今日は短編小説に挑戦してみました。

エネルギーの変化による影響力のお話。

良かったら読んでみて下さい。

 

☆

 

 

オレは とぼとぼ 河原を歩いていた。

 

天気の良い日は河原の土手に腰を下ろして ぼんやりするのが好きだ。

 

今日もぼんやり遠くを眺めていると、必ず聞こえてくるのが

人々の楽しそうな笑い声。

 

 

母親と手を繋ぎながら今日あった出来事を

「お母さん あのね あのね…」 と早口にお喋りしながら歩く女の子や、

その姿を穏やかな笑顔で見つめる母親の横顔。

 

 

父親と息子が川に向かって石切りして遊ぶ姿。

「父ちゃん 見てて  オレ 遠くまで飛ばせるよ!」

ツーン   ボチャ

 

「あれ?おかしいなー もう一回  もう一回!」

ツーン    ツーン    ぽちゃ

 

「下手くそ! かしてみろ  いいかー こうやって 投げるんだ

いいかー 見てろー 水面に対して平行に手をだな…   」

 

 

 

こんなやり取りが永遠に続きそうで 嫌気がさした。

 

オレは足早に市場に向かった。

夕方の市場は人足が引いて閑散としていた。

 

太った肉屋の店主も昼間の繁忙から一息ついて

どっかり腰を下ろして大あくびをしていた。

 

 

昨日 畑作業を手伝った小遣いで 魚屋に行って 煮干しを一掴み 値切って買った。

夕方は値切りやすいから好きだ。

鮮度よりも 腹いっぱい食いたい。

暫くはこれで飢えをしのごう。

 

 

オレの 父ちゃん 母ちゃん 兄妹達は戦争の空襲で死んじまった。

たまたま、オレだけ助かっちまって、食うや食わぬの生活をしている。

 

いや、何度も死のうとしたさ…

でも、死ぬことなんて出来なかった。

 

 

だから、オレは国や政府や戦争も全てを憎んでいる。

オレから全てを奪った戦争を…。

 

 

 

 

 

オレは寂しくなんかない。

父ちゃんが残してくれた唯一の宝物

「バイオリン」がある。

 

父ちゃんが死ぬ前にオレに弾き方を教えてくれた。

ただ、オレが上手くなる前に死んじまったけど…。

 

 

 

今日も一人でバイオリンの練習をしていると、隣に住む ガミガミおばさんが 大きな足音を轟ろかせてやってくる。

 

ほら、今日もやってきた。

 

「ちょっと あんた!その楽器の出す騒音は 太った肉屋の店主のイビキより強烈だね!

街中に響き渡るよ!!」

(あんたの足音の方が大きいよ!)

 

そう言い放って 玄関のドアをピシャっと閉めて出ていった。

 

おいおい 扉が外れちまうよ…

そう小声で呟きながら、バイオリンを持ってお気に入りの場所に出かけた。

そこは、丘の上に鎮座する神社た。

ここには誰も来ない。

 

 

子供の頃からのオレの秘密基地、 そしてオレの舞台。

 

渋々ここでバイオリンの練習をしていると、どこからともなく 迷子の子猫が寄ってきた。

 

かなり痩せこけていて、きっと腹ペコなんだろう。

オレの方に鼻をクンクンさせながら近づいてくる。

 

 

ヤバい! オレがさっき市場で買った煮干しを狙っている!

オレは知らん顔した。

それでも徐々に近づいて来るから 「シッ シッ!」と追い払ってやった。

 

自慢じゃないけどオレは人に食べ物を分け与えた事なんて一度もない。

自分が食べられないのになぜ 人に分けるのか?

そっちの方が意味が分からない。

 

だから、知らない猫になんか食べ物をあげる気なんかさらさら無い。

 

そんなオレの心なんかお構いなしに猫は近寄ってくる。

足にまとわりついたり、甘えた声でおねだり してくる。

 

流石のオレもこいつの痩せた体を見たら、ほっとけなくなった。

 

でも、悔しいからオレが一口食って 残りのしっぽの方をそいつにやった。

 

そしたら、こいつ すんげー美味しそうに食べるんだよ!

