植野明磧先生の名著『良寛さん』の「お布施の催促」を読みました。
 あらすじは次のとおりです。

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 国上山が満山紅葉した11月9日の午後、五合庵の良寛さんは、山を下る“きこり”に一通の手紙を言付けた。日頃懇意にしている寺泊町の米屋のおばあさんに宛てたもので、次のような内容だった。
「先日あなたの家に立ち寄ったときに、布子(もめんの綿入れ)を縫ってもらうことを約束しておいたが、もう仕上げてくれただろうか。もし縫い上げてくれているなら、この使いの人に手渡していただきたい。ところで、あなたに縫い賃をお払いせねばならないのだが、幸い、あの日に、あなたから頼まれたお経のお布施を貰って帰るのを忘れているので、それとご破算にしていただきたい。」
 良寛さんを心から敬愛するおばあさんは、はじめから、縫い賃を貰うつもりで約束したのではなかった。しかし、良寛さんは、人にものを頼んだ以上はその償いをせずにはおれなかった。だからまた、唱えたお経に対するお布施はいただくべきだと考えていた。
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 この逸話は上記のとおり短編で、逸話に続き、逸話と切れ目がない形で、著者 明磧先生の解題が、長い文章で続いています。
 私は、この逸話を読んで、すぐに頭に浮かんだ疑問は
「無私無欲の良寛和尚なのに、どうしてお布施にこだわるのだろう?」
というものでした。
 おそらく、明磧先生は、私と同じ疑問を多くの人が抱くであろうことを予測し、ていねいに説明しなければ一般人には理解できないだろうとお考えになったのでしょう。
 明磧先生は、まず、「請受食文(しょうじゅじきもん)」と題する、修行僧が食を受けるときの心得を述べた漢文章の中の良寛さんの考えを紹介しています。(改行・1行あけはブログ筆者による)

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「食を受くるは仏家の命脉(みょうみゃく)なり。・・・・・・まさに三世の諸仏も食を受けて成道(じょうどう)し、歴代の祖師も食を受けて燈(ともしび)を伝えたり。・・・・・・正命(しょうみょう)の食は受くべく、不浄の食は受くべからず。」

 良寛さんは、お布施は受け取るべきものと考えていました。しかし、その金額や施物の多少が問題ではありませんでした。ですから、同じ請受食文の中で、彼はまた、

「古人の法の為に身を捨つる者は、吾我を放却し、冥利を貪(むさぼ)らず、唯、道のみこれを求む。故に諸天も供養し、竜神も頂戴す(おしいただいてささげる)。」

とも言っています。

 良寛さんにとっては、布施や供養を受けるためにお念仏やお経を唱えるのではなくて、いちずに道を求めて、衆生を済度しようとするのが目的でした。だからこそ生命をつなぐための手段として、布施や供養を受けなければならなかったのです。ここに世上一般の職業僧との違いがあるようです。
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 私は、「職業僧」という言葉を初めて知りました。もしかしたら、現在の多くのお寺のお坊さんたちは「職業僧」に分類されてしまうのではなかろうかと考えてしまいました。
 衆生済度をするためには良寛和尚自らが生きなければならない。そのための布施や供養をありがたくいただく、ということだったですね。

 明磧先生の解題は、まだ続きますが、長くなりますので、次回のブログにて紹介させていただきます。

《辞書を読む》
特にことわり書きのない場合は、国語大辞典 新装版(小学館1988)を使用

ふせ【布施】
Ⅰ (梵d[a]naの訳。施とも訳する。また、檀那と音訳し、檀とも略する)六波羅蜜の一つ。施しをすること。①仏や僧・貧者などに、衣服・食物などの品物や金銭などを施し与えること。また、その財物。財施。②教法を説くこと。僧が説法によって財施に報いること。法施。③仏菩薩が一切の衆生から種々の恐怖を取り去って救うこと。無畏施。
※上記梵語の[a]は、aの上に-がついた語。
Ⅱ(略)

くよう(‥ヤウ)【供養】
(梵 p[u]jan[a] の訳語。近世以前には、「す」を伴ってサ変として用いられる場合、ザ行にも活用)仏語。
※上記梵語の[u]はuの上に`がついた語で、[a]は、aの上に-がついた語。
1 進供資養の義で、仏・法・僧の三宝や父母、師長、死者などに物を供えて、読経し礼拝すること。本来は香華(こうげ)、灯明、幡(はた)、あるいは飲食、衣服、資材などの施物を行なうことを主とするが、また、精神的なものも含める。その方法、および対象によって種々に分類され、敬供養、行供養、利供養などがある。*源氏‐幻「かのまんだらなど今日ぞ供養せさせ給ふ」*日葡辞書「ホトケヲ cuyQzuru(クヤウズル)」
2 法会を営むこと。死者の冥福を祈って回向する追善、施餓鬼など。また、開眼供養、鐘供養、経供養などの仏教行事もいう。*枕‐一三五「経・仏などくやうぜさせ給ひしを」
3 (僧の側から)喜捨を受けること。また、施される飲食物、衣服などの布施をいう。*宇津保‐忠こそ「修行にまかりありくに、くやう絶えて今日三日」

みょうみゃく 命脉 (Weblio/白水社 中国語辞典)
ピンインmìngmài
名詞 (物事の生死にかかわるような)重要な要素,命を制するもの,命の綱.

じょうどう(ジャウダウ)【成道】
仏語。菩薩が修行のすえ、悟りを開いて仏となること。また特に釈迦が仏になったことをさす。成仏得道。

しょうみょう(シャウミャウ)【正命】
仏語。八正道の一つ。五種のあやまった生活の営みを離れ、三業を清浄にした正しい生活。

はっしょうどう(‥シャウダウ)【八正道・八聖道】
仏語。仏教の基本的な八種の実践法。正見・正思惟・正語・正業・正命・正精進・正念・正定の称。

ほうきゃく(ハウ‥)【放却・抛却】
うちすてておくこと。放棄。

みょうり(ミャウ‥)【冥利】
1 仏語。仏菩薩が知らず知らずの間に与える利益。
2 転じて、人が知らず知らずの間に、神仏や他人などから与えられる福利・恩恵。
3 ある状態であることによって、おのずから受ける恩恵。「商売冥利」「男冥利」など。
4 身分、職業などを表すことばの下に付けて、「自分の身分・職業にかけて」と誓いの意を示すのに用いる。*浄・曾我扇八景‐中「仏神三宝番屋めうり」
冥利に尽(つ)きる 自分の身分や商売などによって受ける恩恵が、あまりにも多くてありがたい。

しょてん【諸天】
1 仏語。欲界の六欲天、色界の十八天および無色界の四天の総称。また、その天上界の神々。

せじょう(‥ジャウ)【世上】
1 世の中。俗世間。「世上に喧伝される」
2 あたり一面。近辺。四方。*天草本平家‐四「XejQ(セジャウ)サエアタタカニナレバ」

追伸
 「職業僧とは」でネット検索すると、良寛和尚が絶句悶絶するような結果がたくさん出てきました。