育児ストレスによる精神病状態
もうずいぶん前になるが、友人のクリニックから女性患者さんが紹介されてきた。彼女には「人と会いたくない」「なぜそんなこともできないのか」と言われているなどの訴えがあった。当初抑うつ気分が前景だったが、次第に被害妄想的な要素も出現し育児も家事も全くできなかった。彼女の場合、完全主義的な性格傾向も災いし育児ノイローゼが精神病レベルまで悪化していた。最初に悪くなったのは確かに産褥期的なのだが、悪くなってから時間が経ち過ぎていた。その日、本人も納得して入院となるが退院までなんと約5ヶ月もかかったのである。
前医の治療
パキシル 15mg~30mg
ドグマチール 50mg
および眠剤
僕はパキシルを漸減しアモキサン、ドグマチールを加えて治療をしようとしていた。たいして意味もないと思ったが、ろくに食事も摂らないので入院直後はビタミンB12を点滴に加えて投与している。当時は外来人数も今ほど多くはなくゆっくり診察できる状況だったので、最近の入院カルテに比べ断然詳しく記載している。今から見てもカルテの出来が良い。最近のカルテはずいぶん平板になっているから。(参考)
入院翌日。
「昨日はよく眠れました。少しは気分が良い」という。食事は食べられる範囲で良いから食べるように薦めた。一応の落ち着きはある。
その後、連日、何がしかの記載がある。
10日目。
ハルシオン、ユーロジンでも不眠。「何か歩き回らないといけない感じがする。元気が出すぎているような感じもありますね。少し浮ついている。でも手紙を書こうとしても書けない。なんか落ち着きがない」
アモキサンによる軽度の躁転?双極2型? ややまとまらない感じがある。統合失調症の印象はない。アモキサンを中止。リーマスを併用。
この3日後の朝の記録。
「昨夕、とてもイライラして手につかない感じがあった。早めに薬をもらったが、深夜に目が覚めた。」アカシジア?「いろいろしたいけど、できない。」という。ドグマチール減量しヒベルナを追加。詰所に深夜にやって来てナースとしばらく喋っていたらしい。
その日の夕方の記録。
午後に会うと、朝より少し落ち着いて来たという。「何かやっていないといられない感じはある。本当は独りで何もしないでいるのが好きなのに」
意外に病識がない。入院後、何が良くなって、どこが悪いのか自分ではよくわからないという。体の倦怠感については「あるんだろうが自分ではわからない」という言い方。しかし、どうみても統合失調症には見えない。
その後、しばらくしてセレネース液を併用するようになった。(1cc)しばらくしてセロクエルに切り替え。この頃から主に気分安定化薬と抗精神病薬で治療するように方向転換している。
入院3週間後
朝はぼんやりとしている。夜は正味5時間くらいは眠れた。物忘れがあるという。夜目が覚めて薬をもらうとその後はぐっすり眠れる。少し落ち着いた感じはあるが、何かしていたい気持ちはある。編み物をしたいけど思うようにできない。午後からOT(作業療法)に行ってみようかと思う。人の目がとても気になります。怖いです。前よりはずっと食べるようになりました。」
リーマスからデパケンRに変更する。
当時の処方
デパケンR 600mg
セロクエル 150mg
セパゾン 4mg
ヒベルナ 50mg
他、眠剤と便秘薬
入院1ヶ月目。
自分が気分を害した時、抑えが効かない感じもあります。ベッドに横になれない感じもあります。集中力はありません。気は晴れないですねという。何かしなくては気が済まないし、しかし何もできない。
この頃初めて外泊をしている。帰ってきた日の記録。
「家に帰って疲れたことは疲れました。子供に会えたので良かった。皆で買い物に行ったが、何か買わないと仕方がなくて買ってしまった。お菓子を買ってしまいました。買い物は昔は慎重でした。今は買いたくなるんです。食べ物も服もいろいろです。」という。「気分は晴れ晴れとはしていません」
セロクエルはあまり良くないのかもしれない。双極2型躁転の要素もあるが静か過ぎる。
その数日後。
