笠地蔵

  5年ぶりです

 

 

むかしむかし

 

山間のある村に

 

おじいさんとおばあさんが住んで

いました。

 

 

 

 

雪が降りしきる ある日

 

「ばあさんや」

 

「なんですか おじいさん」

 

「もうすぐ年が明けるね」

 

「そうですね おじいさん」

 

年の瀬だというのに 貧しいこの家には

 

米櫃の底に一握りの米と少しの豆

しかありません

 

 

 

 

そこでおじいさんは

 

まだ夜も明けぬうちから 

町に笠を売りに行くことにしました。

 

 

 

 

 

 

 

けれども 激しく降る雪に 


町には人の姿もまばらで

 

笠もあまり売れませんでした。

 

「これじゃ米も買えん。ばあさん 

がっかりするだろうな」

 

おじいさんは肩を落としてため息を

つきました。

 

 

 

 

 

 

来た道をトボトボ

 

峠まで帰ってきた時に

 

「おや?」

 

峠にはお地蔵様が並んで立って

おられます。

 

そしてその頭には雪が降り積もって真っ白になっていました。

 


「かわいそうにのぅ」

 

おじいさんは


お地蔵さまの頭の雪を払い

 

「こんなに雪をかぶっては寒かろうに」

 

背にかついだ荷を下ろすと

 

「売れ残りで悪いけんどなぁ」

 

と言いながらお地蔵様の頭に


傘を乗せてゆきました。

 

「あれ」

 

笠が一つ足りません。

 

「わるいなぁ お地蔵さま」

 

自分の頭にかぶった手ぬぐいをはずし

 

お地蔵さまの頭の雪を払いながら

巻いてあげます



 

「わしが頭に巻いた手ぬぐいで

申し訳ないがのう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、家にたどり着き

 

ほぉとため息をつきました。

 

「ばあさんや」

 

と、笠があまり売れなかったこと

 

峠でお地蔵さまが寒そうにしていたこと

を話しました。

 

「そうですか おじいさん。

それは良いことをしましたね」

 

「悪かったな米も買ってきてやれんで」

 

「いいんですよ おじいさん」

 

炉に枯れ枝をくべながら

 

「うちには薪も布団もあるんだし 

いいんですすよ」

 

二人は米こそ少ないけれど温かい粥を

すすり

 

眠りにつきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして

 

「あじいさん 人の声が聞えませんか」

 

「うん そうだな、人の声が聞えるね」

 

二人は起き上がります。

 

それは歌うような話すような何人もの

声でした。

 

 

 

 

 おじいさんの家はここだね

 

 うん、そうじゃ そうじゃ

 

 これを置いて行ったら 

    喜んでくれるじゃろか

 

 優しいこころねのじい様じゃ

 

 うん、そうじゃ そうじゃ

 

 

 

 

 

「だれぞ 

 道に迷ったのかもしれませんよ」

 

「この雪の中 難儀じゃろ」    

 

おじいさんは囲炉裏に火を起こし

 

おばあさんは灯りをともし

 

ガタガタと戸を開けました。

 

「おや、誰もおらんようだが」

 

外には雪が降りしきるばかりで


人影は見えません。

 

そして、遠くに歌声だけが聞えました。

 

 

 

 

 雪もふるふる ほーやれほ

 

 わらの笠もて ほーやれほ

 

 爺さんうれしや ほーやれほ

 

 婆さんうれしや ほーやれほ

 

 

 

 

 

そして家の前には

 

 いくつもの米俵

 

 豆の詰まったたくさんの藁つと

 

 川の魚が盛られた桶

 

 絹や木綿の美しい反物

 

 砂金や銀の粒がぎっしりと詰まった袋

 

が積み上げられていました。

 

 

 

二人は夢を見ているのかと驚きました。

 

「おじいさん これは」

 

「おばあさん これは」

 

 

雪の向こうに

 

白い手ぬぐいを巻いた頭が  


見えたような気がしましたが

 

それもすぐに

 

真っ白な雪に 


かき消されてしまいました。

 

 

 

 

 

うれし楽しや ほーやれほ

 



 

終わり。