リトルリーグのシーズンは終盤に入っている。残すはあと3試合のみ。

現在、我がロイヤルズは7勝4敗で6チーム中3位。

9~11歳が参加するリーグにもかかわらず、9才のリオは3番打者に定着していた。打率は4割丁度でチーム内3位、打点は2位。


今日の対戦相手はフィリーズ。




リオは第1、第2打席ともくさい球をファールにして、四球を選んだ。

3回を終わって、ロイヤルズは1対2でリードされていた。


「リオ、この回はリオがピッチャーだ」と監督が告げた。

このひと月あまり、リオは一生懸命ピッチングの練習をしていた。

コントロールがかなり定まってきたので、先週監督に、

「リオはもう試合に出ても大丈夫だと思う」と推挙したところだった。


昨年度、リオは一度だけ登板した。

四者連続のフォアボールで1点を献上し、ピッチャー交代。彼の登板はその後一度もなかった。今年こそ雪辱を果たしたい。




初登板で緊張気味のリオ。僕はもっと緊張していた。

この回は敵の打順が良く、先頭打者から。


第一打者。1-3からフォアボール。

第二打者。ストレートのフォアボール。


しかし、去年のようにとんでもないボールはない。全て惜しいところでボール。上位打線は選球眼が良いのでなかなかボール球に手を出してくれない。

「リオ~、右足でプッシュしろ」

「リラックス、リラックス」

「キャッチャーのミットに集中して」


僕は一球ごとに声援を送った。去年の四者連続フォアボールが脳裏を横切る。


第三打者。1-1から2塁打。1点が入る。3対1と2点差に。

第四打者。2-2から三振を取った。やっと1アウト。


「いいぞ~、リオー!」

味方から声援が飛んだ。


第五打者。三球目に暴投。リオはピッチャーの仕事に慣れていないので、本塁のカバーが遅れた。三塁走者がホームイン。スコアは4対1。ホームに遅れて入ったリオの顔が悔しさで歪んでいる。結局、この打者はフォアボール。ランナー1,3塁。


第六打者。またまた暴投が出た。今度はリオが良いタイミングで本塁をカバー。三塁走者とのクロスプレーで足首をひねる。判定はセーフ。これで5対1。

リオは痛みと悔しさで泣いている。

試合中なのでその場で泣いている訳にはいかない。涙をふきながらマウンドに戻る。しかし、泣くほど心を乱しながら三振が取れるほど野球は甘くない。この打者も当然のフォアボール。

ランナー1,3塁。


第七打者。走者一掃の二塁打を浴びる。敵は2点追加。スコアは7対1に。もうこれでは負け試合は確定だ。


第八打者。「この打者もフォアボールならピッチャー交代だ」と監督が僕に言った。

リオは悔しさや怒りが暴れまくる胸の内を懸命に静めて力投を続けた。

ここでまた暴投。しかし、キャッチャーもリオも機敏に動き、本塁に突入したランナーを刺した。2アウト。苦境の中で進歩を遂げた息子に頼もしさを感じた。

「ええぞ、リオ。ようやった!」

これに勇気付けられたリオは2-1から速球を決めて三振を取った。3アウト。

 寿命が3年は縮まった1イニングだった。


 ベンチに帰って来たリオは、

「僕のせいで試合に負けちゃう」と改めて泣いた。

「まだ終わってへんやろ」と僕は彼を戒めた。

「僕のせいで5点も取られた」

「お前の打点はもっとあるんや。心配すんな。泣くんやったら家に帰れ」


リトルリーグの試合ではいつも何人かが失敗したり判定への不服で泣き始める。とにかくやたらとドラマチックなのだ。


4回裏にロイヤルズは2点を返してスコアは3対7になった。


5回の表、うちの新しいピッチャーが相手を凡退にしとめた。


5回の裏。ロイヤルズの攻撃。新しく替わった敵の投手が荒れまくり、四球と暴投の連続。あれよあれよと言う間にロイヤルズは7点も奪い、試合をひっくり返した。


5回の攻撃が終わったところで、日没の為試合終了。10対7で奇跡の勝利。

「やった~!!」

ダグアウトで狂乱する少年達。

これでロイヤルズは8勝4敗。2位に踊り出た。


リトルリーグは本当に「一寸先は闇」

全く予想もしない展開が当たり前のように起こる。


家に着いて、車から降りてきたリオに言った。

「リオは今日、ほんまにようがんばったよ。えらかったで、お前」

「うん」と、まだちょっと元気のないリオ。

「リオ、またピッチャーやるか?」

「うん!」


修羅場を乗り越えたリオは雪辱を誓った。





Takaya


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