「以前はただ沈んでいる感じだったけど、今は治るのかなと不安になることがあります。深夜に目が醒めるとそのまま眠れない。ぐっすりと眠れる感覚はないですね。昼のイライラはなくなってきました。毎日電話だけはしています。これをやっておかないと、というような焦りみたいなものは減ってきました。」
セロクエルは必要かもしれないが、微妙である。
その1週間後。
「病気が治るのかとか、どんな病気なのかとか不安があります。そんな感じがグルグル廻っています。次は何をしたら良いんだろうという感じがあります。体のきつさはありません。淋しい気持ちはあります。子供と離れていますし。」
この頃、病棟でよく彼女は泣いていた。サフラン追加。
その数日後。
「うまく自分の言いたいことが伝わらないとイライラします。たまには淋しい気持ちになります。古い刑務所に入る夢をみました。カシャーンという鍵の音とかそんなことが印象的です。今週は土曜日に夫に会います。」
ルーラン8mgを追加する。
その数日後(外泊時のこと)。
「今までのことが暴発するみたいに母と口喧嘩をした。書類を整理する時に何をどうしようかとかまとまらなかった。2~3日前からの薬は良いような気がしていたが、喧嘩をしたのでどんなものかな?と思った。ベゲタミンAをもらっても起きてすぐはきつくならない。でも2~3時間するときつくなってきます。今イライラはない。あと子供に悪い影響がないかと心配です。昔のことを思い出すと不安になります。」という。
ルーランは悪くはないが、少なくとも睡眠は改善していない。クロフェクトンが良いかもしれない。
クロフェクトン併用のコメント。
クロフェクトンを使用したが、副作用なし。夜は眠れなかったという。クロフェクトンを50mg服用してもケロリとしている。
当時の処方
クロフェクトン 75mg
ヒベルナ 75mg
ルーラン 8mg
ルジオミール 25mg
レボトミン 25mg
ほか眠剤、便秘薬。
入院1ヶ月半頃。
だいぶんゆっくりできるようになりました。体のきつさはないですけど、体がパンパンに張る。手につかない感じはだいぶん減りました。4kgくらい太ってしまった。
この当時から単独で外出を許可。体重は増えるのはまずいが、良くならないまま時間がかかってしまうのはもっとまずい。この状況ではまず精神症状を改善することを優先。(参考)
2ヶ月目。
誰とでも1対1なら何でもできる。落ち着けるけど、人がたくさんいると気がせくのか興奮したみたいになってくる。イライラして攻撃的になる。例えば「誰がそこになおしたの?」と声を荒げて言ってしまう。いっぺんに言われると、どうしてよいかわからなくなります。自分の実感としては良くなっていると思う。主人と母もそれは言っています。
セディールを追加する。
2ヶ月半目。
小さなことにこだわって、同じことを言い続けたりする。時間のすれ違いがあったりしますよね。カリカリして主人に当たってしまった。主人から「もう少し人を認めることをしなさい」と言われた。デプロメールを併用する。
その1週間後。
食欲が落ちている。デプロメールの副作用。ただ、イライラなどはない。全般に少しうつっぽい。外に出るのも億劫と言う。吐き気はないが、いつもおなかいっぱいと言う感じ。
その数日後。
少し元気がないように見える。しかし妙な感じはない。「一時期グタっとなっていたが、少し元気になってきた。」という。
3ヶ月目。
夫と話すときにあまり主張を通さないようになりました。独りだと自信がないです。少し関心が湧かないとか意欲がないとかがあります。それ以外は元気です。今は良く眠れるようになりました。自分でも少し笑うようになった。いろいろなことが自然になってきた感じはあります。
3ヶ月半(外泊から帰ってきた時)。
子供との意思疎通がはかれないです。子供と一緒にいる時、普段話をしていないのか、顔をつねられた。今は自分が育てている感覚はないです。子供にどんな風に話したら良いかとかわからない。単に怒ってもまずいと思うし、いけないことはいけないと言わないといけないし。帰った時に居場所がないというか、今回の外泊はあまり良くなかったかもしれない。
4ヶ月目。
