前回読んだ『ダメをみがく』から親和性の高さ(?)を感じて、久しぶりに田辺聖子さんを読みました。
田辺聖子さんが75歳のときに刊行されたエッセイ集です。
「だまし だまし」というひらがな遣いとスペースの空け方が絶妙で素敵です。
そして人生の大先輩からこう言われると、説得力がばつぐんです…。

本書は田辺聖子さんが作家人生の中で書き尽くしてきた「アフォリズム」について解説している一冊です。
アフォリズムという言葉をネットで調べると「短いぴりっとした表現で、人生・社会・文化等に関する見解を表したもの」とあります。

つまり「名言」とか「格言」とかいう意味なのだと思いますが、本書を読むとそれらとは一線を画しているように感じます。

名言や格言はどことなく前向きなニュアンスを感じるけれど、田辺聖子さんのアフォリズムはどこか後ろ向きな感じだから。笑

たとえば
「苦労は逃げぇ」(24頁)(「逃げぇ」は「逃げろ」という意味の関西弁)とか。

「人間も金属疲労が出てからがホンモノである」(17頁)とか。

「人生でいちばんいい言葉は<ほな>である。」(145頁)とか。

「結婚は外交である。つまり駆引と謀略に尽きる。」(153頁)とか。

なんかこう、その一言の裏に忘れがたい苦難が滲み出ているように感じられるのです。

そういう苦難を乗り越え、達観したからこそ自然に出てくる言葉という感じもします。
そんな言葉たちを前にすると、たいした苦労もしていないわたしはただただひれ伏したくなります。笑

いちばん響いたのは
「なるべく怒らぬよう。怒ると人生の貯金が減る。」(227頁)

ううむ。「人生の貯金」というところが深いですね。

「怒る」ということでふと思いましたが、この本には「絶対許せない!!」みたいな「激情」が一切ありません。

生活でちょっとした不満が出ても「まぁ、まぁ、ええやないの……」みたいな、「……」を多用した感じ、感情をヨソにそらしてどうにかごまかしている書き方をしています。

そういう「激情」への対処の仕方が、すごく「オトナ」でうらやましくて、読みながら自己嫌悪してしまいました(自分はまだまだだなぁ……と思って)。

この感じは人生の折り返し地点を過ぎ、「酸いも甘いも」なんて言葉でまとめちゃいけないくらいの艱難辛苦を味わったから体得したのだろうと想像します。

自分はまだつかめないんだろうなぁ……と思いつつ、30代を目前にして心に刻んでおきたいアフォリズムでした。

また、本書は「理想の夫婦」はどういうものかを考えさせる一冊でもあります。

田辺聖子さんの夫は「おっちゃん」と呼ばれ、酒呑み仲間とともにときおり会話に入ってきます。

お聖さん(田辺聖子さんの愛称)とおっちゃんは仲良しですが、カップルみたいにいちゃいちゃ系ではなくて、あうんの呼吸、「気ごころ」の知れたパートナー、という雰囲気でふたりの掛け合いが書かれています。

ですが、「おっちゃん」は本書が刊行される直前の2002年に亡くなってしまいます。
本書では最後に少しだけ触れられますが、そこはやけにカラッと書かれていて、一瞬読み飛ばしかけました。笑

お聖さんとおっちゃんは〈ほな〉と言い合うような別れ方をしたそうなのですが、それについては全く触れられず、むしろ別の話題にそれていってしまいます。

わたしは「え?おっちゃんとのことは〈ほな〉だけ??」と首をかしげましたが、読みながらおっちゃんが亡くなったことが書かれる一つ前の「人間のプロ」という章に出てくる「爺さん」の存在がふと頭をかすめます。

「人間のプロ」の条件についてのアフォリズムが語られる章なのですが、そこでは「人間のプロ」のたとえとしてひとりの爺さんが登場します。
その爺さんは想像上の人物として描かれているのですが、、、その爺さんと「おっちゃん」が重なって見えたのです。

爺さんは「なるべく怒らぬよう。」などのアフォリズムを次々と残し、「神サン」に呼ばれたからと言ってたのしげにその場を去っていきます。

これってもしかしておっちゃんの面影みたいなもの?
まぁ、深読みのしすぎ、ただの誤読だと思いますが……。

最愛のパートナーについてあえてはっきり語らない、というところになんとも言えない「あわれ」(かなしさと愛しさの両方の意味で)を感じて勝手にグッときてしまいました。

お聖さんとおっちゃんのように、言葉にしなくても「気ごころ」が知れて、お互いの意見を受け入れあって、いつまでも「ええ調子」でニコニコ笑いながら楽しく過ごせる夫婦でありたいなぁ、と強く思った一冊でもありました。

田辺聖子さんは今年で91歳。おっちゃんと別れて17年の月日が経っています。
いまどんな境地でいらっしゃるのか……とても気になります。
いつか全集を買い揃えたい作家さんのひとりです。


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