないのに、似たような症状が出ていて、実際は違うのに誤診されるケースも多いそうです。子どもは愛情が不足すると母親にかまってもらいたいがゆえに、多動のような行動をするそうです。発達障害が増えているように感じるのは、そのせいもあるようです。

「窓際のトットちゃん」は、今の時代にこそ必要とされる、子育てのヒントがいっぱい詰まった本だと思います。

「昔のベストセラー」なんて思わずに、一度、定番だからこそ読んでみませんか。
本当にいい本には、読むのが「遅い」も「早い」も無いように思います。
読んだ時が、その人にとって一番適切な時期なのだと思います。

私にとって本書は特別な一冊となりました。




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