理不尽すぎて、意地悪すぎる作品でした。

呉勝浩『スワン』は、郊外の巨大ショッピングモール「スワン」内で起きた無差別銃撃事件で生き残った者たちの「罪」をあぶり出す物語。

犯人は二人組で、自作した銃を乱射し無差別に人々に襲い掛かります。
この事件の死者は20名を超え、犯人は自殺。
最も悲惨な状況で幕を閉じてしまいます。

特に被害が甚大だったのが、モールの最上階にあるスカイラウンジ。
逃げ場がない分犯人の格好の餌食になってしまい、地獄のような惨劇が繰り広げられたのでした…。

そしてこの事件は多くの人々に衝撃とやり場のない怒りを残し、その感情の矛先は奇跡的に助かった生存者へ向けられます…。

この物語の中心人物は、スカイラウンジの惨劇で奇跡的に生き残った女子高生・片岡いずみ。
いずみは犯人に脅され、惨劇の引き金を引くような立場に立たされてしまったのでした。

いずみはどうしようもない理不尽な目にあっただけなのに、スカイラウンジでの惨劇に手を貸した「悪人」とみなされ、事件後、周囲から猛バッシングを受けるのです。

事件自体の恐怖と事件後のバッシングによるショックからしばらく抜け出せないいずみでしたが、時間をかけ、少しずつ自分の日常を取り戻そうとします。

しかし、あれだけの惨劇を目の当たりにした自分は、これまでの日常は絶対に戻れない。

そんな確信だけはあり、いずみのなかに暗雲が立ち込めるのですが、そんないずみの感情が思わぬところで揺さぶられることとなります。

それが、突然開かれた5人の生存者を集めたお茶会。

資産家であった被害者の遺族から、事件の詳細を知りたいということで、5人の男女がお茶会に集められたのです。

被害者の死因は無差別テロの犯人によるものだけれど、当日の動きに不審な点があり、その真相がどうしても知りたいのだと、被害者遺族の代理人・徳下がお茶会の趣旨を説明します。

集められた5人はお茶会の趣旨にも、話すべき内容にも戸惑い、不信感をあらわにします。

しかし誰もお茶会の場から席を外そうとはしません。

それは、彼らそれぞれが「罪」を抱え、そのために事件の詳細を明らかにしたいという思いがあったからなのでした。
そうした不穏な空気が立ち込めるなかでお茶会ははじまるのですが…。

この物語を読みながら、悲しいんだかやるせないんだか、変な感情がずっと渦巻いていました。

あなたは悪くない、とだれに対しても呼びかけたくなりました。
特にいずみの立場は不幸でしかなく、痛々しい姿をひたすら気の毒に感じながら読み進めていました。

ですが、この物語は意地悪なことに、そうした悲劇の最中に生み出されたちいさな「罪」をあぶり出し、生き残った人々を苦しめます。

どうしようもなかった。

それらの「罪」は、そうとしか言えないようなちいさなものばかり。
けれど、多数の犠牲者を前にして、そうはっきりと言えません。

お茶会が進むにつれ、彼らの「罪」と事件当時の状況が徐々にあらわになっていくのですが、最終部でいずみが抱えている「罪」の奥に「隠された物語」があらわになるのです。

謎がどんどん明らかになっていくミステリー展開が巧みで、これはどういうことなんだ!?と謎が気になり、後半は一気に読んでしまいました。

この物語のキーワードになるのが、タイトルにもある「スワン」。

いずみは事件前までクラシックバレエの習い事に熱中し、「白鳥の湖」の演目を踊るために猛練習を重ねていたのでした。

しかしそんないずみの身に降りかかったのは、理不尽すぎる悲劇…。

この物語はこうした理不尽さを、そして理不尽さにより抱えてしまった罪を背負ってしまったとき、わたしたちはどう向き合えるだろうか?という大きな問いを投げかけます。

重要なのは「乗り越える」ではないことです。
乗り越える、と書くのはあまりにも犠牲が多すぎて、現実的ではないからです。

いずみはお茶会を通して事件の詳細を知り、いずみなりの事件への向き合い方を決めます。

その答えは彼女らしいもので、読後は少しの清々しさを覚えます。

けれど読み終わったあとに残るのは、凄惨な事件による後味の悪さと、意地悪な問いでした。

誰だっておかしてしまうかもしれないささいな罪。
起こりうるかもしれない理不尽な出来事。

そういうものが自分の身に降りかかったとき、どういう自分でいられるだろう?

答えはすぐ出ません。
なんて意地悪な作品なんでしょう。

でも、この読後感はしばらく忘れられません。
この物語にまんまと飲み込まれました。


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