
朝食のクロワッサン
三日月型のサクサク。
中身は秘密の
生クリーム
ジャム
アーモンド
チョコレート
プロセスチーズ、
そして
ウインナーソーセージ。
トングでそっと薄皮に触れる
出来立て香ばしクロワッサン。
どこか見知らぬとある街角。
赤い夕日を背に受けて
店じまいのパン屋の軒先に、
疲れ果てた旅人が顔を覗かせる。
「お腹が空いて死にそうだ。パンをひとつくれないか」
ちょうど良かった、
これが最後のひとつだよ。
と、差し出されたのは三日月形のパン。
まるで今しがた、かまどから焼き上がったような
こんがり黄金色。
甘いバターの匂い・・
飢えた旅人はもう我慢出来ない。
これはありがたいと手をのばすが、無情にも甘い宝は隠される。
店主は言う。
これは私の夜食になるはずのパンだった、譲っても良いが、ひとつ謎を解いてごらん、と。
このパンの中身は何だと思う?
この上なく美味そうなパンを前に、
まるで飢え死にしそうな思いの旅人は頭を振り絞って考える。
わからない。
目で見ても
匂いを嗅いでも
ひっくり返しても
わからない。
当然だ。
味わわなければ、わからない。
頭のなか、
想像の舌の上を
様々な味のイメージが七色に溶けて消える。
どれも当てはまらない。
わからない。
気が付くと、旅人は店先に倒れていた。
空腹のあまり、気を失っていたのか・・
もうパン屋に人の気配はない。
ポケットには、三日月のパンが収まっていた。
甘い。
なにも出てこない。
七色の味のジャムも。
甘く充実した、ごく普通のパンだった。
木枯らしが
そうだよと囁きながら吹き抜けた。