プロラクチン値が著しく上昇しており月経も来ない(参考)。また意欲も低下し、外泊時に子供と遊んでやるのがとても苦痛と言う。プロラクチンの上昇はクロフェクトンのためと思われるので75mgから50mgに減量し、ジプレキサを2.5mgだけ追加してみた。すると周囲の状況に過敏になり、物事を悪いように考えてしまうようになった。イライラ感もあると言うので、ジプレキサを中止、以後ジプレキサ禁忌とした。クロフェクトンは75mgに戻す。ジプレキサのためと思われるイライラ、不快感は3日ほどで消失。ジプレキサの悪影響は短期間に消失している。(参考)
「外泊した時、母親と喧嘩になった。後半は夫、子供と一緒に動物園に行きました。人といると苦手です。人が少ないと良いけど人ごみの中にいると辛いです。ぞっとします。子供の躾とか、食べ物について不満がある。今は病院では良く眠れています。午前中はあまり元気がありません。」
いったんクロフェクトンを減量してプロピタンを追加したが、あまり芳しくないと思ったのでしばらくして中止。本当はこのまま様子をみたいが、高プロラクチン血症のためやむなくクロフェクトンを減量。不眠。抑うつにはテトラミドを処方。
当時の処方
クロフェクトン 25mg
ヒベルナ 50mg
ルーラン 8mg
テトラミド 30mg
セディール 20mg
ほか眠剤、便秘薬。
その後しばらくして。
「1つのことに集中できない。長い時間集中できません。午前中はきついです。劣等感があります。子供や家族とどんな風にコミュニケーションをとって良いかわかりません。言い方が悪いのか自分ではよくわかりません。どんな風に話したらよいか良くわかりません。」
高プロラクチン血症が改善しないので、思い切ってルーラン単剤とする。ルーランはこだわり、強迫を緩め、彼女にとってはまだ他の薬物よりは良いように見える。
当時の処方
ルーラン 16mg
テトラミド 30mg
セディール 20mg
ほか眠剤、便秘薬。
4ヶ月過ぎから、少し抑うつ気分が残遺しているが、これは精神病状態後の虚脱のようにも見え、これ以上入院させておくのはあまり意味がないと思うようになった。家族のサポートも得られる状況であり、5ヶ月ほどで退院させることにした。退院後はしばらくデイケアに参加するように勧める。
退院1週間前くらい。
人の中に入っていくのが苦手です。薬が変わっても特に変化がない。深夜に目が醒めたが、薬をもらわないでそのまま眠った。少しテンションが高いのかもしれない。母親とは折り合いが悪いところもあります。お互い我が強いので。
退院日
本日退院とする。ニコニコしている。今後はデイケアに参加するように伝える。今日はとても笑顔が良い。
補足
入院後数ヶ月経つと、彼女は何年も前からここで入院しているような雰囲気になった。病棟の背景に取り込まれているというか、病棟で佇んでいる印象だけは統合失調症みたいなのである。しかし対人接触性や、本質的なところでは決してそうは見えなかった。このギャップは彼女だけは特別だった。彼女の経過の最大の特徴は、神経症、躁うつ病、症状精神病、いずれであるにせよ回復のスピードが遅すぎること。ここが普通の人と違っていたのである。そんなこともあり、今でも病棟の婦長さんと当時の彼女の話題が出た時、「あの時、彼女はこの病院にずっと入院になるような気がしていたでしょう?」と僕が言うと婦長は苦笑いする。上の記載だけ読むと外泊もしているし子供とも過ごしているので軽く見えるかもしれない。しかし、家に帰っているだけで家事なんて全然できなかった。家族がいつも付き添っているので外泊はできる。彼女はそんな感じだったのである。
入院後の薬物治療であるが、こういう風にツラツラと書いていくと我ながらまとまりがない。それまでにパキシル、デプロメール、トレドミンなどで治療されていたが、さんざんだったらしいので、SSRIを処方するのは最初は控えている。最初アモキサンでうまくいかなかったため旧来の抗うつ剤の本格投与を避け、抗精神病薬で治療する方針とした。
