会社員時代、私はよく
休みが取れると祖父母と一緒に
箱根だの伊豆だのに
旅行に行っていました。
・・・ほら、私は当時
週末に仕事が入っていてですね。
休みがどうしても平日になってですね。
学生時代の友人達とは
時間が合わなくて
なかなか遊べたりしなくてですね。
それでほら私は、温泉とか好きだったし、
長距離ドライブも苦じゃなかったし・・・
そうだよ!
社内恋愛とかそういうものとは
縁のないい新入社員だったんだよ!
だからせっかくの休日も暇だったの!
誰もデートとかに誘ってくれなかったから!
そういう理由で祖父母に
一緒に遊んでもらっていたの!
社会人にもなって!
(以上、逆ギレ終了)
私としては祖父母を温泉に浸け
美味しいものを食べてビールなど飲んで
普段の不摂生と疲れを昼寝で癒せたら
それで旅の目的は果たした、
みたいな気持ちだったのですが、
祖父母は祖父母で
「貴重な休日をこんな
老人孝行に費やさせてしまうのは、
嬉しい反面、申し訳ない」
みたいな感覚だったらしく。
夕食を食べ終わると決まって祖父は
「俺とばあさんは宿でゆっくりしているから
明日の昼間はお前、どこかで遊んで来い」
祖父の気持ちはわかるのです。
でも・・・
でもね・・・
妙齢の女が伊豆でひとりで遊ぶのってね・・・
割とね、まあ割と、難しいの。
熱川バナナワニ園 をひとりで散策し
自暴自棄な気持ちでプリクラを撮ったのは
今ではいい思い出です。
(切符売り場で
『大人、一枚』という瞬間が
一番勇気が要りました)
一度、私が仕事の都合で
祖父母を箱根に置いて
単身東京に戻ったことがあります。
祖父母は箱根にもう二泊ほどする予定でした。
小田急を使うために箱根湯本駅に行きました。
祖父母が見送りについてきました。
いや、別にお見送りいただかなくても
自分ひとりで切符も買えますし
ホームも見つけられますから!
と言っても、普段は面倒くさがって
観光らしい観光なんかしない祖父が
「いや、どうせだから俺たちも
一緒に駅までタクシーで行って、
で、帰りは登山鉄道に乗ろうと思っているから」
切符を買い、改札を通って振り返ると
恐ろしいことに祖父母がにこにこと
微笑みながら私に手を振っていたんですよ。
それがですね!
もう露骨に
「まあ、あの子がねえ・・・
こんなに大きく、立派になって・・・!」
みたいな笑顔なんですよ!
勘弁して!
たかがひとりで切符を買って
自力でホームを見つけただけでしょ!
そもそも私は成人してから
もうずいぶん経つような年齢ですし!
また一歩離れて見てみると
うちの祖父母はもう間違いなく
『高齢の夫婦』そのものだったんですよ・・・
私は子供の頃よく祖父母に連れられて
箱根に遊びに来ていたんです。
幼い私にとって箱根湯本駅は
迷子にならないのが嘘、というほどに
大きく騒がしい駅でですね。
私は祖父母からはぐれないよう
必死にその手を握っていたことを
やはり今でも覚えているんですよ。
それがどうですか、
駅だって新宿駅に比べたら
笑っちゃうくらいに静かだし小さいし、
こうして眺めてみる祖父母は
帰りの登山鉄道のホームを
無事に探せるか心配になるほど
ばっちり老いているわけじゃないですか!
私は改札を挟んで祖父母に向き直り
「ちょっと、お祖父様とお祖母様、
登山鉄道乗り場がどこだか
ちゃんとおわかりになっています?
なんか不安だから私も一緒に行きます、
で、そこで二人の乗る登山鉄道を見送ってから、
私はこのホームに戻ってきますよ」
私の申し出を祖父母は笑って断って
「馬鹿、宿まではタクシーで帰るよ。
いいからさっさと電車に乗れ。
そろそろ発車時刻だから!
お前がちゃんと正しい電車に乗れるか
俺たちがここで見ていてやるから!」
平日の昼間の小田急線は
嫌になるほど空いていて、
私はどっかりと座席に座ると
さきほど目にした祖父母の様子を思い出し
たっぷり一駅分泣いたのでした。
あれはどういう涙ですかね?
ちなみに泣きながら私は
「あの祖父母の様子は反則だ。
あれはまずい。
私はたぶん一生、死ぬまで
あの二人の満面の笑顔を、
改札口に肩を寄せ合って立つ様子を、
私に向かって手を振る仕草を忘れられない。
そしてあの光景を何かの拍子に思い出すたび、
私は泣く、間違いなく泣く!
何だこれは、呪いか!」
と心の中で呟いていたのですが、
私の先見の明は正しかったようです。
恐怖の呪いの実証の話は明日に続く。
ま、当時の私はかなりの
伊豆・箱根の通だったってこった
大室山 にも確かひとりで登りましたよ、
ええ、リフト券売り場で堂々と
「大人、一枚」をやりましたよ
もちろん帰り道は
シャボテン公園 経由だ!
ペリカン、大好き!
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