生活保護の患者さん | kyupinの日記 気が向けば更新

生活保護の患者さん

僕が子供の頃、行きつけの歯科医院では生活保護の人を受けつけていなかった。その歯科の先生は僕の友人の父親だったので後年、なぜそうしていたのか聞いたことがあった。あまり詳しいことは聞けなかったが、単に面倒だったかららしい。自費診療の利益の部分が大きい個人経営の歯科医院が、生活保護の人たちの治療をしない方針にするのは理解できる。

精神科病院の場合、ある一定の割合で生活保護の世帯の人たちがいるので、彼らを断っていたら、たぶん病院が回っていかないと思われる。実は生活保護の人は、生活保護要否意見書なる書類があるため、他の人に比べ書くべき書類が増えるのである。この生活保護要否意見書はローカルな面が大きく、市町村により書式が少し異なっている。これは書くほうからすると少し面倒なことであった。(エクセルの雛形を変えないといけないため)

一般に、外来患者の生活保護要否意見書は非常に簡略である。入院の場合は、生活歴と現病歴を書かねばならず、もう少し面倒であるが、ずっと入院しているような人の場合、エクセルの雛形で出来ている部分が大きくそう面倒ではない。

普通、精神科の医療機関から見ると、生活保護の患者さんは医療費が未収になることがありえないので歓迎されないことはない。実はこの不景気下、患者さんは入院費の自己負担分が支払えず、不良債権をかかえる精神科病院が増えているのではないかと思われる。

うちの病院は実質、会員制なので、このように未収になっている人はほぼ皆無である。(これは冗談)。

以前、勤めていた病院では、このような不良債権が1000万円以上あり、どのようにするか時々会議をしていた。精神病院はサラ金ではなく、無理な取立てなど到底出来ない。時間が経つと諦めざるを得ない場合も多いのである。(損金として処理すると思う。)

最も悪いパターンはある事情があり、生活保護も受給できず、本人は入院しなければならないほど病状が悪く、しかも本人、家族とも支払能力がない場合である。このような患者さんは他の病院に転院させることもできない。迷惑がかかるので、支払能力のない患者さんは他の病院に紹介すらできないのである。結局、自分の病院でなんとか治療するしかない。

そういう人に比べ、生活保護受給者はその面の苦労がないと言える。障害年金を受給している人たちは良さそうに見えるが、そうともいえない。障害年金は患者さん本人のものであるが、実質、家族の手にあり、その年金を使いまわしていることもあるからである。家族がお金に困れば医療機関への支払いが滞るのである。

普通、障害年金1級ならば、医療費的には楽勝であるはずであるが、そのような人も家族が年金をアテにしている場合は支払いが何ヶ月も滞り、困ることもある。本当は本人が年金証書を持ち、通帳は家族が扱えなくしておく方が理想である。なぜなら、ずっと障害年金を受けているような長期入院者は、家族が管理せねばならない理由はない。(一般に患者さんのお金の管理は病院の監査で厳格に調べられるものである。)

皆はちょっと信じられないだろうが、慢性の統合失調症の入院患者さんでは、生活保護を受けている場合、全然お金を遣わないので、どんどん貯金が増えていき、たまに100万を越えたりすることもかつてはあったのである。

なぜそうなるかというと、結局は空虚だからであろう。何かを買いたいとか、そのような欲求がほとんどないからである。このような人はベッドサイドの様子をみればすぐにわかる。洗面器くらいで何も置いていないから。

現在は、通帳の残額が数十万に至るような人は生保の受給が中止され、いったん国民保険になり、貯金通帳の残額がほとんどなくなるまでそのまま継続され、お金がなくなったらまた生活保護になる。これも医師からみるとちょっと困る。手続きが煩雑化するからである。

僕はずっと以前から、このようにならないように積極的に衣服を買わせるとか好きな演歌歌手がいるなら、その全集を買わせる等、最低限の消費をするように指導している。人によれば10万円くらいのものは軽く買える。しかしそういう人に限ってなにもほしいものがなく、勧めてもいらないと言う。結局、指導しても、だいたい同じような結果になる事が多い。買いたくないというものは仕方がない。

このあたりの感覚はあまり一般の人にはわからないかもしれない。彼らはろくに下着も買い換えず、院内で結構ボロい衣服を着ていることも多かったのである。貯金は十分なほどあるのに。

これは、看護師、医師、ケースワーカーが彼らを放置していたとしか言いようがない。情意の減弱のため、そういう必要なものを買うと言う能力がほとんど衰えているからこのような事態になるのである。そういう視点では、ある程度買うべきものを買うように指導するのは、治療的であり本人にとっても良いことなのである。

もちろん、統合失調症の陰性症状にはこのようなことも含まれている。