抗精神病薬でもリスパダールが出てこないが、これはリスパダールが良いかも?と思う場面が全然なかったことがある。唯一あるとしたら、セレネース液1ccを処方した日。このような時、僕はなるだけセレネース液を処方する(詳細)。また当時リスパダール液がまだ発売されていなかったこともある。薬のために統合失調症になることはないが、もし悪影響が出た時に局面が複雑化するのを避けたいのだ。
この話には続きがある。
前医の治療
パキシル 15mg~30mg
ドグマチール 50mg
および眠剤
僕はパキシルを漸減しアモキサン、ドグマチールを加えて治療をしようとしていた。たいして意味もないと思ったが、ろくに食事も摂らないので入院直後はビタミンB12を点滴に加えて投与している。当時は外来人数も今ほど多くはなくゆっくり診察できる状況だったので、最近の入院カルテに比べ断然詳しく記載している。今から見てもカルテの出来が良い。最近のカルテはずいぶん平板になっているから。(参考)
入院翌日。
「昨日はよく眠れました。少しは気分が良い」という。食事は食べられる範囲で良いから食べるように薦めた。一応の落ち着きはある。
その後、連日、何がしかの記載がある。
10日目。
ハルシオン、ユーロジンでも不眠。「何か歩き回らないといけない感じがする。元気が出すぎているような感じもありますね。少し浮ついている。でも手紙を書こうとしても書けない。なんか落ち着きがない」
アモキサンによる軽度の躁転?双極2型? ややまとまらない感じがある。統合失調症の印象はない。アモキサンを中止。リーマスを併用。
この3日後の朝の記録。
「昨夕、とてもイライラして手につかない感じがあった。早めに薬をもらったが、深夜に目が覚めた。」アカシジア?「いろいろしたいけど、できない。」という。ドグマチール減量しヒベルナを追加。詰所に深夜にやって来てナースとしばらく喋っていたらしい。
その日の夕方の記録。
午後に会うと、朝より少し落ち着いて来たという。「何かやっていないといられない感じはある。本当は独りで何もしないでいるのが好きなのに」
意外に病識がない。入院後、何が良くなって、どこが悪いのか自分ではよくわからないという。体の倦怠感については「あるんだろうが自分ではわからない」という言い方。しかし、どうみても統合失調症には見えない。
その後、しばらくしてセレネース液を併用するようになった。(1cc)しばらくしてセロクエルに切り替え。この頃から主に気分安定化薬と抗精神病薬で治療するように方向転換している。
入院3週間後
朝はぼんやりとしている。夜は正味5時間くらいは眠れた。物忘れがあるという。夜目が覚めて薬をもらうとその後はぐっすり眠れる。少し落ち着いた感じはあるが、何かしていたい気持ちはある。編み物をしたいけど思うようにできない。午後からOT(作業療法)に行ってみようかと思う。人の目がとても気になります。怖いです。前よりはずっと食べるようになりました。」
リーマスからデパケンRに変更する。
当時の処方
デパケンR 600mg
セロクエル 150mg
セパゾン 4mg
ヒベルナ 50mg
他、眠剤と便秘薬
入院1ヶ月目。
自分が気分を害した時、抑えが効かない感じもあります。ベッドに横になれない感じもあります。集中力はありません。気は晴れないですねという。何かしなくては気が済まないし、しかし何もできない。
この頃初めて外泊をしている。帰ってきた日の記録。
「家に帰って疲れたことは疲れました。子供に会えたので良かった。皆で買い物に行ったが、何か買わないと仕方がなくて買ってしまった。お菓子を買ってしまいました。買い物は昔は慎重でした。今は買いたくなるんです。食べ物も服もいろいろです。」という。「気分は晴れ晴れとはしていません」
セロクエルはあまり良くないのかもしれない。双極2型躁転の要素もあるが静か過ぎる。
その数日後。
「以前はただ沈んでいる感じだったけど、今は治るのかなと不安になることがあります。深夜に目が醒めるとそのまま眠れない。ぐっすりと眠れる感覚はないですね。昼のイライラはなくなってきました。毎日電話だけはしています。これをやっておかないと、というような焦りみたいなものは減ってきました。」
セロクエルは必要かもしれないが、微妙である。
