Why Not Smile (R.E.M.) | kyupinの日記 気が向けば更新

Why Not Smile (R.E.M.)


Why Not Smile (R.E.M.)

R.E.M.の「UP」というアルバムは他のアルバムに比べ、インパクトがやや弱い楽曲が多く入っているためか、そこまで評価が良くない。しかし、UPを好きなアルバムという人も結構いるので、まだ日本人に向いている作品なのかもしれない。1992年以降のアルバムを見ると、

1992年 Automatic For The People
1994年 Monster
1996年 New Adventures In Hi-Fi
1998年 Up
2001年 Reveal
2004年 Around The Sun
2008年 Accelerate


この中では、やはりUPは印象が薄い。僕はこの7枚の中ではRevealが好きだ。しかし同じくらい、New Adventures In Hi-FiとAround The Sunも好きなので、どのアルバムが1番という言い方には少し抵抗がある。

UP
1. Airportman
2. Lotus
3. Suspicion
4. Hope
5. At My Most Beautiful
6. Apologist
7. Sad Professor
8. You're in the Air
9. Walk Unafraid
10. Why Not Smile
11. Daysleeper
12. Diminished
13. Parakeet
14. Falls to Climb

これを見ると、なかなか感動的な曲が多い。この中では、DaysleeperとかAt my most beautifulはビデオクリップ集にもよく入っている。ほとんどの楽曲が「穏やかで美しい」といった感じだ。この中で、1つだけ特別な楽曲があった。それがWhy Not Smileである。

Why Not Smile

The concrete broke your fall
To hear you speak of it
I'd have done anything
I would do anything
I feel like a cartoon brick wall
To hear you speak of it
You've been so sad
It makes me worry
Why not smile?
You've been sad for a while
Why not smile?

I would do anything
To hear you speak of it
Why not smile?
You've been sad for a while
You've been sad for a while

Why Not Smileは短いが美しい楽曲で、UPの中ではこれが好きな人が多いのではないかと思う。この詩だけど、いきなり

The concrete broke your fall

で始まっている。これは、飛び降り自殺で地面に激突したことを言っている(のだと思う。普通に考えれば。)

その後に続く詩は、「貴方の悩みや苦しみを聴くためなら、なんだってしたのに」とか家族や親しい友人、あるいは精神科医の懺悔みたいな詩になっている。

しかし、この詩のハイライトはやはり、

Why not smile?
You've been sad for a while


なんだと思う。

ずっと苦しみぬき、悲しい思いをしていたんだから、(ようやく開放されたので)微笑んだっていいんじゃない?と書かれているのである。

しかし、普通、もう死んでいる人に、「微笑んだっていいんじゃない?」なんて言わない。少なくともマイケル・スタイプはそういう残酷な詩は書かない。

これにはもう少し違った解釈をした方が良いのだろう。これを直訳した詩は、あまりにも結果論をグジグジ言っているだけで、R.E.M.的なメッセージ性がない。そのメッセージ性とは、例えば「希望」のようなプラスを意味するものだ。

普通、ある人が飛び降り自殺をした時、それを目撃できるような家族や友人がいるだろうか?

ここで出てくる、I(私)は、彼らのいずれでもなく、たぶん物質的なものなんだろう。僕は、このIはこの飛び降りた人が激突した「concrete」なんだと思う。実際、1行目の詩では主語で書かれているし。

またそれを暗示する詩が1行だけ出てくる。それは、

I feel like a cartoon brick wall

このcartoonというのは、ケーブルテレビにある子供向けアニメのカトゥーン・チャンネルのことだろう。きっと、あのアニメに出てくる赤いレンガ塀のことなんだと思う。

しかし、concreteのような無感情なものだけでなく、もう少し擬人化して家族や友人、あるいは治療者を重ね合わせたものなのだろう。つまり、concreteはある種の象徴であり、その人の関係者すべてである。そういう風に読み取れば、最初の文章はいきなり結果が書かれているだけで、その後の詩は落下の途中の話ということになる(ような気がする)。

I(私)は飛び降りた人が猛スピードで、自分に向かって来る状況で語っているのである。

だから、(そうする)理由をなんだって聴いただろう、などと言っているんだと思う。僕にはそういうイメージがすぐに湧いた。これは悔やみでもなんでもなく、現在進行形の話だと思う。

現実には落下のスピードが速すぎて、お互い何も考える時間はないのだけど、ここだけはスローモーションなのである。そう考えないとドラマ性みたいなものが生じない。

人は飛び降り自殺を決断し、飛び降りた瞬間、それまでのすべての苦悩、悲しみから解き放たれる。

しかし、その苦悩がなくなった瞬間、死ぬと言うことの重大性に初めて気付くのである。

だから、彼(彼女)は笑うに笑えないのであった。

苦悩から解き放たれた、本人にとって至高の時間と空間はあまりにも残酷なものであった。まさに悪夢である。

また、落下途中だからこそ(まだ生きているので)、そのコンクリートは、Why not smile? You've been sad for a whileと語れるのである。これは強烈な皮肉ではあるが、ある種のR.E.M.的なメッセージになっている。

これに気付いた瞬間、僕は急に過去に自殺で亡くなった患者さんの顔が思い出されて泣いた。

この解釈が正しいかどうかはわからないが、もしそうなら、この楽曲はやはりうまく「訳せない」と言うことになる。通常?の意訳の範囲を超えているからだ。この楽曲はこの英語のままでいい。

実は、このUPは1998年に発表されているので、この楽曲はその前年くらいに書かれたはずだ。しかし、YouTube を探しても、Why Not Smileはこれほどの名曲なのに滅多にライブ演奏されていない。(上のボローニャの映像も1999年である)

これはやはりアメリカ同時多発テロ事件(2001年9月11日)の影響が大きいように思った。ワールドトレードセンターに激突した航空機のため逃げ場を失った一部の人たちはビルから飛び降りたのである。これは自殺と言うより、火炎や煙のため、それしか方法がなかったんだと思う。

この人が飛び降りる映像は、テレビで流さないようにキリスト教会の関係者から強いお願いが出されていたらしい。僕の患者さんによると、キリスト教では、人を殺すことが最も重い罪で、自分を殺すのもその次に重い罪という。そういう教えに反することが安易に映像に流されるのは困るという感じだろう。

これを見ても、自殺についての考え方が日本人と根本的に違う。自殺は日本人とアメリカ人では、その決断する前の段階で既に相違があるんだと思った。

マイケル・スタイプはアメリカ人なので、911事件以後、この楽曲は相当に歌い辛いというのはあるような気がする。(特にキリスト教の国々では)

いずれにせよ、飛び降りて地面に激突するまでの短い時間を楽曲にするなんてことは常人は思いつかない。

このWhy Not Smileはマイケル・スタイプの才能が爆発している。


At my most beautiful(R.E.M.)


Daysleeper(R.E.M.)


Walk Unafraid(R.E.M.)

参考
Losing my religion(R.E.M.)・前半
Losing my religion(R.E.M.)・後半