 

何度も 何度も噛んで 夢中で食べるんだよ。

なんか、その姿が凄く可愛くてさ

ずっと見ていたかったけど、いたたまれなくなって

「あばよ!」って言って足早にその場を去ったよ。

猫がオレの背中をずっと見ている気配を感じながらね。

 

☆

 

 

季節は11月  雨が降っているせいか 肌寒さを感じる午後。

急にあの猫の事が気になって神社に行ってみた。

 

 

辺りを見渡し、「おーい ねこ?」って呼んでみた。

 

そしたら、神社の境内の下から震えた か細い声で

「みゃ~」 ってないた。近寄ってみると ひどく汚れていて 足を怪我しているようでうずくまっていた。

「ねこー どうしたんだよ! 大丈夫か?」

 

そう聞いても 返事は力なく みや~

 

 

オレは本来こんな事する人間じゃないけど、

急いで猫を家に連れて帰って怪我の手当てをしてあげて、体を綺麗に洗ってあげた。

 

震える小さな体を一生懸命温めてあげて、お粥を作って食べさせた。

 

今にも息絶えそうになった子猫に

「生きてくれ 生きてくれ!!」

そう願った。

 

オレは、親を亡くしてから神なんていやしないって思ってきた。

だけど、今回だけは…

神様 今回だけは祈らせてくれ

どうかこの 子猫を助けてあげてくれ

お願いだ  お願いします。

 

オレは一心不乱に神に祈った。

そして、この子猫に出来ることをした。

 

 

 

オレは初めて猫と一緒に寝た。

箱に寝床を作ってあげたけど、心配で目が離せなかった。

 

今日だけはオレの側で寝かせてあげることにした。

 

優しく撫でると 気持ちよさそうにのどを ゴロゴロさせる。

それが面白くて一晩中 猫をさすってやった。

そしたら、知らないうちに眠っていた。

 

朝 目が覚めると、 今まで感じた事のない 幸福感 の中に包まれていることに驚いた。

何だろう、この満たされた気持ちは…

今まで感じた事がない。

 

猫も少し元気を取り戻したようだ。

 

それからのオレは猫の世話をせっせと焼いた。

 

釜で飯を炊いて食べさせた。

こらが 「同じ釜の飯を食う」 って事かと にんまり しながら飯をくった。

 

 

猫が元気になるたびにオレも生きる気力が湧いてきた。

 

 

 

だけど、オレには出来ないことがあった。

それは、ねこに名前を付けて呼ぶこと。

 

 

オレは こいつに名前を付けて呼んでしまったら終わりだと思っている。

その時点で 情 ってやつが移っちまって、オレがオレでいられなくなる気がしてしまう。

 

そんな事 無いんだろうけど そんな気がしてしまう。

 

☆

 

 

最近、不思議だと思うことがある。

それは、家で こいつに バイオリンを聞かせようと思って弾いているのだが、あの ガミガミおばさんが怒鳴り込んで来なくなった。

それどころか、街で合うとニコニコ挨拶してくるようになった。

いつも気になる3件隣の夫婦喧嘩の絶えない若夫婦の怒鳴り合う声も聞こえない。

何故だろう…

 

 

 

ある晴れた日に、こいつと二人でバイオリンの演奏会を楽しんでいた。

すると、玄関のドアが「コンコン」とノックされた。

 

やばい!いよいよ ガミガミおばさんが来たガーン

 

 

おそるおそる 玄関のドアを開けるとそこには町内会長さんが仰々しく顔を覗かせて、

「あなたのバイオリン?とやらの演奏を聞かせて欲しいと人が集まっちょる」

 

驚いて外を覗いてみると、近所のおじさんやおばさん、肉屋の店主、ガミガミおばさんや若夫婦までもが集まっているではないか。

 

 

まあ、どうせ二人だけの演奏会なんだから多少人が増えても大丈夫。

こうして、演奏会は沢山の観客に見守られながらスタートした。

 

暫くすると、1人泣き 2人泣き 会場全体が涙を流しているではないか?

 

しかも、顔をぐしゃぐしゃにして泣いてる人もいるし、笑いながら泣いてる人もいる。

嗚咽する人までいる。

 

一体 何が起きているのか珍ぷんかんぷん?

 

 

演奏会が終わると皆 本当に喜んでくれて握手を求められる騒ぎ。

しかも、演奏を聴いてくれた人たちがそれぞれにお米や、野菜、魚に肉を届けてくれる。

 

 

 

オレは、人生で初めて 腹いっぱい飯を食った。

釜で炊き立ての飯を食ったら涙が溢れてきた。

それはとても温かい涙だった。

 

オレは初めて 「幸せ」っていうものを感じたんだ。

 

 

おわり

 

 

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