過酷な家庭環境で育った主人公・せれなが90年代のロックスター・リアンに恋をする物語です。
幼いころに母は家を出ていき、自殺未遂を繰り返す心の弱い父とふたり暮らしをしていたせれなは、ある日、テレビに映った4人組ロックバンドのボーカル・リアンに魅了されます。
しかしリアンを知ったころには彼はもうこの世におらず、せれなが観た番組は没後10周年の特集番組だったのでした。
リアンに心惹かれたせれなは彼のことをもっと深く知りたいと思い、お小遣いを貯めてアルバムを買ったり図書館にあった彼らの自伝本を読み込んだりして、どんどん深くのめり込んでいくのでした。
一方せれなの生活はより厳しくなり、父は酒に溺れ、せれなに性的な目を向けるようになります。
父への嫌悪感に粟立ちながらも、子どもだったせれなは逃げることができず、せれなはよりリアンに夢中になっていくのでした……。
この物語は、中盤からせれなの現実世界と妄想世界が混ざり合い、せれなの心を侵食していきます。
妄想世界では、リアンがせれなの目の前にあらわれ、せれなの恋人として紳士にふるまいます。
せれなはリアンのバンドのツアーに同行していたり、リアンとデートをしていたり。
やがてリアンはせれなの日常にしばしば登場し、せれなの心を甘く癒してくれるのですが、現実世界では父の暴行が止まない正反対の環境に置かれていたのでした……。
せれなの妄想世界は、過酷な現実世界から心を守る盾として機能していることがわかります。
せれなの妄想は意識的なものではなく、いつのまにかリアンとの世界にスイッチが切り替わり、せれなの心を癒していきます。
この現実世界と妄想世界の混在の語りがこの物語の大きな特徴であり、読みどころです。
妄想世界の語りから、せれなは妄想世界に頼ることで自分をどうにか支え、生き延びようとする切実さを間接的に描き出しており、そして後半部で大人になったせれなが妄想世界との訣別をはかろうとする場面まで切実さの勢いは止まりません。
せれなの切実さに引っ張られるように、最後まで一気に読んでしまいました。
一気に読ませた、という言葉が一番しっくりくるかもしれません。
そしてこの物語にはもうひとり切実さを持った人物が登場します。
それはせれなの意中の相手・リアン。
リアン自身も壮絶な生涯を送っており、彼の生涯とせれなの過去が共鳴し、せれなが感情を爆発させる場面で切実さが最高潮に達し、びりびりと痺れました。
こうすることでしか生きられなかったせれなの切実な物語は、生命力を強く感じさせるパワーと勢いのある物語でもありました。
せれなの現実世界、妄想世界、リアンの生涯と語りが複雑なのに混乱せずに読めるリーダビリティもあり、とにかく「読ませる」作品でした。
デビュー作(すばる文学賞受賞作)でありながら芥川賞候補作となる理由に納得です。
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