その1週間後。
「病気が治るのかとか、どんな病気なのかとか不安があります。そんな感じがグルグル廻っています。次は何をしたら良いんだろうという感じがあります。体のきつさはありません。淋しい気持ちはあります。子供と離れていますし。」
この頃、病棟でよく彼女は泣いていた。サフラン追加。
その数日後。
「うまく自分の言いたいことが伝わらないとイライラします。たまには淋しい気持ちになります。古い刑務所に入る夢をみました。カシャーンという鍵の音とかそんなことが印象的です。今週は土曜日に夫に会います。」
ルーラン8mgを追加する。
その数日後(外泊時のこと)。
「今までのことが暴発するみたいに母と口喧嘩をした。書類を整理する時に何をどうしようかとかまとまらなかった。2~3日前からの薬は良いような気がしていたが、喧嘩をしたのでどんなものかな?と思った。ベゲタミンAをもらっても起きてすぐはきつくならない。でも2~3時間するときつくなってきます。今イライラはない。あと子供に悪い影響がないかと心配です。昔のことを思い出すと不安になります。」という。
ルーランは悪くはないが、少なくとも睡眠は改善していない。クロフェクトンが良いかもしれない。
クロフェクトン併用のコメント。
クロフェクトンを使用したが、副作用なし。夜は眠れなかったという。クロフェクトンを50mg服用してもケロリとしている。
当時の処方
クロフェクトン 75mg
ヒベルナ 75mg
ルーラン 8mg
ルジオミール 25mg
レボトミン 25mg
ほか眠剤、便秘薬。
入院1ヶ月半頃。
だいぶんゆっくりできるようになりました。体のきつさはないですけど、体がパンパンに張る。手につかない感じはだいぶん減りました。4kgくらい太ってしまった。
この当時から単独で外出を許可。体重は増えるのはまずいが、良くならないまま時間がかかってしまうのはもっとまずい。この状況ではまず精神症状を改善することを優先。(参考)
2ヶ月目。
誰とでも1対1なら何でもできる。落ち着けるけど、人がたくさんいると気がせくのか興奮したみたいになってくる。イライラして攻撃的になる。例えば「誰がそこになおしたの?」と声を荒げて言ってしまう。いっぺんに言われると、どうしてよいかわからなくなります。自分の実感としては良くなっていると思う。主人と母もそれは言っています。
セディールを追加する。
2ヶ月半目。
小さなことにこだわって、同じことを言い続けたりする。時間のすれ違いがあったりしますよね。カリカリして主人に当たってしまった。主人から「もう少し人を認めることをしなさい」と言われた。デプロメールを併用する。
その1週間後。
食欲が落ちている。デプロメールの副作用。ただ、イライラなどはない。全般に少しうつっぽい。外に出るのも億劫と言う。吐き気はないが、いつもおなかいっぱいと言う感じ。
その数日後。
少し元気がないように見える。しかし妙な感じはない。「一時期グタっとなっていたが、少し元気になってきた。」という。
3ヶ月目。
夫と話すときにあまり主張を通さないようになりました。独りだと自信がないです。少し関心が湧かないとか意欲がないとかがあります。それ以外は元気です。今は良く眠れるようになりました。自分でも少し笑うようになった。いろいろなことが自然になってきた感じはあります。
3ヶ月半(外泊から帰ってきた時)。
子供との意思疎通がはかれないです。子供と一緒にいる時、普段話をしていないのか、顔をつねられた。今は自分が育てている感覚はないです。子供にどんな風に話したら良いかとかわからない。単に怒ってもまずいと思うし、いけないことはいけないと言わないといけないし。帰った時に居場所がないというか、今回の外泊はあまり良くなかったかもしれない。
4ヶ月目。
プロラクチン値が著しく上昇しており月経も来ない(参考)。また意欲も低下し、外泊時に子供と遊んでやるのがとても苦痛と言う。プロラクチンの上昇はクロフェクトンのためと思われるので75mgから50mgに減量し、ジプレキサを2.5mgだけ追加してみた。すると周囲の状況に過敏になり、物事を悪いように考えてしまうようになった。イライラ感もあると言うので、ジプレキサを中止、以後ジプレキサ禁忌とした。クロフェクトンは75mgに戻す。ジプレキサのためと思われるイライラ、不快感は3日ほどで消失。ジプレキサの悪影響は短期間に消失している。(参考)
