おはようございます!
毎月上旬は文芸誌チェックの週です!!
(と言いつつもう中旬にさしかかろうとしていますが)
 
 
文學界2021年5月号に巻頭掲載された羽田圭介さんの新作「Phantom」がここ最近読んだ小説のなかでもどストライクに刺さりました。
 
 
羽田圭介「Phantom」は、千葉の格安UR賃貸に暮らしながら蓄財に精を出す30代会社員・華美(はなみ)の「おカネ」と「シンライ」をめぐる物語です。
 
 
華美は日中に外資系食料品メーカーの事務職としてコツコツ働き、夜間に米国株式市場の相場と向き合いトレードを繰り返して資産運用をしています。
 
 
配当金を再投資することで自分の資産がどんどん増えていく「複利の力」のすごさに開眼した華美はトレードにのめり込み、着実に資産を増やしていく一方で日々の生活費をなるべく切り詰めるようになりました。
 
 
軽自動車を愛用し、友人からの誘いがあるたびに損益計算をして行くか行かないかを判断し、何かにお金を使う場合は無駄な浪費はなるべく避ける。
 
 
そんな暮らし方が板につき、順調に蓄財は進んでいましたが、恋人の直幸からは過度な倹約に見えて呆れられ、損益計算をして誘いを断った友人から関係を切られるなど心がざわつく瞬間もしばしば訪れるのでした。
 
 
華美がトレードをはじめたのは年収260万円という収入の心もとなさからくる将来の不安を払拭するため。
けれど時にはトレードの波に呑まれることもあり、不安と自己嫌悪に苛まれてもがきます。
 
 
嫌な波に呑まれるたびに華美は容姿の良さでチヤホヤされていた過去の自分の傲慢さに思いを馳せ、自分が何かを成し遂げてきた人間ではない無力感を痛感するとともに、その無力感を埋めるためにもやはり蓄財が必要だと思い直すのでした。
 
 
蓄財への思いが増す一方で、恋人の直幸との心の距離がどんどん離れていっていることも華美は感じます。
 
 
直幸も華美と同程度の年収で生活にゆとりはありませんが、「円にこだわらない」考え方を提唱するとあるオンラインサロンオーナーの言葉に影響され、「円を手放しシンライを貯める」コミュニティに熱を入れるようになります。
 
 
コミュニティは月額5,980円の会費がかかり、会費は円の支払いになるけれど、コミュニティ内では「シンライ」という円相当のポイントを貯めることができ、シンライを貯めて事業やイベントなど「面白いこと」をすることができると直幸は熱弁します。
 
 
華美はそのコミュニティにいかがわしさを感じますが、損益計算の癖が原因で友人を失った痛みが残っていたこともあり、直幸の言い分が一理あるように聞こえてきます。


けれど華美は自分が培ってきた蓄財方法を否定された気分にもなり、会うたびに言い合いになり喧嘩別れをしてしまうのでした。


そうして、おカネとシンライ、ふたつの価値観について考えさせられる日々を送る華美でしたが、ある日直幸が有休を消化してコミュニティメンバーが集う村で生活をし始めたことを知ります。


その村は「私有財産を放棄し、円経済圏から脱却した生活を送る」ための村で、携帯はつながらず、一抹の不安を覚える華美はある行動を起こすのです……。


「Phantom」はいち庶民が現代社会で悩みもがく姿が克明に描かれた傑作でした。


華美の「蓄財が自分の身を守る将来の支えになる」という考え方も、直幸の「信頼を貯めてお金に困らない生活をする」という考え方も、どちらも大切な考え方で間違いではありません。


わたし自身も株式投資もやっているので華美の考え方にはとても共感できますし(複利の暗算はできませんが)、直幸が影響力のある人物やコミュニティにのめり込む心情もとてもよくわかります。


けれどどちらかに振り切りすぎると、信頼をなくして孤立してしまったり、健康を害してしまったり、いつのまにか誰かに搾取されていることに気がつかなかったりしてしまいます。


その背景には自分に自信がなくて不安だ、という「弱さ」が滲み出ています。
その弱さが痛いほどわかり、強く胸に刺さったのでした。


華美は自分のことを「大衆」のうちのひとりだと自覚してトレードに臨んでいます。


大衆心理の裏の裏の裏をかけば勝機が見えると信じてチャートに向き合うものの、気がつけば自分という「大衆」に呑まれてしまい大損してしまう場面が描かれるのですが、現代社会を生きるわたしたちの姿を皮肉に描いているようで身震いがしました。。


物語全体を通して他人事とは思えない親近感と危うさに満ちた社会派小説でした。


ところで、「シンライを貯める」直幸の考え方に既視感があるなぁ…と思っていたら佐藤航陽『お金2.0』に書いてあったことでした。笑


作中で描かれるオンラインサロンオーナーも既視感ありあり。
羽田さんは現代社会のパロディが巧すぎます。



 「文學界2021年5月号」には本作のほかにも文學界新人賞受賞作が載っているのでそちらもチェックします!


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