冬の寒さ厳しい夜に聞いていだだきたいお話です。
まだ読んだことがない方はよろしければ
お立ち寄り下さいませ。
さとりの化け物1
一人の旅人が 山の中で一夜を過ごすことになりました。
雪深い山の中
焚火の火を絶やさないようにしなければ 凍死してしまいます。
森の中はシーンとして ときおりドサッと雪が落ちるだけ
くべられた木の枝がパチパチとはじける音を聞きながら
焚火の炎をみつめるうち
旅人は眠くなってきました。
いけない いけない 寝てしまうところだった!
旅人はごしごしと目をこすります。
すると、
炎の向こうに誰かがうずくまっているのが見えました。
え?!
いえ、それは決して人ではない なにか でした。
さとりの化け物2

旅人は雪の降りしきる山の中
一晩中、たき火の火を絶やさないように
時おり枯れ枝を投げ入れながら
火の前に座っていました。
「えっ!」
炎の向こうにうずくまって こちらをじっと窺ってるのは
決して人ではない 何かでした。

旅人は、喉がしめつけられるようで言葉が出ません。
「いま、なんだこの化け物は!と思いましたね」
ものが軋むような声が聞こえました。
どうやら この得体のしれない何かの口から発したものの楊でした。
「なんだこいつ 人の言葉がしゃべれるのか と思いましたね」
旅人が思ったとうりの事を言い当てます。
「人ではありませんよ あなたが思ったとおり わたしは化け物です」
炎の向こうで大きな口がまっ赤に裂けて、
笑ったように見えました。
旅人の体に急に汗が吹き出します。
「喰われるのか 俺を喰おうとしているのか と思いましたね
そう あなたは喰われてしまうのです わたしにね」
どうして俺がこんな目にあわなきゃいけないんだ!
大声で叫び出したい恐怖が襲ってきました。
「どうしてって わたしはサトリだからね あなたの頭の中を喰っているんだよ」
頭の中を喰ってる?
「ああ そうだよ、考える事がなくなったら
わたしに全部 悟られたら
その時 おまえは死ぬのだよ」
ギーギーギ―・・・
軋んだ声は そう言っていました。
さとりの化け物 3
「さあはやくかんがえて かんがえることがなくなったら
喰われてしまいますよ」
ギーギー軋むような声が 焚火の向こうから聞こえます。
ああ どうしよう 何か考えないと。
「ああ どうしよう なにかかんがえなきゃとおもいましたね、さぁはやくかんがえて」
次!
次は・・・
考えないとおれは喰われてしまう。
こんな山の中で たった一人で!
「こんなやまのなかで たったひとりでしんでいたら ですか?」
ケケケ 化け物の声は嘲笑っているかのようでした。
そうだ!子供の頃からの出来事をおもいだしていればいいんだ
そうすれば そのうちに夜もあけるだろう
そうすればきっと。
「さぁ こどものころのはなしを きかせてください」
俺は 俺はどこで産まれたんだっけ
あ、あれ?
母親の顔が思い出せない
ケケケ
化け物の避けた口の中に全てが吸い込まれてゆくように
頭の中が真っ白になってゆきました。
もうダメだ
何も思い出せない なにも・・・
「もうダメだ、なにもおもいうかばない
そうおもいまし・・・ぎゃぁ! 」
雪山に木が裂けたような声が響きました。
いきなり、焚火の中の枯れ枝についた実がパンと弾け
化け物の目に飛んできたのです。
こいつを腹いっぱい喰えるとヨダレをたらしていた化け物は
しまった!
人は思ったより賢いのか
頭の中で考えないでも 石を投げてくることが出来るのか
これでは こいつを喰えない 喰えない
ギーギーギー
化け物は唖然としている旅人を残し
ピタピタと暗い森の中に消えてゆきました。
それ以来 さとりの化け物は
人前に現れる事はなくなったといいます。
でもね、
最近また 人中に紛れているらしいといいます。
もの静かな中年の男性の姿であったり
色白で聴き上手な娘の姿であったり
油断した心に入り込んでくるのだとか。

ほら、みなさんのすぐ近くにも。
注意して
注意して
注意して
ギーギーギー
おわり。
おり~ぶ









