仙台の鉄砲を分解して感動した話 その1
パイプ状にした鋲(ピン)の工夫と加工技術
仙台の鉄砲を整備していて,火蓋を留める鋲の作りに感心した。鋲とは,今風に言えば,ピンと言えば,分かっていただけるだろう。なにも仙台の鉄砲に限ったことではないが,火蓋を留める鋲は,パイプ状になっている。

右下の丸い鋲が,パイプ状になっている。

火蓋と鋲部分の接写
付属品を取り付けるためにパイプ状になっている。
その時々の状況に合わせて,鋲のパイプに,火隠しや雨除けなどの付属品を取り付けられるようにしてあるのだ。関流炮術の伝書では,この鋲のパイプ部分を火隠立穴と呼び,「火蓋からみ鋲,大にして,火隠立穴広くあけるべし」と教示している。
火隠しとは,夜間に敵に発見されないよう火縄についた火を覆い隠すための道具だ。皮や薄板などで作られた帆掛け船の帆のような形をしており,火蓋を留めるパイプ状の鋲に差し込んで用いるのである。
火縄銃は,生火を使うため雨水に弱い。火縄が濡れたり,装薬をいれる火皿に雨水が入ったりすると使えなくなってしまう。雨水から火縄銃を守るため,「扇型」と呼ばれる箱形の皮製の箱や,小型の雨傘のようなものを取り付ける。これらの防水道具を取り付けるためにも,火蓋の鋲がパイプ状になっているのである。

右ページの火縄銃にかぶせてある箱形のものが,扇型と呼ばれる雨除け
この火蓋の鋲をよく観察すると,直径2ミリ程度のパイプになっていて,上から下まで一直線に切れ込みがあった。小さな真鍮板を丸めて,このパイプをつくったのだ。丸めてパイプを作って,余分な部分を切り取れば,このような美しい仕上がりにならないはずだ。きっと,鋲穴の円周に合わせた長さに真鍮板を切り出して,丸めていったに違いない。

この線があることから,真鍮板を曲げて作ったことがわかる。
江戸時代のことだ。機械もなく,ろくな工具もない時代に,手仕事で作り出したのだから,昔の職人の技に感動してしまった。彼らは,円周率知っていて,それを計算できたのだろうか。それとも長年の勘と工夫によるものなのだろうか。一丁の火縄銃は,私にいろいろなことを教えてくれる。だからとても面白い。
火縄銃の整備は,いかにあるべきか?
この火縄銃の前の持ち主は,尊敬する研究者の一人で,この鉄砲を射撃できるまでにきちんと整備されておられた。ただ,古色や時代感を失いたくないため,機関部の完全清掃までは,わざとしていなかった。
購入時

古色と時代感があり風格も感じられる。引き金は,後補。自作したらしい。
購入後 整備済

あまり磨きすぎかもしれない。まるでモデルガンのようだ。
私も前はそうだったが,ここ一,二年で少し考えが変わってきた。火縄銃は歴史的資料でもあるが兵器でもある。兵器ならきれいにしておくべきだし,きれいにしておけば多くの人から愛され,歴史的資料として寿命も延びるのではないかと思うようになっている。はたして,保存方法としては,どうあるべきなのか,とても悩む。これについては,先学をはじめ多くの人たちの意見に従うつもりだ。この火縄銃は一時的に私がお預かりしているだけで,日本人全体の財産だと考えるからだ。