「外泊した時、母親と喧嘩になった。後半は夫、子供と一緒に動物園に行きました。人といると苦手です。人が少ないと良いけど人ごみの中にいると辛いです。ぞっとします。子供の躾とか、食べ物について不満がある。今は病院では良く眠れています。午前中はあまり元気がありません。」
いったんクロフェクトンを減量してプロピタンを追加したが、あまり芳しくないと思ったのでしばらくして中止。本当はこのまま様子をみたいが、高プロラクチン血症のためやむなくクロフェクトンを減量。不眠。抑うつにはテトラミドを処方。
当時の処方
クロフェクトン 25mg
ヒベルナ 50mg
ルーラン 8mg
テトラミド 30mg
セディール 20mg
ほか眠剤、便秘薬。
その後しばらくして。
「1つのことに集中できない。長い時間集中できません。午前中はきついです。劣等感があります。子供や家族とどんな風にコミュニケーションをとって良いかわかりません。言い方が悪いのか自分ではよくわかりません。どんな風に話したらよいか良くわかりません。」
高プロラクチン血症が改善しないので、思い切ってルーラン単剤とする。ルーランはこだわり、強迫を緩め、彼女にとってはまだ他の薬物よりは良いように見える。
当時の処方
ルーラン 16mg
テトラミド 30mg
セディール 20mg
ほか眠剤、便秘薬。
4ヶ月過ぎから、少し抑うつ気分が残遺しているが、これは精神病状態後の虚脱のようにも見え、これ以上入院させておくのはあまり意味がないと思うようになった。家族のサポートも得られる状況であり、5ヶ月ほどで退院させることにした。退院後はしばらくデイケアに参加するように勧める。
退院1週間前くらい。
人の中に入っていくのが苦手です。薬が変わっても特に変化がない。深夜に目が醒めたが、薬をもらわないでそのまま眠った。少しテンションが高いのかもしれない。母親とは折り合いが悪いところもあります。お互い我が強いので。
退院日
本日退院とする。ニコニコしている。今後はデイケアに参加するように伝える。今日はとても笑顔が良い。
補足
入院後数ヶ月経つと、彼女は何年も前からここで入院しているような雰囲気になった。病棟の背景に取り込まれているというか、病棟で佇んでいる印象だけは統合失調症みたいなのである。しかし対人接触性や、本質的なところでは決してそうは見えなかった。このギャップは彼女だけは特別だった。彼女の経過の最大の特徴は、神経症、躁うつ病、症状精神病、いずれであるにせよ回復のスピードが遅すぎること。ここが普通の人と違っていたのである。そんなこともあり、今でも病棟の婦長さんと当時の彼女の話題が出た時、「あの時、彼女はこの病院にずっと入院になるような気がしていたでしょう?」と僕が言うと婦長は苦笑いする。上の記載だけ読むと外泊もしているし子供とも過ごしているので軽く見えるかもしれない。しかし、家に帰っているだけで家事なんて全然できなかった。家族がいつも付き添っているので外泊はできる。彼女はそんな感じだったのである。
入院後の薬物治療であるが、こういう風にツラツラと書いていくと我ながらまとまりがない。それまでにパキシル、デプロメール、トレドミンなどで治療されていたが、さんざんだったらしいので、SSRIを処方するのは最初は控えている。最初アモキサンでうまくいかなかったため旧来の抗うつ剤の本格投与を避け、抗精神病薬で治療する方針とした。
抗精神病薬でもリスパダールが出てこないが、これはリスパダールが良いかも?と思う場面が全然なかったことがある。唯一あるとしたら、セレネース液1ccを処方した日。このような時、僕はなるだけセレネース液を処方する(詳細)。また当時リスパダール液がまだ発売されていなかったこともある。薬のために統合失調症になることはないが、もし悪影響が出た時に局面が複雑化するのを避けたいのだ。
この話には続きがある。