岐阜県
むかし。
飛騨の山奥で、焼畑を作って暮らしている貧しい夫婦がおりました。
この夫婦の間には娘が一人おりました。
これが色の抜けるような白い肌の美しい娘であったので両親は
農作業にも連れず家から出さないように大切にされておりました。
貧しくても、一家で幸せに暮らしておりました。
娘は家の中で外にも出ず、
炊事や糸紡ぎなどをしてひっそりと暮らしていたのでした。
この娘にぎらりと目を光らせ目をつけたのが山の主でした。
と家まで押し掛けた山の主は「ぜひ嫁にしたい」と家の中に入ろうとします。
しかしその日は暦の上では桜の季節が終わり暑い夏がやってくる立夏で、
夏を迎える立夏に煮た笹の葉を玄関に吊るしておく習わしがあった。
山のぬしは思わず悲鳴をあげた。
「うおっ。な、なんだこれは。うっ、は、はいれぬ。」
入口には山の魔物を退ける霊力を持つ
魔除けとして煮込んだ笹の葉がぶら下がっており、
家のなにか入り込みそうな至るところにもそれが吊るされていたのでした。
その笹の葉の不思議な力で
山のぬしの霊気・神通力が通じなくなるのでした。
親は玄関の笹の葉を取り替えるのですが
この年は一日遅れたために、難を逃れたのでした。
悔しがる山の主ですがどうすることもできません。
諦めきれない山のぬしは今度は小さな蛇に化け、
いろんなところから入り込もうとしますが、どこの隙間にも笹の葉が吊るしてあって、蛇の心はがっくりと折れてしまいました(笑)。
家の傍の草原に生えているわらびの葉の上で
娘が家の外に出るの を待つことにしました。
しかし娘は出て来ず、待ちくたびれた山のぬしは
わらびの葉の上でうとうとと昼寝を始めてしまいました。(なんかかわいい)(笑)
それがすべての失敗の理由・・・・・。
その草原は娘がいつも小用を足す場所 であり、
山のぬしはこともあろうに屈辱的にも
蛇の姿のまま、娘の小便を頭から浴びてしまったから大変です。
なんとも屈辱的。
雨かと思ったそれは娘の小便だったのです・・・。
「ち、ちくしょう・・・」
女の不浄に触れた蛇は来年まで術が使えなくなると言われていました。
蛇の姿のままにいるハメになってしまい、
地団駄を踏んで悔しがるだけでした。
「おのれ見ていろ来年また来てやるぞ。」
怒った主は、蛇の姿のまま
泣く泣く山へひとまずその年は退散することになりました。
その年は蛇の姿のまますごすハメに・・・・。
やっと一年がすぎ、
山のぬしは前回の失敗を受けてこんどこそ、と
今度は若い男に化けて娘の家に近づいたのでした。
その年、その家ではなにか違っていました。
雪解け水が多くて田畑が荒れ果て、
娘の両親は困り果ててしまったのです。
「畑を整えてくれる者があったら娘の婿に迎えても良いのだが困ったものだ・・・」
とつぶやいた。
この一言が災いを招いてしまいます。
それを聞いた山のぬしは
「しめしめ」とばかりに瞬く間に田畑を綺麗に整えて見せた。
両親は若者を見て立派な若者に大喜びしたが、
若者が魔除けの笹の葉を見て気味悪そうにしたり、
昼飯に作った笹のちまきを酷く嫌がるのを見て
母親 がこれは山の主に違いないと思いました。
こっそりと笹の煮汁をお茶に混ぜて差し出した。
知らずに飲んだ若者は飲んでしまったから大変。
「ぎゃぁ~!」と叫び声をあげ、
黒雲のような 姿になって
一目散に逃げ去ってしまいまたしても失敗に終わってしまうのでした。
ところがその夜。
「昼間はよくやってくれたな~!
娘をいやでも連れて行くぞ~!」
とついに山の主は正体を現わし、
数丈もある巨大な蛇に化身して家ごと娘を奪おうと襲いかかった。
親は家の中で震え上がってお互いしがみついていましたが、
勇気を出して逃げることにしました。
「山の主に見つからないようはよう逃げな連れて行かれるぞ。」
と、娘を連れ出し、両親は 魔除けのため
娘の頭に笹の葉を被せ丘に逃げ
隠れてその様子を伺っていた。
すると
それに気付かぬまま、
山のぬしの大蛇は家には娘もいないのも気がつかないまま、
大満足した様子で家をぐるぐる巻きにし、
そのまますごい音を立てながら、山の中に姿を消してしまった。
「恐ろしいことだ・・・めったなことは口にしてはいけんのう・・」と
ゾッとした父親でした。
間一髪親子は助かりました。
以来、山奥の里では魔除けの為に、
お茶の中に笹の葉を共に入れて煮出すようになった。
またこの出来事に因み、
わらびの葉の上に眠る蛇はどんなに小さくとも、
山の魔物が化けた化身のものだと恐れられている。
備考:
演出:玉井司 文芸:沖島勲 美術:玉井司 作画:堀田篤子
参考:
笹の葉には魔除けの力があると信じられていた。