![]() | 群像 2018年 12 月号 [雑誌] Amazon |
いつかくるだろうなぁと思っていた仮想通貨小説! とうとうきたー! とわくわくしました。
芥川賞候補作なので、仮想通貨を巡る超ミステリー!(何?)とかではなくて、物語構造を分析したくなるような物語でした。
上田岳弘「ニムロッド」(群像12月号)の主人公はシステムエンジニアの中本哲史(なかもとさとし)。
中本はある日社長に呼ばれ、余ったサーバーでビットコインを採掘する新規事業を任される。
任されるとはいえ従来の業務に加えた副業的なもので、担当も一人だけ。自分の名前がビットコインを作ったとされる「ナカモトサトシ」と同じ名前だからノリで任されたのか? と訝りながらも、中本は余ったサーバーでマイニング(採掘)業務を行う。
中本は感情をあまり表に出さないタイプで、心情描写や他者とのやりとりでもどこか無機質な感じのする人物だ。
仕事以外で中本が接するのは恋人の田久保紀子と名古屋支社に勤める同僚のニムロッド。
田久保は外資系企業に勤め、激務の合間を縫うように中本と会う。ニムロッドはメールのやり取りが中心で、ニムロッドは中本に向けて「駄目な飛行機コレクション」という謎の文章を送りつけてくる。
中本は淡々と仕事をこなし、仕事が終われば田久保の疲れを癒し、ニムロッドの謎の文章につっこみ、適度な距離で対応する。
それはまるでシステムの不具合を修正しているかのように映る。
中本の対応は適切で無駄がない。
それとは対照的にニムロッドは「駄目な飛行機コレクション」を送り続け、答えのない問いを発信し、どこにも発表しない小説を中本だけに発表する。
「ねえ、中本さん、僕は思うんだけど、駄目な飛行機があったからこそ、駄目じゃない飛行機が今あるんだね。でも、もし、駄目な飛行機が造られるまでもなく、駄目じゃない飛行機が造られたのだとしたら、彼らは必要なかったということになるのかな?
ところで今の僕たちは駄目な人間なんだろうか? いつか駄目じゃなくなるんだろうか? 人間全体として駄目じゃなくなったとしたら、それまでの人間たちが駄目だったということになるんだろうか? でも駄目じゃない、完全な人間ってなんだろう? って聞かれても困るよね。とにかく僕は今、そんなことを考えながら筆を進めているよ。」(22頁)
この物語は「こういう物語です」と一言で説明するのが難しい。
難しいのだけれど、読みながらいろんな感情が湧きたち、わたしの琴線に触れてくるのだった。
わたしは読みながら悲しくなってしまった。
時代が進むにつれて、たくさんの便利なものができた。今やスマホは無くてはならないものだし、仮想通貨もきっとこの先もっと普及していくだろうし、新しいものの普及に伴ってもっと便利なものができていくだろう。
わたしたちの生活の手間や時間はどんどんかからなくなって、どんどん無駄のない暮らしになっていくのだろう。
けれど、無駄のない完成されたものに対面すると何故だか悲しい気持ちになる。
完成されたものの裏には「駄目な飛行機」みたいなものがきっとたくさんあって、それらは「駄目だったね」と揶揄されて存在を否定されるばかり。
「駄目な飛行機」はそもそも飛ばなかったり、着地に失敗してパイロットが亡くなったり、パイロットの生存を考えない凶悪な兵器にしてしまったりと、つっこみどころが満載である。
けれどそれらを「駄目だったね」と否定することで人間は「完全」なものに近づくのだろうか?
そういう「駄目な飛行機」を作ってしまう可能性はこれからどんどんなくなっていくのだろうか?
きっとそんなことはない。
ニムロッドはそういう駄目なものに思いを馳せる。
ニムロッドは仕事のかたわら小説を書いていて、ひとすじの「完成」を目指して膨大な「駄目」を積み重ねていたけれど、最終的に心が折れ、やるせない思いでいっぱいになってしまうのだった。
この物語で中本はブロックチェーン(ビットコインの取引台帳みたいなもの)のような機能を果たしていると感じた。
彼らの「取引」から垣間見えるのは人間が持て余した衝動とやるせなさだ。
わたしにも心当たりがある。
このブログだって「こんなこと書いてなんの意味があるんだろう」「今すぐお金に代わるわけじゃないのに」と一蹴することができる。
けれど、書かずにはいられない。
言葉にしがたい「衝動」と呼ぶべきものがわたしを突き立てて、結果として膨大な「無駄」かもしれないものに向かって集中させるのだ。
もし完全に無駄のない時代が訪れたら、これらは一体どうしたら良いのだろう。
駄目なものを量産したってしょうがないと割り切れるか。中本のように無機質な涙を流して「処理」できるだろうか。
そんな風に思って悲しくなってしまった。
「ニムロッド」は無機質な雰囲気と人間の感情や衝動が同居した物語で、読みながらすごく不思議な気持ちになった。
洗練されているけれど泥臭い? という感じ。
それこそが人間の本質なのかもしれない。
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