ひとまず店をあとにしたのは、10時をまわった頃だった

スマホを取り出し画面を開くと、義母からのLINEに気がついた
 
『紗良ちゃんは寝ました』

いつもと同じ娘の就寝報告に、ほっと胸を撫で下ろす


問題はここからだ

今夜は自宅に戻るつもりで、宿泊する部屋は予約してない

いつものホテルに、今から泊まれる部屋があるのか問い合わせると

「スイートルームでしたら、ご用意出来ますが…」

馴染みのフロントマンから連絡があり「そこでいい」と即決した


それからタクシーを拾ってコンビニに行き、避妊具の箱を手に取った

あの手のホテルは、部屋に常備していないことがある

頼んで用意させることは可能だろうが、良く使っている場所だけに気恥ずかしさが先に立つ

「…なにやってんだろうな、俺は」

無理強いするつもりは毛頭ないが

結局はあの子に断れ、ひとり寂しくスイートルームで眠る姿を想像したら笑えてくる

午後11時を少し過ぎた頃

店の裏口から彼女は姿を現した

さっきまで束ねていた髪は解かれ、柔らかそうな黒髪が肩の辺りで揺れている

「お疲れ様」

緊張しながら差し出した手に、小さな温もりが重なった

心地よい感触が胸をくすぐって、なんとも言えない幸福感が波のように押し寄せる

タクシーの後部座席に並んで座ると、繋ぎ直した指先をきつく絡めあう

今夜だけ

今夜だけだ

なんども自分に言い聞かせながら、女の甘い香りに酔いしれる

それでもホテルに到着するまでは、意識の片隅にユリと紗良がいた

客室に向かうエレベーターのドアが閉まった瞬間

すべてを忘れ、目の前の女に無我夢中で口づけをした



つづく↓