11月20日発売の新刊ほやほやの一冊なのですが・・めちゃくちゃ良かったです!!
白尾悠『サード・キッチン』は、1990年代後半にアメリカ留学を果たした主人公・尚美のキャンパスライフと成長が綴られた物語です。
母子家庭で育ち、経済的事情から留学を諦めていた尚美は、亡くなった父の知人だという山村久子さんというおばあさんの援助を受け、アメリカの大学に進学します。
援助を受ける代わりに久子さんが出した条件は、在学中に手紙を出すことと、優秀な成績で大学を卒業すること。
諦めかけていたところに手を差し伸べてくれた久子さんに尚美は感謝してもしきれず、何が何でもトップクラスの成績を保って大学を卒業することを胸に誓い、アメリカへと旅立つのです。
しかし現実はそう甘くなく。
ネイティブだらけの学生のなか、ひとりつたない英語で話す尚美に周りはからかうように接し、尚美はどんどん自信をなくし、縮こまってしまいます。
多国籍な学生が多いという理由で選んだのですが、実際は公用語が英語だったりインターナショナルスクール出身だったりと流暢な英語を話す学生ばかりだったのです。
はじめは友達を作ろうと積極的に話しかけましたが、会話がスムーズに続かないためどうしても場がしらけてしまい、尚美は心折れ、ひとり孤独に勉強に打ち込みます。
そんなみじめな自分を久子さんへの手紙にするわけにもいかず、尚美は架空のキャンパスライフを想像しながら手紙を書き進めていくのですが、嘘を重ねている自分にさらにみじめな気持ちになり、どんどんふさぎこんでしまうのでした…。
ですがある日尚美に転機がおとずれます。
ルームメイトに誘われたパーティーになじめず、ひとり部屋に戻ってきた尚美は、たまたま残っていた隣の部屋の学生・アンドレアと仲良くなります。
社交的でなければ…とプレッシャーを感じていた尚美にアンドレアは優しく「非社交派」として仲良く接してくれ、そこから尚美は徐々に自分なりのキャンパスライフを描いていくのです。
そして尚美は、アンドレアの知人のつてで「サード・キッチン」という学生食堂の存在を知ります。
「サード・キッチン」とは、人種・性・思想などでマイノリティな立場にいる学生たちにとっての「安全地帯」として作られた、会員限定の食堂です。
人種のるつぼと言われるアメリカにおいてマイノリティへの差別・偏見という問題は根強く、サード・キッチンはそうした問題で消耗している学生たちに「ここなら大丈夫」だと思ってもらえる場をつくり、英気を養って勉強に注力できるようにという意図で会員限定で運営しているのでした。
孤独に過ごしていた大学生活のなかで、これまで意識してこなかった人種の壁があるということを嫌と言うほど痛感させられた尚美は、サード・キッチンの異なるバックグラウンドの学生たちが集いながらも会員同士が優しく寄り添い、ときには大学側へ改善を働きかける、団結した空間に強く魅了され、アンドレアとともにサード・キッチンへ入会を希望するのです。
面接を経て尚美は無事に採用されるのですが、そこで待ち受けていたのは「多様性」ということの想像以上の複雑さと、差別・偏見にあまりにも自覚的でなかった自分自身に対する大きなショックだったのです……。
サード・キッチンで提供される多国籍な料理がとにかく美味しそうで、尚美の成長物語という大筋よりも料理の描写に夢中になっている自分がいました。
(食いしん坊…笑)
食事は単なる栄養補給ではなく、それぞれの生きてきた環境や思想が反映される、とても個人的なものなんだということをこの物語を読んで気づかされ、また、食べることがどれだけ心に大きな影響を与えるのかということを身に染みて考えさせられました。
尚美はサード・キッチンでの食事を楽しみながら、この場に集う学生たちのバックグラウンドの振れ幅に仰天し、絶句し、そして自分自身をかえりみます。
これまで「人種」を意識してこなかった自分には恵まれたところがあり、そして無知なところがある。
そして無知であるがゆえに「アメリカ人はこんなイメージ」といった「ステレオタイプ」を押しつけている自分に気がつき、尚美はとたんに自分の言動が怖くなってしまうのです。
まじめで少し自罰的な尚美の感情はまるで自分のことのように鋭く突き刺さります。
多様性という言葉をよく飲み込んでいるつもりですし、差別の加害者にならないよう気をつけるとつねづねブログでも発信していますが、それがきちんとできているか?というところには少し自信がありません。
無自覚でステレオタイプを押しつけてしまっていないか。忙しさのせいにして上から目線の差別的な行為をしたことはなかっただろうか。
ひとたび考えると身が縮こまってしまいます。
ですが、サード・キッチンは尚美にいつまでも温かい空間を提供します。
尚美は何度も自罰的な思いに打ちのめされながらも、サード・キッチンの空間や仲間たちに救われながら、少しずつ前を向いていくのです。
尚美の自罰的な心は、誰かに嫌われたくない、という恐怖心からくるものでもあり、誰も傷つけたくない、という優しい心からくるものでもあります。
その思いに真摯に向き合い乗り越えようとする尚美の姿はとても力強く、わたしもこうありたいと強く胸を打たれました。
知り合いも誰もいないアメリカへ単身留学するだけでも彼女の熱意と行動力に感服させられるというのに、さらに成長していく尚美の姿がとてもまぶしく映りました。
謎の「足長おばあさん」・山村久子さんとの関係も思わぬ伏線だったことがわかり、物語構造の厚みにも唸らされて夢中になって読み終えました。
彼女の情熱を支えるものは、温かい仲間と温かい空間、そして温かい食事でした。
わたしはこの物語を読んで、サード・キッチンのような「安全地帯」と呼べる場をより意識して、その場を大切にしていこうと思いました。
たとえば実家のごはんとか。
遠慮なく話せる友人関係とか。
凹んでも励ましてくれるパートナーとか。
誰にとっても「ここなら大丈夫」と思える安全地帯はきっとあるはずです。
そうした場の温かさをより強く意識して、自分の課題に向き合い、情熱を注ぎ続けていきたいと思わされました。
温かい気持ちになりながらも考えさせられる名作でした!
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